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「お金返してください…」誰からも望まれない取り立て電話をかけ続ける“督促OL”のえぐい日常 『督促OL 修行日記』より #1 - 榎本 まみ

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「人見知りで話しベタで気弱」を自認する新卒女性が入社し、配属されたのは信販会社の督促部署! 誰からも望まれない電話をかけ続ける環境は日本一ストレスフルな職場といっても過言ではなかった。多重債務者や支払困難顧客たちの想像を絶する言動・行動の数々とは一体どんなものだったのだろう。

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 現在もコールセンターで働く榎本まみ氏が著した『督促OL 修行日記』から一部を抜粋し、かつての激闘の日々を紹介する。(全2回の1回目/後編を読む)

◇◇◇

ここは強制収容所?

(これって、ホントにコールセンター?)

 社会人になった記念すべき第1日。私が連れていかれたのは真っ白で殺風景な、なんにもない部屋だった。

 部屋の端から端まで隙間なくきっちりと並べられている机。その上にはポツンとグレーの電話がのっているだけ。

〈コールセンターに配属す〉

 おかしい。私はついさっき、そう辞令を下されたはずなのに。

 コールセンターといえば、パソコンが並べられた机がブースで仕切られて、女性のオペレーターがイヤフォンとマイクをつけて座っている、そんな場所じゃなかったっけ?

 でも、そこは、そんな想像とは全く違う部屋だった。

 採光のための窓ははるか遠くに1カ所だけ。全体的にせまくてうす暗くて、コールセンターというよりはむしろ「倉庫」と呼んだほうがよさそうだ。

 私が連れていかれたのは、ほんの1カ月前にできたばかりの即席で作られたコールセンターだった。

 出来たてというより出来かけで、装備されているのは机と電話機だけ。パソコンなどといった文明の利器が導入されるのは、それから半年も先だった。

1時間に60本の電話!?

「ぼさっとしてないで、1時間に最低60本は電話して!」

 一緒にコールセンターに連れてこられた同期たちと部屋のなかで立ち尽くしていると、私たちをこのコールセンターに連れてきた先輩がいきなりバサリと目の前に電話帳ほどの厚さのある紙の束を投げつける。それは「督促表」と呼ばれるお客さまのデータが細かく記載されたカルテのような書類だった。

(え、え、何? これから何がはじまるの?)

©iStock.com

 所在なく右往左往していると、後からぞろぞろと連なってコワモテの男性たちが部屋に入ってきた。彼らはおもむろに机の上に置かれている督促表を掴むと、次々と電話しか置かれていない机に座っていく。白い部屋は一瞬にして黒とグレーのスーツの色に染まった。

「ご入金をお願いします!」

「入金の確認が取れていません」

「支払い日をもうかなり過ぎていますよ!」

 一斉に電話をかけ始めた黒スーツ軍団の群れからは、こんな恐ろしげな言葉が漏れ聞こえてくる。「お金返してください」――ああ世の中にこれほど、誰ひとりとして望んでいない電話があるだろうか。

 でも、その電話こそが、私がこれからしなければならない「督促」という仕事だった。

 クレジットカードを使って買い物をすると、代金は後から請求されてくる。

 これは買い物の代金をいったんカード会社が立て替えてお店に支払っているからで、カード会社が立て替えた代金は、1カ月から2カ月ほど間をあけてお客さまに請求される。

 けれど困ったことに、中には支払い日を過ぎても代金を入金してくれないお客さまもいる。そんなお客さまに、電話や手紙で「お支払いをお忘れではございませんか?」と入金のお願いをすることを「督促」と呼ぶ。

 もちろん、督促という仕事をしているのは、私が働くようなクレジットカード会社だけじゃない。

 電気代を払わなかったら電力会社から、水道代を払わなかったら水道局から督促の電話がかかってくる。税金や家賃、奨学金返還の督促を行っているコールセンターも盛況だそうだ。図書館で借りた本を返さなくても図書館で働く人から電話がかかってくる。

「えぐい」と評判のキャッシング回収

 実は、世の中にあるありとあらゆる「後払い」には、必ずその後ろに督促をしている人がいる。私が入社したカード会社の中だけでも色々な種類の督促があった。

 クレジットカード、ショッピングクレジットと言われる高額商品の分割払い(車の購入やエステ代などでローンを組むこと)、それからカードを使ってお金を借りるキャッシング。

 よりにもよって、そんな中で私が配属されたのは、社内でもとくに「えぐい」と評判のキャッシングの回収を行っている部署だった。要するに「借金の取り立て」をしているコールセンターである。

 それがなんで「えぐい」かと言うと、キャッシングのお客さまというのは、それはそれは粒ぞろいの、社内でも問題のあるお客さまだったからだ。

耳をつんざく罵声で脳が凍死……

「うるせぇんだよ馬鹿野郎! ちゃんと支払うっつってんだろ!」

「ひぃっ!」

 コールセンターの片隅に座らされて、黒スーツのコワモテ男性集団に交じって初めての督促の電話をかけた時のことを、私は未だに強烈に覚えている。

 電話口から響いてきたのは、今までの人生の中で一度も聞いたことがないほどの、耳をつんざくような罵声である。

「今度電話してきたらぶっ殺す!!」

 電話口に出たお客さまは、私がたどたどしく「あの、ご入金のお知らせで……」と言いかけると、いきなり電話口から風が吹いてきそうなものすごい勢いで私を怒鳴りつけた。私は、受話器を持ったまま瞬時に凍りついた。

 生まれて初めて受けた恫喝に頭は真っ白になる。それから時間差でものすごい勢いで全身から冷や汗が吹き出した。

「あああ、アノ……」

「テメェ! 今度電話してきたらぶっ殺す!!」

 冷や汗で全身びっしょり、息がつまって言葉がカタコトになっている私に向かって、お客さまは捨て台詞を残して電話を叩き切った。

(……な、ななななな、なんだったんだ今の!?)

 私の頭はしばらくフリーズしていたが、なんとか我に返ると隣で同じように督促の電話をかけている先輩に泣きついた。

「なんか、いきなり怒鳴られて、こんなヒドイことを言われたんですけど!?」

 私はぶるぶると震えながら事の仔細を訴えた。

 けれど先輩はダイヤルしかけていた電話機に目を留めたまま「ふぅん、じゃあ言われたことを督促表に書いといて」と言うだけ。

 そのクールな目は「ここではそんなこと日常茶飯事なんだよ」と語っているようだった。

(私は、もしかしてとんでもない所に来てしまったんじゃないだろうか……)

 冷や汗でふやけた督促表に、私は震える手でお客さまに言われたことを書き残した。

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