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- 2021年01月03日 11:25 (配信日時 01月03日 11:25)
秋吉 健のArcaic Singularity:2021年、5Gリブート!通信・スマホ業界の動向から5Gの「再起動」が見えてきた【コラム】

2021年の5G動向について考えてみた!
みなさま、新年あけましておめでとうございます!この年末年始はのんびりと過ごせましたでしょうか。筆者はこのコラムを元旦に書いております。物書きには盆も正月もないのです(単に計画性がなく書き溜めておくのを忘れただけ)。
昨年は新型コロナウイルス感染症(COVID-19)にひたすら翻弄され続けた1年でした。モバイル業界もその影響を強く受け、端末販売(買い替え需要)が落ち込んだり店舗営業の自粛を余儀なくされてきました。5G通信も出鼻をくじかれ、決して幸先の良いスタートではありませんでした。
2021年、モバイル業界はどうなるでしょうか。筆者には「5Gリブート(再起動)の年になる」という強い確信があります。スロースタートのままの遅々とした動きではなく、もっとアグレッシブに業界が動くだろうという予測です。
感性の原点からテクノロジーの特異点を俯瞰する連載コラム「Arcaic Singularity」。今回は筆者が5Gリブートの年と位置付けるその理由や根拠について語ります。
■5Gを襲ったコロナ禍という悪夢
2020年は5G通信にとって悪夢の年だったと言って過言ではありません。それまで何年にもわたって準備をしてきた5G戦略は、新型コロナウイルス(COVID-19)感染症の拡大問題(コロナ禍)によってすべて崩壊しました。
人々の外出自粛がモバイル通信への依存度を減らした結果、5G通信が得意とする大容量通信への期待や興味が大きく削がれ、技術の発展途上を支えるべきイノベーター層やアーリーアダプター層の人々でさえ「5Gは必要なのか?」と疑問を抱かざるを得ない状況に陥りました。
新しい技術にとって、人々の興味と関心は何よりも重要です。過去を振り返ってみても、3Gや4Gが登場したばかりの頃は対応端末の価格は高く、コンテンツも対応通信エリアも狭い状況でした。それでもここまで普及した背景には、「3Gなら音楽がダウンロードで買えるようになるんだ」、「4Gなら動画が見放題になるかも」という期待感や新しい生活様式への夢があったからです。
5G通信が見せてくれる夢は、人々がスタジアムで試合観戦をしながら手元のスマートフォン(スマホ)でもマルチアングル映像によって細かな戦況を楽しめたり、街中をARイベント会場にして盛り上がるライブコンテンツなどのはずでした。
しかし、それらの夢はコロナ禍によってすべて封印されてしまったのです。東京オリンピック・パラリンピックが5G普及の起爆剤となるはずでしたが、その夢も風前の灯です。
■端末、エリア、コストの3つが揃う2021年
では、もう5Gは「興味を失われた技術」としてひっそりと広がっていくのを待つしかないのでしょうか。筆者はそうは思いません。むしろ、実態のない未来像ばかりを追わず、現実的な利便性を求める形での5Gの有用性を示せるときがようやく来たと思っています。
その根拠の1つは5G対応端末の多様化です。イノベーター層しか興味を持たないような高額なスマホばかりではなく、現在では7~8万円の比較的リーズナブルな高性能スマホから4~5万円の安価なミッドレンジスマホまで、幅広くラインナップされるようになりました。
NTTドコモ、au、ソフトバンクといった移動体通信事業者(MNO)各社はメインブランドで発売するスマホのほとんどを5G対応にしており、さらにSIMフリースマホでも5G対応が着々と進んでいます。
日本においてはシェアの大きなiPhoneシリーズの5G対応が大きなターニングポイントとなりました。iPhone 12シリーズが5G対応となり、それに合わせてKDDIの「au 5Gエクスペリエンス」のように、通信エリアや通信状態に合わせてネットワークを最適化し、常に最良の通信品質を維持する仕組みなども導入されました。
通信エリアの問題も徐々に改善の兆しを見せています。
