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アングル:ワクチン普及のカギ握る黒人宗教指導者、迷いの理由


Gabriella Borter Makini Brice

[ニューヨーク 22日 ロイター] - ブルックリンの大規模教会を主宰する黒人のA・R・バーナード牧師は迷っていた。ある大手の医療団体から、ニューヨーク市の有色人種コミュニティーにおけるCOVID-19(新型コロナウイルス感染症)ワクチン受け入れを推進する委員会に参加するよう依頼が来たのだ。

市内最大の教会であるクリスチャン・カルチュラル・センターの創設者兼CEOであるバーナード師は、この依頼を断ったという。理由は、彼がこの委員会に参加すれば、記録的なペースで開発されたワクチンの「実験台」としてアフリカ系米国人を利用するシステムに「力を貸す」ことになりかねないという意見が信徒の一部に見られたためだ。

ロイターがインタビューを試みた10数名の黒人宗教指導者の大半に共通する点だが、バーナード師も、未知数の部分が残っているように思えるワクチン接種について支持を公言することでコミュニティーからの信頼を損なうリスクを嫌っている。

一般向けにワクチンが提供されるなかで早期に接種を受ける人々について、「試験的に有色人種に接種しているのではないかという懸念がある」とバーナード師は言う。米国の総人口に占める黒人の比率は13.4%だが、ワクチン治験ボランティアに占める比率は約10%だ。

バーナード師は3月に新型コロナウイルスに感染して入院したが、ワクチンの副作用についての情報がもっと出てくるまで「様子を見たい」と言う。

<アフリカ系米国人が持つ不信感>

ワクチン接種を推奨することへのこうした躊躇(ちゅうちょ)は衝撃的である。アフリカ系米国人にとってのCOVID-19のリスクについて彼らのコミュニティーを啓発するうえで、黒人の牧師たちは重要な役割を演じてきたからだ。米疾病予防管理センター(CDC)によれば、アフリカ系は白人系に比べ、COVID-19による死亡率が2.8倍高くなっている。

公衆衛生当局者は、国内での配布が進むCOVID-19ワクチンに対するアフリカ系米国人のあいだでの強い不信感を緩和するうえで、黒人の宗教指導者やロールモデルとなる人物が寄与することを期待している。医療専門家によれば、これまでに米国内で30万人以上の死者を出したパンデミック(世界的な大流行)を終息させるには、ワクチン接種が必須であるという。

ロイター/イプソスが12月行った調査によれば、ワクチンを接種したいとする比率は、白人系では63%であるのに対し、黒人系では49%に留まっている。この調査によれば、ワクチンの開発スピードやトランプ政権による新型コロナ対応の迷走が不安材料になっている点は、黒人・白人双方に共通している。黒人牧師たちは、彼らのコミュニティーのなかには既存の医療機関に対する根深い不信感を抱くメンバーもいると指摘する。

テネシー州ナッシュビルのメトロポリタン・インターデノミネーショナル教会の代表であるエドウィン・サンダース牧師は、1980年代のHIV/AIDS流行以来、公衆衛生教育に関与してきたが、「いま直面しているのは、医療体制の仕組みに関して数世代にわたって積み重なってきた不信感、疑念、恐怖(略)から生じた副産物だ」と語る。

こうした不信感は、数十年にわたり医療へのアクセスや治療といった面での格差、治験への参加比率の低さ、また知らぬうちに実験対象にされていた経緯に根ざしている。1972年まで続けられた悪名高い「タスキギー実験」はその1例で、梅毒を研究するため、感染した黒人男性に関して本人の了解を得ずに治療が行われなかった。

黒人牧師たちは、こうした歴史が、黒人にはCOVID-19ワクチンが効かないのではないか、他の人々とは別のワクチンが投与されるのではないかという恐れを育んでいる、と話す。

テネシー州メンフィスで約50人の信徒を抱えるアビシニアン伝道バプティスト教会のアール・フィッシャー牧師は、「このような大規模ワクチン接種を受け入れるよう、信徒たちに心を込めて説得することはできない。しかし同時に、根拠のない陰謀論を支持しようとしているわけでもない。綱渡りの状態だ」という。

<信頼と情報の不足に懸念>

インタビューに応じた黒人教会指導者は全員、新型コロナ危機を終らせるためにワクチンは必要だと考えていると述べた。だが、現時点で無条件にワクチンを支持すると答えたのは1人だけだった。

体内でワクチンが作用する仕組みや接種を受けられる場所、想定される副作用について教区民に伝達できるよう、もっと情報がほしいとする見解が大半だった。

ブルックリン区ブラウンズビルのファースト・バプティスト教会のレジナルド・ベルトン牧師は、「1人の牧師として、また医療関係者として、これまで目にしてきた惨状ゆえに、人々がワクチンを接種すべきである理由は分かる。しかしその一方で、私たちが過去に受けてきた扱いを考えれば、アフリカ系米国人のコミュニティーがワクチンを信用しない理由も理解できる」と語る。彼はある病院で、聖職者による心理的ケアも行っている。

ベルトン師は、自身もワクチン接種を受ける予定であり、ワクチンについて信徒たちにもっと情報を提供したいと語っているが、ワクチンを支持するかどうかについては明言を避けた。

ロイターがインタビューした牧師たちは、ワクチン受容を高めるには、地方自治体やその他の当局者が信徒コミュニティーとの信頼関係を築く必要がある、と話している。

ミズーリ州セントルイスでライフ・センター・インターナショナル・チャーチ・オブ・ゴッド・イン・クライストを主宰するイライジャ・ハンカーソン牧師は、ファイザー/ビオンテック製、モデルナ製のワクチンの有効性が90%以上であるとする治験結果は出ているものの、自らワクチン接種を推進しようとするには十分ではない、と話す。

だがハンカーソン師は、セントルイス当局がワクチンの有効性と安全性を保証し、教会の法務・医療部門の了解が得られれば、自らウェブキャスト放送やソーシャルメディアでワクチン接種を推奨するつもりだという。双方を合わせると約7万人にその情報が届くことになる。

「たしかにデータは大切だが・・・」とハンカーソン師は言う。彼は叔父と2人の同僚を新型コロナのために失っている。「信頼している人が『これは皆のためになるものだ。パンデミックを片付けよう』と保証してくれれば、私たちは迷わずワクチン接種を受けるだろう」

黒人の医療従事者を組織する全米医療協会(ナショナル・メディカル・アソシエーション)が21日に行った発表は、アフリカ系米国人にそうした保証を与えることが狙いだった。同協会は、治験データを独自に検証したうえで、連邦政府がファイザー製、モデルナ製のワクチン接種を緊急承認したことを支持するとしている。

医療面での人種間格差の是正に取り組んでいるナショナル・ブラック・チャーチ・イニシアチブのアンソニー・エバンス代表は、いずれ黒人系教会が人々にワクチン接種を呼びかける動きに参加することを期待している。

一部の宗教指導者は、自分自身では迷いを感じつつも、他にほとんど選択肢がないという理由でワクチン接種を奨励している。

ミシガン州イプシランティで約400人の信徒を抱えるセカンド・バプティスト教会のジョージ・ワドルス牧師は、今月のオンライン礼拝で次のように語ったという。「私たちには3つの選択肢がある。ワクチン接種か、(社会からの)孤立か、多くの人が命を落とすか、だ」

(翻訳:エァクレーレン)

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