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東浩紀「TwitterやYouTubeで『知の観客』をつくることはできない」

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批評家で哲学者の東浩紀さんが新著『ゲンロン戦記』(中公新書ラクレ)を出した。自身の経営する会社「ゲンロン」の10年を振り返る異色の本だ。なぜ東さんは大学教授という職をなげうち、会社経営を続けてきたのか。プロインタビュアーの吉田豪さんが聞いた——。(前編/全2回)

東浩紀さん批評家で哲学者の東浩紀さん - 撮影=西田香織

「これでいいんですか?」って何回も何回も何回も何回も言った

【東】吉田さんの取材は緊張しますね。

——雑談するだけなので大丈夫ですよ! とりあえず今回の本は、ライバルが『鬼滅の刃』ってぐらいに売れてるらしいじゃないですか。

【東】初速は。でも、どれくらい広がってるのかわからないですよ。そもそもゲンロンってなんだってことですからね。『ゲンロン戦記』ってタイトル自体、「これでいいんですか?」って何回も何回も何回も何回も言ったんだけど、「いや、これがいいんだ」ということで。

東浩紀『ゲンロン戦記』(中公新書ラクレ)

——東さんがゲンロンという会社を作って大変なことになった話だから正解ではあるんですよね。なんでこれを出そうと思ったんですか?

【東】中公さんから企画が来て、「『ゲンロン戦記』って本を出しませんか?」って。これは仮題でそのうち変わるのかと思ってたら変わらないまま最後までいっちゃったっていう感じです。

——最初からそこまで決まってたんですね。

【東】「タイトル『ゲンロン戦記(仮)』ゲンロンの戦いを描く」みたいなことが書いてあって。「へぇーっ、やるならやってもいいですけど売れないと思いますよ」みたいな、最初はそういうスタンス。だけど、たしかにゲンロンを10年やってて、最近入った人は過去に何があったか知らないし、ここで社史をまとめておくのもいいかな、みたいな気持ちもあって。

でも、おもしろおかしいエピソードばっかり追求してもしょうがないから、どうなるのかなって心配してたら、聞き手のノンフィクションライターの石戸諭さんがうまくまとめてくれた。

——『ルポ 百田尚樹現象』(小学館)でおなじみの石戸さんが。

【東】彼自身、ぼくと知り合ったのはゲンロンのチェルノブイリツアーに来ていたからなんです。そういう意味で、ちょうどいい聞き手だったと思います。

吉田豪さんプロインタビュアーの吉田豪さん - 撮影=西田香織

「自分はかなりダメなんだ」に気づくまでの10年間

——東さんはボクが接する限り非常に頭のいい人という印象なのが、この本を読むとなんでこんなに迂闊なんだろうって思うんですよ。

【東】ホントそう。恐ろしいですよね、コスト感覚もないし、人にはだまされるし。

——失敗するのはしょうがないんですけど、同じような失敗を繰り返すから、「え、なんでそこ学習してないの?」ってことが多くて。

【東】そうです。そういう人間なんだということに気がつくのに10年かかった(笑)。自分がかなりダメなんだということに。

——社長なりビジネスマン的な要素が決定的に抜け落ちている。

【東】抜け落ちてるし、まず人を管理してないし。かといって人を伸ばすわけでも……ダメなんですよ、人を見る目もないし。

あとから考えれば「当たるわけない」という失敗ばかり

——とりあえず人を信用するタイプではありますよね。

【東】人を信用するタイプですね。で、デカい話が来るとすぐ、「お、いいね! やろうよ!」みたいな感じで夢を見てしまう。そして、あんまりお金がかかることを気にしない。

——一発当たればなんとかなるよっていう発想で。

【東】そう、「ワンチャン来るでしょ」みたいな(笑)。でも当たらない。あとから考えれば当たるわけないじゃんみたいな、そういう失敗ばかりでしたね。

——なんでこんなにお金でだまされるんだろうっていう思いですよ。

【東】コスト感覚がないんだと思います。あればあるだけ遣うというか、貯蓄とかそういう概念もなくて。それはプライベートでもそうなんです。最近ちょっとお金を貯めるようにしてますけどね、老後のためにも。計画性がないんですよ。

東浩紀さん撮影=西田香織

——すごい当たり前のことに気付いた、と。ちなみにボクは編集プロダクション出身なので、最初にコスト感覚が叩き込まれてたりするんですよ。どうやったら赤字にならないかって、まず考えて。

【東】べつにこっちで採算が取れなくてもあっちが儲かってればいいじゃん、みたいな感じなんですよね。端的に言うと、社会人経験がないからだと思います。『ゲンロン戦記』にも書いてあるけど、ふつうだったら20代、30代で学ぶはずのことを年齢を重ねてからやってしまったところはありますね。

この10年間で大学人や知識人に対する見方がかなり変わった

——その感覚がないまま動くお金がデカくなっちゃったんですね。

【東】そうですね。あと、自分の能力への過信がすごく強くあった。若い頃にある程度成功してるので、いざとなったら1000万、2000万ぐらいの借金は埋められるだろうっていう過信があって。

結局それがいろんなところの判断の甘さだとか、本当は他人と共同で仕事をしているにもかかわらず、いざとなったら俺が穴を埋めるんだから俺の言うことをきけっていう傲慢にもつながってたと思うんですよ。反省だらけの10年ですね。

——だからこそリアリティーのある苦しみとかは伝わりますよ。

【東】どうなんだろうなあ。あるのかもしれないけど、凡庸な話だと思いますよ。ふつうに生活をして会社人をやればこういうことを学ぶっていう、ごくごくふつうのことを10年間かけて学んできた。

