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紳士協定を復活させ、大学教育を改革すると、日本は復活する!(後編)

学生を「お坊ちゃん」「お嬢ちゃん」と認識する

今や大学生は、自分のことを「学生」ではなく「生徒」と呼ぶ。実際、学生のほとんどは「お坊ちゃん」「お嬢ちゃん」。親もそういう感覚の人間が多い。たとえば授業に対して、親が平気でクレーム付けに来るなんていうモンスター・ペアレンツは大学にもいるのだ!(「学費を払ったのは私(=親)だから、大学教育の実態について注文を付ける権利がある」なんて平気で言ってくる親も)。また入学式や卒業式は卒業する学生の三倍ほどの収容数を確保できる会場が必要というのも、もはや常識。親が参観するからだ。

ということは、必然的に大学教員の職務の一つは「学生」ではなく「生徒」に対する対応、つまり「生徒指導」ということになる。いうならば「心身の指導」が要請される。

アカデミックスキルの「基礎」を教えることが大学の使命となる

全入時代なので、ほとんどの学生に勉学意欲は低い。だまっていても、どこかへ入れる。だから、今風の表現をすれば”何気で”入ってきただけ。また受験戦争と言った「試練」もないので、打たれ弱く、粘り強くもない。だから強制的にモチベーションを付けることも出来ない(大学の多くが推薦入試と称して受験生の青田刈りをやっている。ちなみに以前と違い推薦で入学する学生=生徒は一般入試、つまり通常の試験選抜で入学した学生より確実に学力が低い。言い換えれば、もし推薦で不合格になったならば、その生徒がその学校に一般入試で合格する可能性はほとんどない)。

だから、教育も「生徒指導」のレベルでやる必要がある。より具体的に言えば、もはや大学は専門教育機関ではなく教養教育の機関と考えるべき(専門教育は大学院以降)。ならば教養教育、基礎教育に重点をあてた教育が必須。具体的にはミニマム・エッセンシャルズという「アカデミズムの基礎」を養う機関と位置づけるのが正しい。つまり、大学で学ぶことは「情報の集め方」「情報の整理の仕方」「情報の発信の仕方」というメディア・リテラシー教育とグループワークに基づくコミュニケーション力の養成。文科省的に言うと“人間力”と言うことになる。とはいうものの、これは本来なら高校までの教育がやっておくべきことではあるのだが……。

しかしながら高校では情報の集め方を教えてくれない(ネットの使い方もまともに教えていない。というかパソコン嫌い。みんなケータイにアタマ突っ込んでいる。学生にとってパソコンとは「勉強するので買う必要があるもの」「就職のために買う必要のあるもの」という認識しかない。だから自発的に購入しようという意欲はない。大学がメルアドを提供してもレポート提出用以外にはほとんど使わない。使うのはケータイ・アドレス。ちなみにパソコンを渡すと彼らが積極的にやるのはYouTubeのブラウズ。2ちゃんねるすら見ない。最も最近はスマホの普及によってちょっと様子が変わりはじめているが)、情報の整理の仕方を教えてはくれない(たとえば良い店を探す技術がない。彼らにコンパの会場を探させると”和○”とか”笑○”とか”魚○”といった、チェーン店になる。当然「味盲」)、情報の発信の仕方を教えてくれない(レポートや文章が書けません。レポートを要求すると1200字を一段落で書いてくる学生、逆に全て改行して「箇条書き」という学生が必ず存在する。長い文章を書けと要求するとノイローゼになる。パワポも一枚のスライドに文章を500字くらい入れ、それをうつむきながら棒読みするのでプレゼンの意味がない)、話し合いやチームワーク方法を教えてくれません(発言できない。発言するとKYになるのではと懸念して発言しない。そのくせグループワークをやるとすぐに意見が対立し、気まずくなった人間は授業に出てこなくなる)。

なので、これを大学で鍛えるというのが、これからの大学のあるべき方向と言うことに、残念ながらなる(これが”ミニマム・エッセンシャルズ”というわけ)。ちなみに「学生」でなく「生徒」なので社会性も低い(遅刻、電車内の優先席に座りケータイをかけたり化粧をしたりする、禁煙と書いてあるプレートの前に仲間とやって来てタバコを吸うなど)わけで、となるとマナーや道徳の時間、つまり「しつけ=心身の指導」の時間も必要と言うことになる(できれば高校までに指導しておいてほしいのだが、中学高校の教員が社会性が低いというか社会的スキルが乏しいので教えられない。まあ大学教員もほぼ同じか、それ以下。まことに学生たちは可哀想だ)。ようするに、繰り返すが大学では文字通りの「生徒指導」が今、必要とされているのだ。つまり、 大学でおこなうべきことは、専門的な知識の提供ではなくて、基礎的なアカデミック・スキルとマナーや社会のルールを教えることなのだ。

大学は就職予備校を目指すしか、ない?

