記事

NHKが『安倍官邸 VS.NHK』に言い放った「この本には虚偽がある」は虚偽である 『メディアの闇 「安倍官邸 VS.NHK」森友取材全真相』より - 相澤 冬樹

 著者は「森友事件」の発覚当初から事件を追い続けたNHK大阪放送局の司法担当キャップだった。次々に特ダネをつかむも、書いた原稿は「安倍官邸とのつながり」を薄めるように書き換えられていく。

【写真】この記事の写真を見る(4枚)

 NHKでも検察でも東京vs.大阪のせめぎ合いが続く中、ついに著者は記者職からの異動を命じられた。記者であり続けるために職を辞した著者が、官邸からの圧力、巨大組織内で上層部から歪められる報道──スクープの裏側を「忖度なし」に書き尽くす。渾身のノンフィクション『メディアの闇 「安倍官邸 VS.NHK」森友取材全真相』(文春文庫)より一部を抜粋する。

◆ ◆ ◆

指摘するなら根拠を示さなければならない

 この本には虚偽がある、そうだ。NHKが明言している。単行本が出た直後、記者会見で見解を聞かれると「主要な部分において虚偽の記述が随所に見られる」と発言した。記者から当然「どの部分が虚偽なのか?」と質問が出る。ところがこれには「取材や制作に関することはお答えできない」と突っぱねた。


渋谷のNHK放送センター ©iStock.com

 およそ他人の著作について「虚偽がある」と指摘するなら根拠を示さなければならないし、根拠を示さずただ「虚偽だ」と言うのは誹謗中傷のたぐいだ。週刊文春出版部から「抗議しましょうか?」と打診があった。しかし私はその時点では静観することにした。これには理由がある。

 この少し前、単行本が最初に出た日、NHKの小池英夫報道局長(当時)は部内の会議で「私が報道をねじ曲げたことはない」と本の内容を意識した発言をした。続いて局長に次ぐ立場のK編集主幹が「虚偽の記述が随所に見られる」と、後の記者会見とほぼ同じ発言をしている。実はK氏は本書で「K社会部長」として登場する人物だ。お読み頂くとわかるが、私がつかんだ政権に不都合な情報を小池局長の目をかいくぐって何とかニュースに出そうと頑張ってくれた一人だ。小池局長から「こんなことをしていたのか?」と問われれば、立場上「そんなことはありません」と答えざるを得ないだろう。

 その後、記者会見で「虚偽」発言をしたY計画管理部長は実は初任地山口で私の1年後輩の記者。社会部でも一緒に旧厚生省の取材を担当した最も親しい友人の一人で、私がどんな記者かよく知っている。あの会見は放送総局長の定例会見で、同席したY氏は用意された紙を取り出し嫌々といった様子で読み上げたという。

この対応ぶりに私は覚えがあった

 2人とも組織内の立場があるからそう言わざるを得なかったのだろう。私は本で真実を書いたが彼らの立場も考え静観することにした。それから2年、K氏もY氏も異動した。もういいだろう。文庫版を出すにあたり文藝春秋はNHKの見解を質した。

「虚偽の記述とはどの部分なのか? 著作に虚偽があると発言しながらどこが虚偽かを指摘しないのは誹謗中傷ではないのか? それは報道機関として許されることか?」

 これに対するNHK広報局の回答がFAXで届いた。

「ご質問に回答します。見解はすでにお示ししている通りです。以上です」

 見事にこれしか書いていない。木で鼻をくくったという表現がぴったりだが、この対応ぶりに私は覚えがあった。そう。森友公文書改ざん。財務省、近畿財務局、安倍首相(当時)や麻生財務大臣、そして後を継いだ菅首相も、ほぼ同じ答えぶりだ。

 夫が改ざんで自死に追い込まれ「真相解明の再調査をしてほしい」と願う赤木雅子さんに対し、「調査は尽くした」「新事実はない」「これ以上調べるつもりはない」と判で押したような答え。「森友はもう終わった話」にしたいのだろう。なぜなら真実が明らかになると都合が悪いから。だから改ざんまでして真実を消そうとした。

 改ざんを指示した佐川宣寿財務省理財局長(当時)。赤木雅子さんの夫、俊夫さんを休日に呼び出し改ざんをさせた近畿財務局の上司、池田靖氏。彼らはいまだに真実を明らかにしていない。何を聞いても答えない。それはなぜか? 組織の圧力だ。組織が「黙っていろ」と命じるから黙っている。黙らされている。さぞつらかろう。真実を話すしか楽になる道はないのに、その道を閉ざされている。

森友国有地値引きも公文書改ざんも何一つ古びていない

 NHKには心ある取材者が大勢いて日夜努力を重ね、ニュースを、番組を、出そうとしている。私もその一員だったし、共鳴して助けてくれる人も大勢いた。K社会部長もその一人だ。彼らも組織の圧力で何も語れないのだとしたらあまりにもつらい。

 この本は森友事件の取材と報道を巡るNHK内の奮闘と軋轢を描いている。背後に安倍官邸の姿が見え隠れするが明示的には書いていない。だけどあの時の私や仲間たちはもちろん意識していた。官邸に忖度する上層部に負けずに放送を出すぞ!

 だから本書の題には「安倍官邸vs.NHK」の言葉を残した。文庫化にあたり大幅に加筆したが、最も大きいのは赤木雅子さん俊夫さん夫妻に関する部分。最初の単行本を書いていた時にはわかっていなかったが、本が出来上がろうかというタイミングで赤木雅子さんに初めて会えた。その後、劇的な展開を見せて、週刊文春での俊夫さんの手記全文公開、国と佐川氏の提訴に至った。

 そういう意味で森友国有地値引きも公文書改ざんも何一つ古びていないし終わってもいない。本書が今に続くこれらの問題を理解する一助になれば幸いである。

(相澤 冬樹/文春文庫)

あわせて読みたい

「NHK」の記事一覧へ

トピックス

ランキング

  1. 1

    KDDI「povo」への批判はお門違い

    自由人

  2. 2

    PCR検査で莫大な利益得る医院も

    中村ゆきつぐ

  3. 3

    広島県の大規模PCR検査は愚行

    青山まさゆき

  4. 4

    橋下氏 いま日本は「欠陥の車」

    橋下徹

  5. 5

    菅首相発言が「絶対アカン」理由

    郷原信郎

  6. 6

    菅首相発言に漂う日本崩壊の気配

    メディアゴン

  7. 7

    渡邉美樹氏 外食産業は崩壊危機

    わたなべ美樹

  8. 8

    青学・原監督の改革を学連は黙殺

    文春オンライン

  9. 9

    車移動に回帰? ペーパー講習混雑

    井元康一郎

  10. 10

    デパ地下以外は死んでいる百貨店

    PRESIDENT Online

ランキング一覧

ログイン

ログインするアカウントをお選びください。
以下のいずれかのアカウントでBLOGOSにログインすることができます。

コメントを書き込むには FacebookID、TwitterID のいずれかで認証を行う必要があります。

※livedoorIDでログインした場合、ご利用できるのはフォロー機能、マイページ機能、支持するボタンのみとなります。