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岸信介が、ノーベル平和賞に推薦されていたというのにはさすがに驚かされる

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雑誌「世界」12月号を読んでいて、「おや」と思いました。高崎経済大学教授の吉武信彦氏による「ノーベル平和賞と日本──歴代日本人受賞者・候補者が問いかけるもの── 」という論文です。

この論文によると、岸信介が1960年にノーベル平和賞候補に推薦されていたというのです。これには驚きました。岩波のHPの紹介文です。
 京都大学の山中教授が医学生理学賞を受賞するなど、今年も、ノーベル賞の発表に大きな注目が集まった。日本では、例年、自然科学三賞や文学賞の行方が熱心に報じられているが、1974年に佐藤栄作元首相が授与された平和賞については、以来、新たな受賞者が出ることもなく、「日本人以外が受賞するもの」とのイメージが強いのかもしれない。

 だが、その候補者、そして選考のプロセスに着目すると、日本人とノーベル平和賞が、決して無縁ではなかったことがうかがえる。1901年~1961年までに候補となった四人の日本人に光をあて、賞によって浮かび上がる、国際政治の「理想と現実」について考察する。

よしたけ・のぶひこ
高崎経済大学地域政策学部教授。国際関係論 (EU・北欧研究)。1960年生まれ。著書に『日本人は北欧から何を学んだか』(新評論)、『国民投票と欧州統合 : デンマーク・EU関係史』(勁草書房)、『北欧・南欧・ベネルクス (世界政治叢書)』(共編、ミネルヴァ書房) など。

いうまでもなく岸の弟である佐藤栄作は1974年に平和賞を受賞していますが、それよりずっと前の60年に岸が平和賞に推薦されていたというのは私にとってはかなりの驚きです。 

岸に対する評価うんぬん以前に、不起訴になったとはいえさすがに戦争犯罪人(A級戦犯)として逮捕された人物(ついでに、デモを鎮圧しようとして自衛隊を導入しようとした人)にノーベル平和賞はないだろうと思うし、実際彼は受賞するにいたりませんでしたが、その岸を推薦したのが米国の上院議員とそいうのも非常に興味深いものがあります。

ノーベル賞の選考過程というのは、50年たたないと公表されないとのことで、1960年のこの推薦はまさに判明直後ということになります。岸以外にノーベル平和賞の候補として推薦された日本人としては、渋沢栄一賀川豊彦らがいます。賀川が平和賞候補として推薦されていたことくらいは私も知っていましたが、しかし岸信介というのはいくらなんでも「なんでまた」というのが私に限らずたいていの日本人の正直なところじゃないでしょうか。

たぶん岸信介を支持する人も、彼に批判的な人も、この推薦にはそうとうな驚きと意外感があると思います。私は言うまでもなく岸信介に批判的なスタンスを持っていますが、正直岸を支持している人たちは、「パワーポリティクス」とか「リアルポリティクス」とかが大好きな人たちが多いでしょうから、あんまりノーベル平和賞なんてものに価値を見出さない人が目立つんじゃないかと考えますので、そうするとやはりかなり意外な感を持つことを禁じえないのではないかと思います。いや、佐藤栄作は受賞しているからそうでもないのかな。ほかはともかく、ノーベル賞は別格とか。

あ、どうでもいい話ですが、私は岸信介を大好きな人たち(たとえば産経新聞とか国家基本問題研究所とか)の考える「リアルポリティクス」なんて、なんら「リアル」とみなしません。本論とは関係ないことですが、いちおう断っておきます。またもちろん私は、ノーベル平和賞というものをそんなに無条件にすばらしい賞だと考えているわけでもありませんが、これもこの記事の趣旨とは関係ない話ですので省略します。

それはともかくそう考えると、岸の孫の安倍晋三はどう考えているのかなと思います。安倍がこの件を知っていたのかどうか私はもちろん知りませんが、知らなかったとしてもこの論文の発表で安倍はそのことを知ったわけです。安倍は、岸が受賞しなかったことを「残念」と思うか、そんなものを受賞しないで「よかった」と思うか、それともなんとも思わないか、むろん安倍の内心はわかりませんが、いろいろ興味深いところです。

現実問題として、岸信介にノーベル平和賞が与えられる可能性は低かったでしょうが、言うまでもなくこれは岸だけの問題ではなく、当時の日本を取り囲む冷戦や米国の対外政策、その他国際政治状況の一環として岸の推薦があったわけです。岸を推薦したのは、上のように米国の上院議員でした。この上院議員氏がどのような思惑で岸を推薦したのかは判然としない部分があります。しかしこれも、徐々に明らかになっていくのかもしれません。この人は71年に死亡しているので、佐藤栄作の受賞を知ることはありませんでした。

岸信介は、佐藤栄作以上に戦後日本のさまざまな矛盾を抱え込んでいた男だったと思います。その人物の隠れた一面を明らかにした当論文を、ぜひ読んでいただきたいと考えて今日の記事を終えます。

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