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「死ぬ」「殺す」とわめく多重債務者たち…“仕事=怒鳴られる”コールセンター地獄の実態 - 『督促OL 修行日記』より #2 榎本 まみ

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「お金返してください…」誰からも望まれない取り立て電話をかけ続ける“督促OL”のえぐい日常 から続く

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「人見知りで話しベタで気弱」を自認する新卒女性が入社し、配属されたのは信販会社の督促部署! 誰からも望まれない電話をかけ続ける環境は日本一ストレスフルな職場といっても過言ではなかった。多重債務者や支払困難顧客たちの想像を絶する言動・行動の数々とは一体どんなものだったのだろう。

 現在もコールセンターで働く榎本まみ氏が著した『督促OL 修行日記』から一部を抜粋し、かつての激闘の日々を紹介する。(全2回の2回目/前編を読む)

◇◇◇

“ブラック部署”の紅一点!

「入社おめでとう~!」

「よろしくお願いします……」

 ある日、私は先輩にボスの前に連れていかれた。

 紹介されたT課長は、コールセンターの現場責任者だった。年の割に背が高くがっちりとして、なぜか春なのに日焼けしている。さすがに、コワモテぞろいの督促軍団を束ねている人といった屈強なオーラがあった。一見ダンディなのに、眼光が鋭い。チラリと視線を向けられて、私は一瞬にしてびびる。

©iStock.com

 ところが、

「男子校へようこそ~!」

 いきなりT課長はギュッと私の手を握ると、満面の笑みで私を迎えた。ん? 待てよ、今なんかこの場にそぐわない言葉が。

「男子校?」

 私はクエスチョンマークを浮かべて連れてきてくれた先輩に目線を送った。すると先輩は少し気まずそうな顔をしながら「今、この部署には女性社員がいないんだ」とこっそりと教えてくれた。

 なんと、この督促をしているコールセンターには現在、事務をしている社員以外、女性社員がゼロだった。電話をする業務に就いていた女性社員は、キレイに全員前月で辞めてしまっていたのだ。

 それから、男性ばかりがひしめき合っているこのコールセンターは、社内で「男子校」と呼ばれるようになった。どうりで、なんだかこのフロア、体育のあとの教室の匂いがするというか……ぶっちゃけ、汗臭いと思った……。

「男性ばっかりだとどうも身だしなみも乱れがちだしね、女子社員欲しかったんだよ~、あ、辞めないでね!」

 ぱっと見渋いその外見に反して、T課長はとっても軽い調子で話す人だった。この人、なんだか高田純次に似ている……。高田純次課長。私の直属の上司って、こんなんなの?

「え、N本と申します、よろしくお願い致します」

 私はひきつった笑顔で、そう答えるしかなかった。

 イケメンパラダイスの夢やぶれ……

 コールセンターには三つのチームがあったけど、女子社員も三人。1チームに一人が配属されたので、私たちは必然的にチームの紅一点になってしまった。

(これはモテの予感!?)

 “紅一点”という言葉に内心ちょっとした期待も抱きながら、自分が所属するチームに連れていかれると、そこは本当に男性ばかりで一面ひしめき合うスーツの群れだった。私はまさに男子校に間違って入学してしまった女子生徒状態。あれ? こんな設定の少女漫画があったような気がする。

 が、しかし……。実際の男子校はイケメンパラダイスとは程遠かった(失礼)。おまけに、コワモテ督促軍団は、「こいつホントに督促なんてできんのか?」とでも言うように値踏みするような視線を送ってくる。

 突然、すぐそばから野太い歓声が上がった。

 なんだ? とそっちを見ると、私と同じようにやはりチームで唯一の女子社員となった同期のA子ちゃんが隣のチームで自己紹介をしていた。A子ちゃんはぶっちゃけとてもかわいい。

 くそっ、この差は何なんだ!?

 “イケメンパラダイスでモテモテ紅一点”の夢やぶれた私は、所在なく、チームの片隅に座って督促生活をスタートした。

海千山千の多重債務者たち

 私の配属されたコールセンターに所属しているのは全部で60名ほど。クレジットカードの督促を行っている別のコールセンターには、パート契約のオペレーターさんがいたけれど、この部署に所属しているのは全員が正社員だ。

 チームに配属されてからは山のような督促表を目の前に積み上げられ、督促の電話をかけることになったのだけれども、電話をかけてみて、なぜここが男子校なのかがあらためてよーくわかった。

「××カードです、ご入金のお願いなのですが……」

「またかよ! ないものはないって言ってんだろ!」

「ええっ、で、でも、お支払いはしていただかないと……」

「うるせぇ!」

 ガチャッ!!

 かける電話かける電話、みんな怒鳴りつけられて切られてしまう。

 怒鳴られないまでも電話をかけるとお客さまはみな支払いが難しい状態で、すんなり「支払います」という人はほとんどいなかった。

(ど、どういうことなの……)

 実は、私が担当しているキャッシング専用カードのお客さまは、社内でも特に扱いが難しいとされる方々だった。

 キャッシング専用カードというのは、文字通り現金を借りるためのカードだ。クレジットカードのように買い物に使うことはできないが、最高で200万円までの現金を借りることができる。システムはほぼ消費者金融と同じだった。

 カード会社のキャッシング専用カードを利用するお客さまには2パターンの人がいる。一つは、クレジットカード会社のほうが消費者金融より敷居が低いからという人たち、そして、もう一つは、消費者金融からも借りられなくなり、仕方なくクレジットカード会社でキャッシングをしている人たち。……当然、督促の部署にまわってくる(つまり支払いが遅れる)のは後者がほとんどなのだ。

 今ではお金を借りようと思うと、貸金業法によって年収の3分の1までと借りられる金額の上限が決められている(2010年施行)。けれど、昔はクレジットカード会社と消費者金融は借入の情報を共有していなかったので、消費者金融で何件も借入があったとしてもクレジットカード会社ではそれを把握できず、キャッシングの審査に通ってしまったのだ。

こんな仕事、女には絶対にムリ!!

 当時の私のお客さまたちは、5件、6件と別の会社に借入がある人がほとんどだった。

 だからいつも複数の会社から督促を受けていて、電話をかけてもそう簡単に支払いができる状態ではない。男性は、逆切れしたり怒鳴り散らして支払いを拒否する。女性でも怒鳴る人はいたけど、泣き出してしまう人も多かった。すんなりと払ってくれる人なんて全然いなくて、電話をかけるとなぜか「殺す」だの「死ぬ」だの、穏やかじゃない言葉が返ってくる……。

(こんな仕事、女には絶対にムリ!!)

 数日間、朝から晩まで怒鳴り続けられて、私は早々に悟った。

 だってどう考えても人生の修羅場をくぐってきた海千山千の多重債務者の方々に、この前までぬくぬくと大学生活を送っていた小娘が口先で敵うわけがないじゃないか!

 会社に行くことはイコール怒鳴られに行くことだった。私はげっそりとやつれ始めた。でも、ここはまだコールセンター地獄の一丁目。ただの入口に過ぎないということを私はこれから嫌というほど思い知らされることになる。

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