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選択と集中の罠(その4)

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 ついつい、別の講演の依頼が入ってくると、ブログ更新が滞ってしまいますね。実は11月17日に島根で「大学病院と地域医療」についてお話をしてきたのですが、その準備などのために忙殺されて、気が付いたらずいぶんと更新の日が空いてしまいました。「大学病院と地域医療」というテーマも、たいへん重要なテーマなので、後日このブログでもご紹介したいと思いますが、とりあえずは、前回の「選択と集中の罠」の続きです。

 今日はディスカッションポイントの2のところです。つまり、「大学の研究力向上のために、各セクターが担う役割、課題、具体的取り組みについて」というサブテーマですね。

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 まず僕の主張する具体的取組としては「研究費総額確保」が絶対に必要であるということです。当たり前といえば当たり前の主張ですね。しかし、日本の国の財政難から、総額確保は非常に困難な状況になりつつあります。

 政策のマネジメントも、民間企業のマネジメントと同じで、原則はPDCAサイクルを回すことですね。PDCAサイクルを回すためには、ミッション(理念・目的)とともに、明確な数値目標が設定される必要があります。だって、Plan Doの効果があったかどうかの測定ができなければ、Checkができませんからね。

 ところが、今までは、日本全体としての研究力やイノベーション力の国際競争について、そのミッションとともに、明確な数値目標が設定されていませんでした。僕は、これは致命的欠陥であったと思っています。ただ、数値目標らしきものはあったことがあり、「選択と集中的」な数値目標は掲げられていたのですが、日本全体の研究の量的な規模についての目標がなかったのです。「選択と集中」的な数値目標というのは、たとえば、国際的な大学ランキング100位以内に10大学入る、とかいう目標ですね。

 資源の乏しいこの島国に住む人々を、イノベーション力でもって、先進国並みの生活レベルに保とうと思えば、イノベーションの質だけではなく量が必要です。同じ意味ですが、量だけではなく質も必要です。つまり、海外から資源を買おうと思えば、イノベーションの「質×量」が、海外諸国よりも相対的に勝っている必要があります。売買は、相対的な力関係で決まりますからね。

 そのためには、研究費の総額確保がどうしても必要であるというのが僕の主張です。

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  このような考え方に立って、研究力の論文数による目標を設定するとすると、今までのブログで何回もお話したように、例えば「高注目度論文の数」が候補として挙げられ、また、日本列島に住む人々の生活レベルに関係づけるとすれば、「人口当たりの高注目度論文数」ということになると思います。そして、海外から資源を買うためには、この指標が相対的に相手よりも勝っていなければ買えないわけですから、「人口当たりの高注目度論文数の国際的なポジショニング」が、主要な数値目標(KPI)の一つになると思われます。

 もちろん、ほかにも適切な目標設定はありうると思いますし、また、研究力を測る指標としては、論文数だけではなく、特許件数やその他の指標もあります。

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 下のグラフは、今まで何度もブログでご紹介してきたグラフですね。日本の人口当たりのトップ10%論文数の国際的なポジショニングは世界で21番目、ということでしたね。欧米諸国やシンガポールは日本のはるかかなた。台湾は日本の1.5倍ということでしたね。日本の高注目度論文数を1.5倍にすることは非常に困難ですが、僕は台湾をぜひとも目指してほしいです。

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 日本は、財政難もあり、大学や科学技術政策において「選択と集中」を推し進めてようとしているのですが、ここで、「選択と集中」政策の罠について、あらためて考えてみましょう。

 まず、「選択と集中」という言葉の由来です。これは、GE社のCEOであったジャック・ウェルチさんの経営手法で有名になった言葉ですね。シェアが1~2番目の事業に選択と集中し、それ以外は止めてしまうという経営戦略です。

 「選択と集中」という言葉は、政府関係文書にも頻繁に出てきますね。「傾斜配分」や「メリハリのある予算配分」なども、その類です。なにか「選択と集中」をしさえすれば、すべてがうまくいくというような雰囲気にもなっています。

 しかし、「選択と集中」を地で行ったシャープは、一時期は「選択と集中」の成功事例の企業として絶賛されましたが、今では、サムスンなどの韓国企業に席巻されて経営危機に陥り、液晶などに選択を集中をしすぎた「片肺飛行」がいけなかったと批判されていますね。

 「選択と集中」という言葉の産みの親であるGE社が、インフラ事業をはじめとして、多様な事業を展開して生き残っているのは、皮肉と言わざるをえません。また、日立なども、家電だけにこだわるのではなくインフラ事業をやったことで生き残っていますね。GE社や日立は、一つの事業がうまくいかなくなったら、他の事業で勝負ができるという「多様性」があったから生き残ったということが言えるのではないでしょうか?

 つまり、「多様性」を伴っていない「選択と集中」は、たいへんリスキーであるということだと思います。適切な「選択と集中」をせずにつぶれた企業もたくさんあると思いますが、不適切な「選択と集中」をしてつぶれた企業もたくさんあるのではないでしょうか?

 また、サムスンなどの韓国企業は、既存の事業の「選択と集中」というよりも、ゼロから立ち上げて、市場を席巻してしまいましたね。これを、なんと表現すればいいのでしょうかね。もっとも、ベンチャーなども、最初は一つしか売るものがないわけですから「選択」をする余地はなく、ひたすら一つのことに集中せざるを得ませんけどね。

 公共政策において、財政難の時に「選択と集中」をして、優先順位の低い事業を切る場合にも、「選択と集中」という言葉が使われています。でも、GE社の経営戦略に由来する「選択と集中」という言葉と、少し意味が違うような気がしてなりません。

 ただ、”不適切な”「選択と集中」が逆効果になることについては、両者とも同じですね。

 それでは「選択と集中」政策が陥りやすい「罠」について、大学や科学技術政策を例にとって、考えてみることにしましょう。

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 「実績のあるところに予算を重点配分する」ことは、公共機関であまねく当然のことのように行われている政策手法です。このことに疑問を抱く人は、ほとんどいないのではないでしょうか?実績のないところに、国民からの貴重な税金を投入するわけにはいきませんからね。

 でも、この当たり前の常識についても、ちょっと考えてみましょう。

 この、予算配分の根拠となる「実績」というのは、公平な機会の下で競争した結果の実績が前提ではなかったのでしょうか?そうであるならば、誰も文句はいわないでしょう。しかし、最初から重点化されている組織と、重点化されていない組織とを競争させて、つまり、不公平な機会の下で競争させた結果の実績で予算配分を決めるというようなことがなされると、話が違ってくるのではないでしょうか?

 こういう重点化がなされると、最初から重点化されている組織は、当然実績も上がりますので、その結果さらに重点化され、さらに実績を上げて、さらに重点化される、という増殖が続く循環になります。そうすると、それまで、予算配分の組織間傾斜が富士山くらいの傾斜であったものが、気が付いたら、東京タワーの傾斜になり、さらに急峻なスカイツリーの傾斜になってしまいます。

 僕は、日本の大学間の、欧米諸国には見られない極めて急峻な傾斜は、このような政策の積み重ねで生じた可能性も否定できないのではないかと思っています。

 そして、このような大学間の急峻な傾斜が、日本全体のイノベーションの「質×量」の最大化に寄与するということであれば、これは適切な「選択と集中」政策ということになります。しかし、僕は、この傾斜が急峻すぎると「質×量」がむしろ低下するのではないかと考えています。限られた財政の中で、「質×量」が最大化するような傾斜を探る必要があるのではないでしょうか?

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