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コロナ禍における不祥事リスクとの向きあい方-東電元エースの告白から考える

本日(1月5日)の朝日新聞WEBでは、企業不正に関与した中堅幹部の、トップに逆らえない悲哀を報じた記事が重なりました。ひとつは日産ゴーン氏・金商法違反被告事件でケリー被告の証人に立ったO氏(検察庁との間で司法取引を行った方)の証言内容を報じた記事であり、もうひとつは東京電力を数年前に退職された50代の企画部出身の方(出世街道を走っていた元エース、ここではA氏としておきます)の告白記事です。とりわけ後者の記事は、匿名であるものの、詳細な経歴と年齢、所属部、退職時期が記されており、覚悟のうえでの告白であることがわかります(有料版記事ですが、「原発事故、起こるべくして起きた」東電元エースの告白)。

東電自身による事故調査委員会が立ち上げられたとき、A氏は報告書のとりまとめを命じられたそうです。A氏が肝心の事故原因の分析結果をまとめようとしたところ、東電の当時の会長ら経営陣から厳しく「なんでお前が事後原因を決めるんだ。事実以外は書くな」と命じられたそうです。要は「想定外の事故だった」というシナリオに落とし込むことが求められていた、ということ。もちろんA氏は東電社員であるがゆえにこれに従うわけですが、これを後悔して「2002年に発覚した原発のトラブル隠しが(東電原発事故の)すべての始まりだった」と告白しています。

このトラブル隠しを契機として、東電は原子力部門の内部統制を強化することになりますが、その強化の手法は「細かな事故・不具合があれば全部報告せよ」ということで、現場には詳細な内部統制ルールの整合性が求められていた、とのこと。しかしながら、A氏が現場責任者に「もしチェルノブイリやスリーマイル島のような事故が発生した場合、放射能を外部に放射するようなリスクシナリオはないのですか」と質問したところ「そういったリスクは全部排除されているのであり得ません。安全はすでに確立しています」との回答が返ってきたそうです。

事故は起きない、起こしてはいけない、という発想でリスクマネジメントを実践することは理解できるのですが、事故は起こる、起きた時にどうするのか、という発想でリスクマネジメントを実践することも当然必要です。そのような発想が欠落しているのであれば、経営陣に法的な責任が及ぶこともありうるように思います。

もちろん電力会社が「事故は起きる、ということを想定した対策」をとれば、発電所の地域住民から「ほらみろ、運転している電力会社自身が安全でないことを認めているではないか」と厳しく指摘されます。しかし、そこを逃げずに説明を尽くすこともリスクマネジメントの実践です。「面倒なことには蓋をしろ」という姿勢は、もはや現在ではコンプライアンス違反(コンダクト・リスクの顕在化)になりそうです。

昨年4月以来の緊急事態宣言が明日にも発令され、海外とのビジネス交流も途絶えそうな状況の中で、日本企業の今後の経営環境は全く見通しが立ちません。今年から来年にかけて、「不正リスク」をはじめとする多くの事業リスクが日本企業に顕在化することは間違いないでしょう。ただ、福島原発事故から10年が経過した今日、なにか重大なリスクが顕在化したとき、企業の経営陣からは「想定外」という言葉がよく聞こえてくるようになりました(そのような言葉が出ないようにBCPも整備してきたはずだとは思うのですが・・・)。情報漏えい事件を起こした企業などは、「情報セキュリティの脆弱性については想定外だった」と言い訳するのが常套手段となりました。

もちろん、本当に想定外の事態も考えられるのですが、そもそも「事故や事件は起きる。不祥事もかならず起きる。起きたときに、御社はどう対応するのか?守るべきステークホルダーの優先順位はきちんと共有されているのか?」といったことを考えてこなかった(いや、考えてこなかった、というよりも社内での適切なコミュニケーションができていなかった、といったほうが適切でしょうか。たとえば「根拠なき安全神話」への妄信、会計不正事件の発覚を前提としたコーポレートガバナンス・コード補充原則3-2②ⅳの無視等)のであれば、もはや現状では(社外役員も含めて)取締役や監査役の善管注意義務違反と評価されてもしかたがないのではないか。

コロナ禍での会社経営は、それほどの有事に立ち至っているように思います。金融緩和政策と並び、近時の株高の根拠とされている308兆円もの手元資金が活用されるべきであれば、ESGと同様、有事を想定したリスクマネジメントという「無形資産」に投資することも不可欠だと考えます。

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