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これはまさしく戦争だ 都市封鎖も通じないコロナ変異種の猛威に総力戦で挑むイギリス

[ロンドン発]島国のイギリスから瞬く間に世界30カ国近くに広がった感染力が通常型より7割も強いとされる新型コロナウイルス変異種。これまで感染爆発を封じ込める「切り札」とされてきた都市封鎖でも感染を抑え込めず、世界中を恐怖のどん底に陥れています。

変異種のエピセンター(発生源)となったイギリスではワクチン集団接種のペースを現在の7倍の200万人に拡大します。さらにコロナ患者や一般患者を受け入れるため昨年春に全国各地に設けた臨時病院を再開させました。

イングランドでは人口の8割に当たる4400万人を対象に一番厳しい都市封鎖を導入。それでも1日当たりの新規感染者数が6日連続で5万人を超える異常事態が続いています。

12月28日時点でコロナ入院患者数は2万3823人と昨年春の最悪期を上回り、このうち1847人が人工呼吸器を装着しています。死者累計は7万4570人にのぼっています。

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6日連続で新規感染者数が5万人超え

【イギリスの1日当たりの新規感染者数】
12月29日、5万3135人
12月30日、5万23人
12月31日、5万5892人
1月1日、5万3285人
1月2日、5万7725人
1月3日、5万4990人

英国民保健サービス(NHS)の病院関係者は筆者に「11月に実施された2回目の都市封鎖にかかわらず、ロンドンではものすごい数の陽性患者が出ました。入院患者の数が全く減りません。院内感染も抑えられず、患者を収容しきれない病院が相次いでいます」と打ち明けました。

第1波では感染防護具が不足していたため、200人以上の医師や看護師らNHSスタッフが命を落としました。第2波の拡大でNHS病院は再び“戦場”になりつつあります。

36%の看護師がコロナ危機で離職を検討

イギリスでは昨年春、ロンドンで4000人収容のナイチンゲール病院など全国7カ所に臨時病院を開設しましたが、第1波の収束に伴い閉鎖されました。

昨年11月に実施した2回目の都市封鎖でも第2波の拡大を抑えることができませんでした。英北西部マンチェスター、西部ブリストル、北東部ハロゲートの3病院はコロナ以外の一般患者を受け入れ、ロンドンや南西部エクセターはコロナ患者収容と対応が分かれました。

しかし臨時病院の“兵員”を確保するのに四苦八苦しています。日本でも「きつい」「給料が安い」「汚い」「危険」「休暇が取れない」など「看護師は9K」と揶揄(やゆ)されますが、イギリスでも状況は同じで看護師は慢性的な人手不足に悩まされています。

2019年10~12月、フルタイム換算で看護師10万人分の求人広告が出されました。英下院決算委員会が、4万人が不足していると指摘したことから、英政府は25年までに5万人の増員を約束しました。

にもかかわらず、看護師労組の調査では離職を考えている人はコロナ危機前の28%から36%にハネ上がりました。しかもコロナに感染して戦線から離脱しなければならない看護師も少なくありません。

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2回接種より1回目接種を優先

コロナ以外の間接的な犠牲者を一気に増やす「医療崩壊」を避けるためにもワクチンの集団接種が不可避になっています。イギリスでは12月8日から米ファイザーと独ビオンテックのm(メッセンジャー)RNAの接種を始め、接種を受けた人はすでに100万人を超えました。

12月30日には英オックスフォード大学と英製薬大手アストラゼネカのアデノウイルスベクターワクチンの緊急使用も英医薬品・医療製品規制庁(MHRA)に承認され、1月4日から接種が始まります。安全性も有効性も高い、2つのワクチンを手にした英政府は週に200万人のペースで集団接種を展開します。

ファイザーのワクチンは3週間後に2回目の接種を行いますが、2回目の接種後に摂氏40度を超える高熱を出した有害事象が報告されています。オックスフォード大学のワクチンは「2~3カ月置いて接種すると有効性が95%に上昇する」とされるため、英政府は2回目の接種を3週間後から12週間後に先延ばしにしました。

すでに2回目の接種を予約していた患者は突然の方針転換に「不公正だ」と不満たらたらですが、クリス・ホウィッティ・イングランド首席医務官は「最初の接種をより多くの人々が受けられる方がはるかに好ましい」と一蹴しました。