それでもぼくがちょっと変わってるのは順番が逆ということで、ふつうだったらビジネスがある程度うまくいってからメディアに出たり大学の先生をやったりするんだけど、ぼくはメディアに出たり大学の先生をやったあとにビジネスをやってる。だから客観的に分析できちゃってるところがあるんだと思いますけどね。

とにかく、ぼくはこの10年間で大学人とか知識人に対する見方がかなり変わってしまったので、昔のようには戻れないです。それがいまネットとかで冷笑的と言われたりするんですけど、冷笑では借金できませんよ。

こんな何千万も借金してるのに、なんで冷笑的って言われなきゃいけないんだって常に思っている。ハッシュタグ運動みたいに冷淡なのもそのせいですね。ハッシュタグで世の中は変わんねえよ、ハッシュタグで給料を払ってみろよって感じなんで。

——ダハハハハ! ボクも冷笑って言われがちなんですけど、やっぱり左右どちらかのはっきりとした意見が求められてるんでしょうね。

「ハッシュタグで政治運動」というのは遊びにしか見えない

【東】いまはみんな条件反射じゃないですか。たとえば、最近は(noteを母体とするcakesが、DV被害に対する人生相談とホームレス記事と声優あさのますみさんの連載消滅という3度の炎上で)いろんな人がnoteやめるとか言ってるけど、noteやめるってどれだけやめたのか、草津温泉に行かないって言ってどれだけ行かないのか。

彼らはハッシュタグを打ってるだけでどんどん忘れていくわけですよね。でも、ビジネスはそうはいかないわけで、給料を払うって言ったら給料を払わなきゃいけない。「#給料払う」と打てば給料払ったことになるんだったら、ぼくだっていくらでも打つけど。

——俺はもっと現実の世界で生きてるんだ、と(笑)。

【東】ハッシュタグを書いてるだけで政治運動やった気になるっていうのは遊びにしか見えない。そういう点では世の中に対する見方が変わっちゃいましたね。

——そういう現実の重要さについて書いた本でもあると思うんですけど、とにかくいちいちふつうのことを言ってるんですよね。オンラインよりもオフラインが重要だとか。

【東】超ふつうですね。デジタルトランスフォーメーションも、いまさらなんだかなとか思ってますよ。

スマートフォン撮影=西田香織

インターネットはSNSが出てきてて、おかしくなってしまった

——東さんもそうだし津田大介さんもそうだし、かつてネットメディアの代表みたいな感じだった人が、「やっぱり対面で話すことが重要だよね」っていう結論に至ったっていうところが興味深いんですよ。

【東】そうですね。ホントぼくもそう思いますよ。ふつうの結論に至ってますよね、やっぱり人って対面で腹を割らないとダメだよね、みたいな。

——津田さんがそれを言い出したときは爆笑しましたけどね。

【東】うーん。

——Twitterで世界は変わる、みたいなことを言ってた人が。

【東】SNSからおかしくなったんだと思いますね。インターネットは出発点はオルタナティブメディアだった。出版やテレビは100万、1000万の人間を相手にしてきたけど、インターネットだったら1万とか10万の数でも十分に人の生活を支えられる。

最初はそういうメディアが出てきたんだと思ったし、実際に90年代に日記サイトとかやってた人たちは、小規模なスケールのオルタナティブメディアをインターネットに見て入ってきてたんだと思うんですよね。

それが2000年代になってSNSとかYouTubeとか出てきて、むしろインターネットがマスメディアよりも大きいマスメディアに変わっていくなかで、そういうオルタナティブなコミュニティを作る側面がどんどん忘れられていったと思うんですよ。

2010年代のインターネットは、かってぼくが昔夢見ていたインターネットではないんですよね。とにかくスケール感が重要で、いいねがいくつ、PVがいくつっていうことばっかりみんなが考えるようになってしまった。そういう意味ではぼくがゲンロンでやってることは、90年代に初めてインターネットに触れたときのネットの可能性を、自分なりの追い続けてる気持ちでもあるんですよね。

数百万人より数百人に届けることにインターネットを使うべき

——最近のYouTubeなりで稼ぐ流れとは真逆ですよね。

【東】いま1再生で0.1円ぐらいなのかな? そうだとすると、100万再生で10万円、1000万再生でようやく100万って感じだけど、それじゃ生活できるひと超少ないですよね。

他方でウチの動画プラットフォーム「シラス」であれば65パーセントがテナントに入る設計になっていて、そうすると30万円を集めれば20万円入るんですよね。つまり1500円を200人が払えばいい。200人を集めれば20万円入る。ホントはインターネットってこういうふうに使うもので、なんで100万ビューで10万円なんだって思うわけ。

——それはものすごく思います。

【東】最近、ぼくの友人の渋谷慶一郎って音楽家が『ミッドナイトスワン』のサントラをやってて話題になっていてるんですけど、彼は今回あえて、一番売れる曲はCDでしか聴けないようにしてるんですよ。それでCDを自分で梱包して発送してるんだけど、そちらのほうがはるかに儲かるんだって。

東浩紀さん撮影=西田香織

——サブスクは広がりはあるけど儲かるものじゃないですよね。

【東】結局、少人数のちゃんと支えてくれる人たちがいればいいんですよ。彼らはプラットフォームや広告代理店に金を落としたいわけじゃないから、その人たちといかにダイレクトにつながって、彼らの熱量でこっちがいいコンテンツを作るような生態系を作っていくかっていうことだと思うんです。でもいまのプラットフォームビジネスはそうじゃなくなってる。

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