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昭和世代からの遺言、野中広務、激動の86年

政治家の野中広務氏に、「昭和世代からの遺言」というテーマで講義をしていただきました。

野中氏の歩んでこられた激動の86年を振り返りながら、政治家を目指す人に向けたメッセージを語っていただきました。

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はじめに

皆さんを前にして、私は本当に先ほどからもう泣きたいような気持ちです。こんなに若い人が故郷を思いそしてこの国を想い、この国の将来と世界のことを考えておる人が日本に居たんだと。

私どもは日本をぐちゃぐちゃにした時代の人間であります。我が国はだめなようなことを言われておるけれども、こんなにもまじめに真剣に、こうして遠いところから寄ってくれる若者がおる限り、我々が経験した以上の日本を、あるいは我々が経験した不幸のない日本を必ず皆さんは作ってくれる。 そんな気持ちを強くしたわけです。

小学校

私は、京都の北の方の、丹波の園部という町に生まれました。 私はその町で公立幼稚園に通っておりました。その当時、私の地域から公立の幼稚園に行けたのは私一人でありました。 そして幼稚園において勉強し男女共学でその時代に勉強しておったのであります。 おかげで私は幼稚園に行ってそれから小学校に行くことになったわけです。

中学~終戦

昭和 18 年に旧制中学を卒業しそして 2 年間勤務をした後、昭和 20 年の 3 月に招集を受けて軍隊に入りそして高知の中部 63 部隊に入隊をして 1 週間後に幹部候補生の試験を受けました。

旧制中学以上であれば訓練をしてそして試験を受ければ陸軍予備士官学校というところに入って将来陸軍の指揮を執る将校になれるという道が開かれておりましたので私もその道に入ろうとして試験に合格をし、今度は丸亀の連隊に行きまして丸亀でまた予備士官学校の生徒の訓練を受けたわけであります。

皆さんにとったら想像もできないことと思いますけど、もう大変なことでございました。そんな状況でしたので、私は終戦を終戦の 2 日後に知りました。戦争が終わったというのを知らなかったのです。

昭和 20 年の 8 月の 17 日に私は連隊本部に我々の部隊の糧秣をもらうために三輪車に乗り 4 人友人と一緒に行きました。お米をもらいそして砂糖をもらい柑橘類をもらってそしてまた部隊に帰るわけであります。帰る途中で我々を 1 ヶ月間泊めていただき大切に、大事にしてくれた民家がありましたのでこの人の家に一度挨拶によったのでありますが、ご主人はおられなくておばあちゃんがおられて「兵隊さんくつろいだですね」と言われました。

何のことか尋ねたら「戦争に負けて広島と長崎にどえらい爆弾が落ちて、天皇陛下が戦争はこれ以上やらないとおっしゃったのでありますよ、戦争は負けたんです。兵隊さんたちは知らないのですか?」こんなことを言われてびっくりして、どのように身を処そうかと思って愕然としました。そして 4 人で相談をして、いっそみんな腹切って死のうじゃないかと思って 4 人で坂本龍馬の銅像が建っている近くにいきまして、坂本龍馬の銅像を見ながら死のうといたしました。

戦後

そのとき 1 人の将校が馬に乗って走ってきて、そして馬から飛び降りて私の腹をボーンと蹴りました。 私がよろよろとしておると横っ面をバーンと殴り「立て」と。「おまえたちは何をしてんだ」と。 「戦争に負けても自分たちの山や故郷は残っておるんだ」と。 「そのかけがえのない故郷をおまえたちはこの命ながら得たその身をもって帰ってそしてこの国を再興しそして立派な日本にしてやれ」そう言われて我々はまたその気になって帰ることになりました。

私たちにそう告げてくれた大西少尉は私たちに「しかし、おまえたちに本気で腹切って死ぬ気があるんならまず東京にいってこの戦争を起こした張本人である東条英機を殺してこい。殺してそしてまた自分たちがその罰を受けるのも 1 つの道だ」と言いました。こんなことを言われて我に返ってまた部隊に帰ったのであります。