ワクチンは今やウイルスを仕留める“弾薬”と同じです。

大量検査で変異種を迅速に探知

第1波で欧州最大の被害を出したイギリスはドイツを見習いPCRや抗体の大量検査を実施しています。統計サイト「データで見る私たちの世界(Our World in Data)」によると12月24日時点で1日、1千人当たり6.58人(7日平均)の検査を行っています。

お手本だったドイツは2.2人、アメリカは4.26人。ちなみに日本は0.36人と相変わらず検査数のスケールアップは全くできていません。

世界のトップサイエンティストが集まるイギリスのリサーチ力は群を抜いています。感染状況を地域ごとに正確に把握し、「中(ティア1)」「高(ティア2)」「最高(ティア3)」「都市封鎖(ティア4)」の4段階に分けて営業制限や外出禁止の規制を強化してきました。

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今回、迅速に変異種が探知できたのも、ランダムに抽出した1割の検体のゲノム情報を即時に分析するシステムを構築していたからです。世界全体の新型コロナウイルスのゲノム情報の半分以上は今やイギリスから報告されるまでになりました。

イギリスは感染拡大の地域や陽性者の数だけでなく、ウイルスのゲノム情報という質までリアルタイムで観測しています。パンデミックではウイルスの変異を把握しないと、ワクチンや治療薬開発が後手、後手に回ってしまうからです。

イギリスは第二次世界大戦でドイツの空爆に即応するため最新のレーダー網を構築したことで制空権を守りました。今回の対コロナ戦争でも甚大な被害を出す一方で、見事な“レーダー網”を築いていたのです。

都市封鎖でも変異種は止められない

英インペリアル・カレッジ・ロンドンのコロナ対策チームの報告書によると、変異種は通常型より実効再生産数は0.4~0.7高い1.4~1.8とみられています。この数字を1未満に抑え込まないことには感染爆発を収束させることはできません。

変異種は昨年9月に英南東部ケント州で出現し、11月にはロンドンで約4分の1を占め、12月中旬には3分の2近くに達しました。報告書のグラフを見てみましょう。橙色(S-)の折れ線グラフが変異種、エメラルド色(S+)が通常型を表しており、2本の赤い縦線が11月に都市封鎖が行われた期間を示しています。

出所)インペリアル・カレッジ・ロンドンの報告書

変異種が流行し始めた地域では都市封鎖にもかかわらず、変異種が激増していることが一目瞭然です。その一方で変異種がまだ流行していない地域では都市封鎖が劇的に効果を上げていることが分かります。

すなわちこれまで感染爆発を抑え込む「切り札」とされてきた都市封鎖である“塹壕(ざんごう)戦”が変異種には全く通じないのです。

子供にも感染する変異種

さらに厄介なことにこの変異種はこれまで感染しにくかった子供に容易に感染するのです。下のグラフの0~9歳、10~19歳を見ると、橙色(S-)の変異種を表す棒グラフがエメラルド色(S+)の通常型より長くなっていることがお分かりになると思います。

出所)インペリアル・カレッジ・ロンドンの報告書

都市封鎖期間中も休校措置がとられていなかったため、中等学校の生徒を中心に変異種の感染が広がっていたのです。英政府は開校の方針ですが、今後、休校を余儀なくされると、家で子供の世話をしなければならなくなり、共働きの家庭が多い医療従事者や警察、救急・消防などエッセンシャルワーカーの労働力を確保できなくなる恐れが膨らみます。

新型コロナウイルスのスパイク(突起部)タンパク質はヒトの上気道や肺、腸などの上皮細胞表面にある酵素ACE2にひっつきます。変異種はACE2とひっつきやすくなったため、ACE2の発現量が少ないと考えられる子供も大人と同じように感染するようになったとみられています。

新型コロナウイルスの変異はこれまで平均14日間で1度の塩基変異を起こすと考えられてきましたが、この変異種は1度に17もの変異(他に6つの全く影響のない変異も起こしていた)を起こしたとみられています。17の変異のうち8つがスパイクタンパク質に関係していました。

今のところ長期感染者に投与された治療薬から逃れるためウイルスが一気に突然変異したというのが一番有力な仮説です。抗菌剤は細菌にとっては猛毒のため、細菌はあの手この手を使って生き延びようとします。その結果、薬剤耐性を持つ細菌(スーパーバグ)が出てくるのと似た現象が起きたのかもしれません。

新型コロナウイルスは驚くべきスピードで進化し始めました。イギリスの対コロナ戦争は私たち人類の未来を占うことになりそうです。

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