
香取慎吾が民放ドラマに5年ぶりに帰ってくる。1月25日よりテレビ東京系にてスタートする主演ドラマ『アノニマス〜警視庁“指殺人”対策室〜』は、SNSでの誹謗中傷を題材としたサスペンスだ。
香取が演じる主人公・万丞渉は、SNSトラブル専門の対策室「警視庁指殺人対策室」に配属された元捜査一課の刑事。そもそもテレビ東京のドラマに出演すること自体が1988年に放送された『あぶない少年III』以来33年ぶりである香取。番組公式サイトに〈小学生だった僕が電車でテレビ東京に通っていた時の緊張感が蘇ります〉とコメントを寄せている。
久々の民放ドラマ出演に本人も燃えているようで、〈2021年の幕開けに、僕を必要としてくれたスタッフの皆様の思いと共に、テレビで、テレビ東京で、今の香取慎吾の全力を視聴者の皆様にお届け出来るように頑張ります〉と意欲を示した。
SMAPが解散してから4年。“今の香取慎吾”とは、一体どんな存在なのか? きっと「新しい地図」になってからの香取を「のびのび活動している」と好ましく受け止めるファンも多いことだろう。現在はアーティストとしての活動にさらに注力し、2018年9月にはパリで初個展を開催。その半年後の翌2019年3月には国内初個展も開催した。
2016年3月に放送されたスペシャルドラマ『ストレンジャー〜バケモノが事件を暴く〜』を最後に民放ドラマからは離れていたものの、演技自体から離れていたわけではない。2019年6月に公開された主演映画『凪待ち』での演技は衝撃的なものだった。メガホンを撮ったのは、『孤狼の血』や『日本で一番悪い奴ら』などアウトロー描写に定評がある白石和彌監督。白石監督と初タッグを組んだ香取は、恋人も仕事も失い自暴自棄になっていく主人公を熱演し、俳優として新境地を切り開いた。
かと思えば、2020年9月より配信スタートしたAmazon プライムのオリジナルドラマ『誰かが、見ている』では、脚本・演出の三谷幸喜との黄金タッグで、“シットコム(シチュエーションコメディのこと)”に挑戦した。スタジオに観客を入れて基本的にノーカットで撮影する形式にも香取は見事に対応し、何かと失敗ばかりの主人公を愛嬌たっぷりに演じてみせた。
遡ること2020年1月にはソロアルバム『20200101(ニワニワワイワイ)』をリリース。新型コロナウイルス感染拡大の影響で、4月に予定していた初のソロコンサートは中止されたものの、予定されていた会場がさいたまスーパーアリーナだったという点に、香取のソロ歌手活動に対する本気度の高さが感じられる。
それだけではない。同年1月に開設した公式YouTubeチャンネルも登録者数40万人超と好調だ。投稿する動画の内容は、“しんごちん”というコミカルなキャラクターに扮したものに、人気楽曲のカバー、自身が制作したアートについて語ったものと多岐にわたる。まるで香取慎吾という表現者の、多彩なアイデアが渦巻く頭の中をのぞいたようなチャンネルだ。
テレビに帰ってきた俳優・香取慎吾
SMAP時代から表現することへの欲求が強かった香取だが、その情熱は今、溢れ出して止まらないようだ。そんな香取が久々のドラマ出演で何を見せてくれるのか? SMAPファン歴は20年以上に及び、『SMAPと、とあるファンの物語』(双葉社)という著書を持つライターの乗田綾子氏が、“俳優・香取慎吾”の魅力を語る。
「香取さんはキャリアの出発点がアイドルグループの末っ子だったこともあり、一般的には明るく天真爛漫なイメージが強いですが、その一方で、ドラマや映画の世界では、時にものすごく成熟した表情・演技を見せることがあるんです。
アイドルとして華やかなスポットライトを浴びながら、一方では子どもの頃から絵画制作や美術鑑賞など、人間の繊細な心理描写が好きという内面も持ち合わせていました。映画監督の阪本順治さんが香取さんの魅力を『太陽と月』に例えていたことがあるのですが、香取慎吾の俳優業とは、彼の『月』の部分が観られる興味深い機会だと思います」(乗田氏)
乗田氏は、香取がついに民放ドラマという場に帰ってきたことに期待をかける。
「香取さんの姿もここ数年は各ネット配信サービスを通じ、スマートフォンの画面越しに見ることが増えました。ただ、そんな生活にもすっかり慣れたはずなのに、ときどきテレビ画面で香取さんを見かけると、どこかホッとするんです。
やっぱり私にとってテレビの力や面白さをずっと教えてくれていたのはSMAPだし、まさにテレビを取り巻く環境が激変した今だからこそ、香取さんも含めたSMAPの面々には、まだまだテレビの可能性で勝負していてほしいっていう思いもあります。だからこそ、元メンバーの中でも今飛びぬけてネット発信の経験値を積み上げてきている香取さんが、いざテレビの世界に戻ったときには一体何を見せてくれるのか。その答えがSMAP育ちの一視聴者としては、すごく楽しみです」(乗田氏)
香取は今、表現というものの面白さを再確認している時期なのだろう。「SMAPの元メンバー」という認識でストップしている視聴者は、さらに豊かに進化した香取の演技に驚かされるかもしれない。
◆取材・文/原田イチボ(HEW)