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報じられない「火力発電頼み」の限界(1)―夏目幸明(ジャーナリスト)

2012年11月12日公開

◆その罵倒は誰のためのものか◆


 今年7月5日、関西電力大飯原子力発電所(福井県おおい町)が再稼働し、関西電力は火力発電所を停止させた。すると7月8日にある新聞社がそれをスクープとして掲載した。タイトルは「大飯フル稼働 火力8基停止」「関電に怒り“電力不足ウソか”」というもの。記事は続けて「報道を知った大阪市民からも『大飯再稼働は関電の利益が目的だった。これで電力不足は全くのうそであることが明らかになった』『詐欺かペテンか。あまりに腹が立って言葉がみつからない』との憤りの声があがっています」と報じていた。

 筆者は疑問をもった。原子力発電所の特性上、再稼働したら、いったん火力発電所を停めるのは当然ではないのか。原発は一度動かし始めたら、一定の出力で運転することが望ましい。一度発電を始めると、出力を上げにくく、下げにくいのだ。一方、火力発電所のなかでも石油、LNG(液化天然ガス)が燃料のものは、自動車のエンジンや家庭のガスコンロと同じで、出力の調整が比較的容易である。だから、たとえば暑い日の13~16時など、電力需要のピークの時間帯に出力を上げる。とすると、いったん原子力発電所が動いたなら、火力発電所はいったん停めるのが当然、ということになるはずだ。

 関西電力の広報部に問い合わせると、次のような答えが返ってきた。

「事情はお考えのとおりです。加えて、夏のピーク時に向け、火力発電所の整備・点検をする時間ができたので、まさにいま、この作業を行なっているところです」

 発電施設は、膨大な数の部品すべてが正常に動かなければ運転できない。たとえば、今回取材した関西電力海南火力発電所(和歌山県海南市)の2号機であれば、長期計画停止からの復旧時、検査箇所数は、配管が約2200カ所、弁が約4400台にも及んだ。これほどに膨大な数の部品があるのだ。とすると、原発の停止以降、フル出力で稼働してきた火力発電所の検査をし、夏のピークに向け万全の体制を確立することはむしろ当然。逆に、火力発電所を停止させなければ、自動車にたとえれば、信号待ちのときにアクセルを踏み続けるようなことになる。それこそ、職務怠慢であろう。

 ちなみに、このときに答えてくれた関西電力の広報担当者と筆者とは、過去に何の接点もなかった。しかし筆者が電話をかけると、すぐに回答を寄せてくれた。初めて話す人間でも、電話1本で回答が得られるのだ。新聞社が火力発電所の停止に疑問を呈するなら、市民の声だけでなく、当事者である関西電力の事情も聞くのは当然ではないのだろうか。

 しかし、このニュースはネットで“拡散”され、掲示板には「氏ね(ママ)関電職員」「原発止めて代わりに火力動かせよクズ感電」といった誹謗、中傷といっていいコメントが寄せられた。一方、まるで「電力会社憎し」と言わんばかりの報道に疑問を呈する人もいた。「老朽化した施設まで持ち出して稼働し続けたのが異常なんだよ」(=いったん止めるのは当然)といったコメントも見られたのだ。

◆“昭和”に戻ったような機械◆


 どちらの意見が正しいのか? 筆者は今回、この「老朽化した施設」に向かってみた。余裕はほんとうにあったのか、それともなかったのか――。取材先は関西電力海南火力発電所と、中部電力渥美火力発電所(愛知県田原市)だ。前者の「海南」は1~4号機まであり、すべて昭和40年代の運転開始。後者の「渥美」は長期計画停止中の1号機が1971年、3、4号機は1971年の運転開始だ(2号機は廃止)。

 現地を訪れると、素直な印象は「古い機械だなぁ」というものだった。たとえば中部電力の「渥美」の計器類はアナログが多く、中央制御室の赤や白に光る計器類の光源はLEDでなく電球。ボイラー内の炎を確認するディスプレーは液晶でなくブラウン管。すべてが“昭和”に戻ったような機械だった。

 関西電力の海南発電所所長・辻靖介氏によれば、そうした古い機械が、現在も「フル稼働に近い状態」なのだという。

「海南は、燃料が石油です。しかも古い機械なので効率が悪く(自動車に置き換えれば燃費が悪く)、弊社のさまざまな発電所のなかでも動かす優先順位は低い。ところが昨年から今年の夏にかけて、ほぼフル稼働が続いているのです」

 日本中の電力会社は、水力や石炭、石油など、さまざまな発電所をもっており、動かす優先順位がある。まず、水力は燃料費がいらず、環境への負荷も少ないため、優先的に動かされる。次に石炭火力。LNGや石油に比べ燃料費は安いが、出力は変えにくいため、これは1日中、一定の出力で運転される(この運転形態は原子力と同じ)。

 その次がLNG火力である。石炭より燃料費は高いが、石油のように燃料の調達先が中東に偏っておらず、環境への負荷が低い。また出力調整が容易なため、ピーク時に運転される。その次にようやく石油火力の出番だ。ガス同様に出力調整は容易だが、調達先が限られ、かつ石油火力は昭和期の主力だったため、一般的に機械が古く、効率が悪い。つまり、自動車でいう燃費が悪い。だから、ピーク用の電源としては、LNG火力よりも優先順位は低く、いわば“電力需給を満たす最後の砦”という扱いだ。