で、こういった教育は、以外なことに(っていうか、あたりまえなのだが)、実は就職率のアップに繋がる。というのも「アカデミック・スキル」は企業で企画を考えたりする際の、基本的な技術(価値判断を排除したり、構造的に物事を捉える能力)になるし、「コミュニケーション・スキル」はKYでない社員を養成することになるからだ。ということは、大学が少子化の中でサバイバルするためには「就職予備校」になるというのがベストということになる(僕は大学教員なので、この主張は自分の首を絞めていることになるのだけれど(笑))。

実際、大学は現在、アカデミズムについての教育よりも就活支援に力点を置くという方向に向かいつつある。就活訓練所みたいなことをいっぱいやっているわけで。就職率が悪いというのは大学イメージを低下させる大きな要因だから、大学としてもかなり切実な問題として捉えている。バカでボーっとしている学生たちは、放っておくとどこにも就職できない(多くの大学で、就職支援に割く予算は年々増大している)。彼らは就職活動がうまくいく、いかないという議論以前に、「就職活動とは何か」とか「就職活動の方法」を知らない。だから早め早めに大学の方から学生たちにキャリア教育と称して「君たち、就職の準備しなくちゃね」とクドクドと働きかける。リクナビ、マイナビの存在も知らないので、その説明と使い方、エントリー・シートの書き方の説明会をし、SPIや模擬面接をやらせてという具合に、尻を叩きながら就職戦線に学生を出していく、ってなことをやっているのである。僕は現在50代だが、自分が就活をすることになった八十年代の半ばの頃は、就職支援室こそあったが、それをどう使うのかは完全に学生任せで、大学はなんにもしないというのが普通だった。まあ、バブルの時代だったのでそれでもよかったのだけれど、それにしても隔世の感がある。

しかしこんなことでいいのだろうか?いいわけはないだろう。これじゃ教育にならないんだから。やはり就職解禁時期の法制化が、まず実施されなければならない。繰り返すようだが、そうしないと日本の将来はないと言っても過言ではない、そんなふうに現場で教育に携わる僕は切実に思っているのだが。

”人間力”養成プログラムの一つを提案する では、どんな修正案が考えられるか。 つまり、大学教育のスケジュールはどのようにすべきか。文系大学に絞ったかたちで一案を提示しておこう。ちなみに、これは「高校までの基礎教育がきちんと施されていない」そして「就職解禁が法制化された」という前提で大学側がスタンド・アローンで修正するプランだ(本来なら教育システム全体を見直さなければならないのだけれど)。

大学一~二年前期:基礎的なアカデミックスキルの修得(読み書き、パソコン。そしてグループワーク)。基礎ゼミによる少人数でのインテンシブな授業の中で、これらを培う。つまり、本来なら高校までにやっておかなければならない情報の集め方(ネット検索、文献検索、本の読み方)、整理の仕方(レジュメの切り方、情報整理の仕方)、表現の仕方(文章の書き方、論文の構成の仕方、プレゼンテーションの方法)、ブレーン・ストーミングの仕方といったものをひたすらたたき込む。

二年後期~四年前期:ゼミ活動を中心とした専門的な教育(但し基礎レベル)。ここで専門分野の入門レベルの知識とスキルを指導し、論文作成の準備(研究ノート、ゼミ論などの作成等)とする。グループ研究(フィールドワーク等)なども積極的に取り入れ「社会性」を養う。

四年後期:卒論作成と就活。就活しながら卒論を作るのだが、これは原則、個別指導とする。

こうすると結局、二つの技術、つまりアカデミックなスキルの基礎と、社会で立ち回ることの出来る能力の二つ、要するに“人間力”が養成されると、僕は思うのだが(もっともすでに、これくらいのことをやっている大学も存在する。残念なのは、それがごく一部であると言うことだ)。ちなみに、皮肉なことにこういった人間力に最も欠けた類いの人間は大学教員。だから、根本的な問題を指摘すれば、大学教員それ自体を変える必要があるのだけれど。そう、大学教育は民間企業の視点から見れば、ビジネスモデルからはほど遠い状態なのだ。大学運営と同じことをビジネスでやれば、まあつぶれるわな。トホホ……。

でも、やっぱりこれを大学教育がやらなければならないという現状は問題と言わざるを得ないなあ。

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