私は京都で友人たちの家を訪ね泊まらせていただいたりして 10 日間、京都の町を歩いておりました。 そして、京都の白梅町というところで絵描きさんをしておられた丸岡さんという方の家に行きまししたが、その時お母さんが飛んで出てこられて、うちの子供はどうでしょうと言われたので、私はそのうち帰ってくると思って話していたら、はらはらと泣いて自分の子供が帰ってきたように泣きすがってくださいました。

私は、自分も帰ったらお袋がこんなにも待っているのかなと、そんなことを思いながら私はようやく 10 日ぶりに家に帰ってみる気になったのであります。

そして家に帰りましたが、そしたらお袋がいきなり「あんたはいったい何してたの」と言って DDT をまかれ消毒され風呂に入って、初めて人間に返った気がしたのであります。

この間、私の友人3 名が東京に行って東条英機の首を取るというそんなことを約束していたのですが、うち 1 人があのとき約束したように、その通りに行動しまして、残念ながら失敗したと言うことで割腹自殺をしてしまいました。

私は自分が卑怯な身で、家に帰らないで 10 日間も京都でうろうろしてる間に、彼からいついつに集まると言う手紙があったにもかかわらず父親が隠していたために見ることもなく、不幸な目に遭わせてしまって申し訳ないことをしたと、今でも墓参をさせていただいている次第であります。

政治家になる

私は大阪鉄道局で一所懸命仕事をしていました。

局長は昭和 19 年に、私が入りましたときは佐藤栄作、後の総理大臣でありました。ハンコをもらうのにずいぶん苦労したものでした。

あるとき、知り合いが「野中さんは大阪におれば飛ぶ鳥を落とす勢いの人だけども地元の園部という町へ帰ったらあの人は部落の人だ」こういう話をするわけであります。

びっくりしちゃいました。

私は自分が部落の出身であると言いふらそうとも思いません。あるいはそれを隠そうとも思いませんでした。まじめに真剣に働いたら人はその力量をこうてくれるんだと、そう思って私は一生懸命やったつもりであります。自分が大阪で人に負けないように一生懸命やっていいポストを得て、いい給料をもらっておっても、地域に帰ったら、地域割りの因習が残っておると言うことはこれをぬぐいきることはできないんだと。

だからやっぱり私はそこに帰ってその地域だと知っている人の中で私は自分の人生を生き抜いていこうとそう考えて係長に伝えました。

「来年は昭和 26 年、統一地方選挙があり私も 25 歳になりますのでちょうど被選挙権が得られたその年に町議会に出て政治に道に歩みを進めそして地域の発展のために寄与していきたいと思います。」 こう言って私は辞めることを係長に告げました。そして辞表を出しました。係長は「馬鹿を言うな、(悪口を)言うた人間を処分すんだ」と。そう言われていました。

「待ってください、それをやったらおしまいです。言うた人間を処分したら新しい差別がまたわいてまいります。私は親にも言いません。是非係長の腹だけに置いておいてください」そういって私は帰りました。

常に責任感と道義心がなければ、政治家をやるべきではない

政治に関心がある方は、地方政治から積み上げてそして国政に出て自分が体得したことを活かしてほしい。やっぱり人間には真心がなければならない。

私は引退して 16 年になりますが、 16 年間ずっと 1 月 17 日になりましたら神戸の港に行ってそして慰霊祭が済み皆さんが引き上げられた後、そっと献花をさせていただいております。 また 3 月 20 日には霞ヶ関の地下においてある仏像に献花をさせていただいております。

私は政治家には常に責任感と道義心がなければやるべきでないと思っている人間です。 私のお話はこれで終わりにします。

講師:野中広務

1925年京都府生まれ。国鉄職員、議員秘書を経て町議会議員初当選し町政に携わる。その後、府政に進出し京都府儀に、そして京都府副知事を務める。

1983年自民党公認を受け衆議院議員初当選。自治大臣・国家公安委員会委員長、自民党幹事長代理、内閣官房長官、自民党幹事長などを歴任。1994年には自治大臣・国家公安委員長として初入閣し、2000年に自民党幹事長代理から幹事長へ昇格。

2003年10月10日衆議院解散をもって、政界を勇退。

(2011 年 12 月 13 日に開催された、政策議論講義「昭和世代からの遺言」より)

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