NTTドコモは早期から、従来の4G(LTE/LTE-Advanced)の発展技術である「eLTE」(enhanced LTE)を5Gエリアとして展開することで通信速度や接続性の向上を図っており、2021年以降は完全な5Gネットワークによる「New RAT」(New Radio Access Technology)の展開を急ぎます。
KDDIやソフトバンクは、現在4G用として利用されている周波数帯の電波を5G用に転用することで、素早いエリア展開を計画しています。
この4G用周波数帯の5G転用については通信速度の向上が難しいなどのことから賛否両論ありますが、バックグラウンドとなるネットワークから5G専用で再構築することで、通信遅延を低減したり同時多接続性を確保しやすくなるなどのメリットは十分に得られます。
低遅延性のメリットは、コロナ禍まではコンシューマ向けにはあまりアピールされてこなかった部分です。しかし、人々が自粛によって自宅に篭もるようになり、スマホによるテザリング通信でオンラインゲームやオンライン会議を行うようになったことで、「遅延が少ない」というメリットが見直されるようになりました。
コロナ禍によってさまざまなピンチに見舞われた5Gですが、その活路もまた5Gの特性が見つけ出したのです。
現在でさえ、マンションやアパートの場合、光回線の通信品質が非常に悪く、4G通信によるモバイルWi-Fiルーターのほうが快適という状況や環境がしばしばあります。これが5Gになれば通信速度は通信遅延は大きく改善されるでしょう。
そして何より、通信料金プランの大改革です。
通信料金値下げはモバイル業界にとって2020年最大のトピックとなりました。その背景には政府が絡んだ大きな問題が存在することを本連載でも何度も指摘してきましたが、そういった難しい話はひとまず置いておくとして、消費者的には非常に大きなチャンスが来たと考えて問題ありません。
2020年10月末にKDDIやソフトバンクが発表した「20GBで月額4000円前後」の料金プランは5G通信が使えない内容で、これまで筆者は「5G普及を阻害する要因」として挙げてきました。
ところがその後NTTドコモが、5G通信が使えて20GB/月額2980円の「ahamo」を発表したことで大きく流れが変わります。料金が安くても5G通信を諦める必要がなくなったのです。
そしてNTTドコモを追いかけるようにして、ソフトバンクも5G通信も可能な「Softbank on LINE」や、ワイモバイルのシンプルプラン改定などを発表しました。
KDDIも今月中に5G通信が使える20GB前後の低料金プランを発表するとの噂もあり、また業界的にもそのような流れとなることはほぼ確実視されているため、月額3,000円前後で5G通信が利用できる環境が一気に整いつつあることが分かります。
いずれの料金プランも今年2月~4月の開始予定となっており、5G通信の「リブート」の時期は今年春だと筆者は考えています。
■リブート成功の鍵は春に届く
エントリークラスからハイエンドまで幅の広い端末ラインナップ、実用性を重視した通信エリア展開計画、そして納得の低料金プラン。5G通信を支える環境は1年前とは雲泥の差です。
昨年の今頃や春頃であれば、5Gスマホについては「一般の人々はもう少し様子見しても良いかもしれない」とアドバイスしていましたが、今年は明らかに「買い」の一手です。むしろ5G対応スマホと対応の料金プランに変えないという選択が悪手に思えるほどです。
少なくとも、MNO各社の料金プラン合戦はまだまだこれからが本番です。NTTドコモのギガライト系の従量制低料金プランについても、「競合他社の動向次第で来春にも見直す方針」(日刊工業新聞)との報道が昨年末に滑り込みで入ってくるなど、その動きは非常に激しいものです。
KDDIの動向や楽天モバイルの戦略も気になるところであり、仮想移動体通信事業者(MVNO)サービスの対抗施策も目が離せません。通信各社による囲い込み強化や熾烈な顧客獲得合戦が起こると予想されますが、それらの競争が加熱していくことは、消費者としては決して悪いことばかりではありません。
不安しかなかった2020年から、期待が不安を上回る2021年へ。5Gリブート成功への鍵がもうすぐ私たちの手元に届くことを楽しみにしつつ、年初のご挨拶とさせていただきます。本年もどうぞ、S-MAXと弊連載コラムを宜しくお願い申し上げます。
記事執筆:秋吉 健