正月、娘に促されて母の墓参りをした。
私は墓参りが苦手である。あの、石の墓標に何の愛着も感じないからだ。娘は意外と律儀?で、「行かなくちゃダメでしょ」とせっつくのである。そこで訪れて、墓石を磨いて、花を供えて、線香を立てて、手を合わせてきた。
ところで、私はどこの墓に入るのだろうか。この墓に入るのか……と考えた際に、頭に浮かぶのは樹木葬である。
私が『樹木葬という選択~緑の埋葬で森になる』(築地書館)を出版したのは、2016年だから5年前になる。ちゃんと重版がかかったから、そこそこ売れた本なのだが、発売直後はそれなりに声がかかって講演やら原稿執筆を行ったが、やがて音沙汰がなくなった。拙著のラインアップからすると特異すぎるのだろう。一見、森林とも林業ともつながらないからか。私的には樹木葬で森を守り育て、限界地域を活性化する壮大な可能性を描いたつもりなのだが。
しかし、昨年あたりから再び声がかかり始めた。樹木葬墓地をつくりたいという人から連絡があるのだ。
実際、各地に「樹木葬」を名乗る墓地は増えてきた。ただし、私の基準からするとまがい物が多すぎる。なかには「木のない樹木葬」さえある。芝生に埋葬するのだ。スペインから輸入した巨大なオリーブの木を真ん中に植えて、その周りに石の墓板 (゚o゚;) を並べる「樹木葬」もあった。墓石の代わりに樹木を、という基本さえ無視されている。「自然に帰る」という理念もない。
樹木葬の定義自体が蹂躙されたと言ってよい。墓石があるのに、なぜ樹木葬なのか……。単に墓石の周囲に花木があるだけだ。植木の世話は墓石以上に大変だし、遺族は継承が大変になるだろう。
そんな中、大阪府の公設霊園(大阪北摂霊園)に樹木葬エリアを設けて、今春開園するというニュースがあった。この霊園は総面積98ヘクタールもあり、山の中に広がる巨大霊園である。私も訪れたことがあった。縁者が眠っているからだ。
この広大な敷地の一部の森に生えている木を墓標にするドイツ式(正確にはスイス式)だそうだ。樹木葬エリアは「木もれびと星の里」と名付けるという。広さは6500平方メートル。232本の木立から自分で木を選び、その根元に埋葬できるようにするそうだ。ほか集合墓も設ける計画だ。計約2000人分の区画ができるという。契約金額は1件15万~120万円に設定するらしい。
まだ完成していないし、詳細はわからないが、私の定義する樹木葬になんとか含められそうだ。(定義については省略するが、世界的には「緑の埋葬」と呼ばれる潮流に関わっていること。拙著をお読みください。)
なぜ、各地に樹木葬墓地(エリア)が設けられるようになったかというと、近年、通常墓の契約数が減少しているからだそうだ。死者は増えているのに墓地が売れなくなってきたのである。一方で、2019年の墓の購入のうち4割が樹木葬だったという統計もある。
これは母数がネットで墓の資料請求をした人の中で、という条件がつくし、何より樹木葬を名乗っているだけで、中身はいい加減なものが多いから数字そのものは信用ならないが、少なくても樹木葬(という言葉)は人気があって、希望者が急増しているのは間違いない。
しかし、本当に満足できる墓になるだろうか……私も、自分が入りたくなる樹木葬墓地を作りたいなあ。と、正月から終活を考えてしまったのであった。