 辻所長が話を継ぐ。

「実際に、震災前の2010年の10月や11月は、当発電所は1日も稼働していません」

 要するに、老朽化し、効率も悪い発電所が、現在はピーク時の夏だけではなく、秋も冬も稼働し続けているのだ。これがさまざまな「歪み」を生んでいる。

「そもそも、これだけ連続運転することを想定していなかったため、たとえば、燃料を運ぶ船が足りない。当社は近くの石油コンビナートから海南発電所まで燃料を小型の船で運びますが、この船が運べる燃料の量は、一往復当たり(発電所がフル稼働している場合)約10時間分にすぎません。当然、発電所には燃料タンクがありますが、24時間連続運転すると、ほぼ10日でなくなってしまう程度の容量です」

 さらなる問題がある。

「燃料費も嵩みます。当発電所の燃料消費量は1~4号機まで合計すると、1時間当たり482,000リットルにも及びます」

 そう聞いても、どこか実感が湧かないから、身近なものに置き換えてみた。仮に自動車を使い、高速道路を1時間で80km走ったとしよう。燃費は1リットル当たり20kmとする。すると、この自動車は1時間で4リットルの燃料を消費する計算になる。これを海南発電所の発電機をフル稼働させた場合に当てはめて計算すると、1時間当たりでこの自動車120,500台分もの燃料が必要になる。

 これが、電気料金の値上げに直結してくる。原子力発電は、施設をつくるためには膨大な資金が必要(100万級の発電機1基当たり、現在、4000億~5000億円程度)だが、燃料費は安い。これがすべてLNGや石油に変わったため、電力会社は赤字に苦しんでいる。

 というより、現在の電気料金では経営が成り立たない。関西電力は2012年3月期に、過去最悪の2,422億円の税引き後赤字を計上し、このまま料金を据え置けば13年度中にも、債務超過に陥る可能性がある。大阪読売新聞は「関西電力はこの赤字を解消するため、家庭向けで平均18%、大口向けでは平均27%の値上げが必要と試算している」と報じた。

 化石燃料費の増加で経営が逼迫しているのは、中部電力をはじめ各電力も似たような状況だ。東京電力に引き続き、各電力が電気料金を値上げすると、日本の経済は間違いなく減速するはずだ。

 しかし、以下のような考え方もあろう。「それでも、やりくりすれば電気は足りているではないか」「経済的事情よりも、脱原発のほうが重要」というものだ。筆者も、もっともだと考える。だが、現状の火力依存は経済的事情よりも、大きな問題を抱えているのだ。

◆トラブルは「起きる」もの◆


 それは、トラブルのリスクだ。先にお伝えしたように、火力発電所は膨大な数の部品でできており、そのどれか一つにでも不具合が生じれば、修理が必要だ。それが主要部品であれば、即刻発電できなくなる。そして筆者はあえて発言したい。発電所のトラブルは「起きる」ものなのだ、と。

 具体例を紹介したい。まず中部電力の渥美火力発電所の例だ。同発電所は9月に、定格出力70万の3号機を停止させざるをえない状況に陥った。所長の安藤友昭氏が話す。

「私たちは、国によって定められた整備、点検だけでなく、日々、自主的に確認・点検を行なっています。担当者は長年の経験で、機械の調子が悪いとわかるものなのです」

 9月18日の朝9時半のことだった。35歳になるベテラン作業員が、3号機のボイラーの前で足を止めた。水がポタリポタリと垂れていたのだ。彼は一瞬、雨水かとも思ったという。しかし通常、この位置から雨が漏れることはない。彼は「異常の可能性がある。点検したい」と報告した。幹部も同じ箇所をみたが、やはり異常の可能性があると意見が一致。副長が中部電力本店の中央給電司令所に「出力を絞りたい」と緊急連絡を入れた。本店は、電力の需給状態を鑑みながら、これを了承。ただし安藤氏は指令を出した。「今後の電力の需給に悪影響を及ぼしてはならない。可能なかぎり早く復旧せよ」――。

 安藤所長が振り返る。

「そこからの作業は、ほぼ突貫工事です。作業員の方たちはがんばってくれました。まず、空冷や水冷を問わず、すべての手段によって、ボイラー内の温度を下げました。高さが60mもある巨大なボイラーの内部が、800度近い高温になっているのです。そして夜中の0時近くにようやく80度程度まで下がると、すぐボイラー内に足場を組んで、点検を開始しました。すると、作業員の一人が“ああ、ここだな”と声を挙げた。そして彼は、熱水が通る管に、十数mmの亀裂を発見したのです」

 ちなみに火力発電所のボイラーは、家庭にあるものに置き換えれば、湯沸かし器に似ているという。みれば、水が滴り落ちていた。安藤所長は異常箇所を突き止めたことで、ひとまず安心し、そしてトラブルに気付いた作業員をねぎらった。部品の亀裂は長く放置するほどに大きくなり、復旧に数カ月以上かかる可能性もあった。だが、早期発見に成功したため、その後の復旧は早かった。実際に、渥美火力の3号機は9日間で復旧を果たしている。(以下、(2)に続く)


■ 夏目幸明(なつめ・ゆきあき) ジャーナリスト
1972年、愛知県生まれ。早稲田大学卒業後、広告代理店に入社。その後、雑誌記者に。小学館『DIME』の「ヒット商品開発秘話 UN.DON.COM」や講談社『週刊現代』の「社長の風景」などを連載。 著書に『ニッポン「もの物語」』(講談社)などがある。

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『Voice』2012年12月号
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