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なぜ中国は技術覇権にこだわるのか 国家戦略を読み解く

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大国としての中国とどう向き合うのか。いま、日本社会が突きつけられている問いである。中国の国家戦略を読み解きながら考えてみたい。

中国指導部が掲げる国家戦略を理解するための手掛かりがある。2020年10月末に開催した中国共産党の会議(中国共産党第19期中央委員会第5回全体会議)に対して、習近平指導部が示した「国民経済と社会発展の第14次五カ年計画と2035年長期目標の制定に関する共産党中央委員会の提案」である。これには21年から25年までの五カ年の経済社会の発展戦略と35年までの長期目標が描かれ、21年3月の全国人民代表大会で国家の意思として承認される見通しである。

ただし「提案」を、そのタイトル通り5年、15年という短中期の戦略を描いたものと理解すべきではない。習近平の言葉を借りれば、それは21年の共産党創立100年までに「ややゆとりのある」社会を全面的に完成させたのち、「勢いに乗って、近代的社会主義国家の全面的な建設にむけた新たな征途を開き」、49年の建国100年までに「近代的な社会主義強国」を構築するための基本方針を示すものである。


2021年に創立100年を迎える中国共産党。49年の建国100年までに「近代的な社会主義強国」構築を目指す (KEVIN FRAYER/GETTYIMAGES)

指導部は、自らの国家戦略を修飾するスローガンとして、「中華民族の偉大なる夢」を掲げてきた。これを実現するためにセットしたタイムスケジュールが、建党と建国の「2つの100年」であった。「提案」には、建党100年を超えて、建国100年(49年)に向かう歩み、という大きな絵が示された。

「提案」は、一つの国際情勢認識によって支えられている。国際社会は「100年に一度の未曾有の変化に直面している」である。指導部は、国際社会のパワーバランスの変化、その結果生じる国家間のルールの変化、そして科学技術革命と産業変革の深化がこれらに拍車をかけていると見なし、国際社会の複雑性、不安定性、不確実性への警戒を抱いている。

また「提案」では国名を明示していないものの、経済成長に伴い国力を増大させた中国が地域のパワーバランスに影響を与えていること、米国の国力の相対的な後退、米中対立、そして新型コロナウイルス感染症の蔓延による世界経済の低迷は長期的傾向だと捉えている。指導部は、こうした国際社会の長期的傾向を念頭に、それが生み出すリスクへの備えと、チャンスに変えるための戦略を「提案」に示した。

「提案」の論点を説明する習近平の署名入り文書によれば、「提案」は、この戦略を実装するために取り組む国家の重要任務を12の分野に整理した(下図)。筆頭に掲げられたのが科学技術の革新である。イノベーションをその核心的位置にすえ、科学技術の自立と自彊(じきょう)を国家発展の戦略的支柱とすること、などが語られた。


(出所)関係資料を基にウェッジ作成 写真を拡大

すでに第13次五カ年計画期間中(16年~20年)に、「中国製造2025」「中国標準2035」などの科学技術振興に関する政策方針が示され、イノベーションは重要政策の第一の柱として掲げられていた。第14次五カ年計画は、これに「科学技術の自立と自彊」や、人工知能や量子技術、宇宙などの先端分野を射程に入れた「鍵となる核心技術の攻略戦に打ち勝つ」といった言葉を加えていた。「提案」は、技術覇権争いに臨む指導部の決意が示されているといってよい。

生き残り戦略としての科学技術革新

ただし、この決意を国際的な変化に対してのみの指導部の反応と捉えるべきではない。「提案」が示すもう一つの注目すべき戦略「2つの循環(双循環)」は、突発的なリスクと対米関係悪化の長期化を念頭に置いた反応、すなわち自力更生への回帰と一般的に理解されている。

「2つの循環」は、海外需要と投資に依存する経済発展モデルとともに、消費需要を中心にした内需を好循環させて質の高い経済成長を目指そうとする考え方である。たしかに「提案」が、国内を重視することの必要性を強調していることに、国際社会の流動化に対する指導部の強い危機意識、という反応を読み取ることはできる。

しかし指導部が「提案」を立案したより重要な動機は、国内の変化にある。その変化は、1980年代以来、歴代の指導部が推進してきた「改革開放」という経済社会の発展戦略の転換の必要性を生み出した。

90年代以来、共産党は「発展こそ堅い道理」とする開発主義を掲げ、必要な国内外の環境を共産党による一党支配が保障する改革開放路線を歩んできた。高度経済成長の成功は、開発主義を提起した共産党による支配の正当性を支えてきた。しかし国内情勢の変化は、この開発主義の発展戦略の妥当性に疑問を呈している。指導部は、一党体制を維持するために新たに何をするべきかを突きつけられている。

「提案」は、従来の五カ年計画のように具体的な経済成長率の目標を示していない。代わりに、経済の質と効率の向上を追求し、持続的で健全な成長を目指す方針を掲げた。これについて習近平は、前述の「提案」の論点説明文書で、「提案」の立案過程で一部の地方や部門は成長目標を「2025年までに高所得国レベルにし、35年までにGDPと一人当たり所得の(20年比)倍増は可能」と主張したが、国内外の不安定要素が比較的多く、加えて新型コロナのパンデミックによる影響を考慮し「経済構造の最適化により注力することにした」と告白していた。

「提案」は開発主義にもとづく発展戦略からの脱却の宣言といってもよい。17年11月に開催された19回党大会の報告が「わが国社会の主要な課題は、国民の日増しに増大する豊かな生活に対する要求と現実に存在する不均衡で不十分な発展との間の矛盾だ」と論じたように、指導部は中国経済が既に高度経済成長を終え、中所得国に向かう段階に入っていることを自覚している。

例えば、「提案」発表の直前、国務院傘下のシンクタンクが、中国社会が急速な高齢社会へ移行することへの対応を国家戦略として位置付ける報告を発表している。そうした意味において「提案」は、改革開放後の時代の生き残り戦略を描いたともいえよう。

いま指導部は、人民の生活の質の改善を課題と位置付けている。「質の改善」とは、「人民大衆の獲得感、幸福感、安全感への配慮とその向上の必要性の重視」である。経済成長による物質的豊かさという要求の先にある欲求である。この新しい要求に応えるための切り札が、「提案」において重要任務の第一に掲げられた科学技術の革新である。デジタルインフラを活用することで、中国社会が構造的に抱える地域の格差や貧富の格差、資源所得配分の不均衡をはじめとする「改革開放」が積み残した課題と新しい要求という、習が言う「国内外の不安定要素」を解決しようとしているのである。

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