- 2021年01月01日 15:43 (配信日時 01月01日 11:15)
「逃げるな、隠すな」アパホテルのカレーに母親の顔写真が載ることになった経緯
1/2アパホテルはレトルトカレーの「アパ社長カレー」を販売している。そのパッケージには社長の顔写真が大きく入っている。なぜカレーを開発したのか。何のために社長の写真を入れているのか。開発者で社長の息子である元谷拓氏が解説する——。
※本稿は、元谷拓『アパ社長カレーの野望』(青春出版社)の一部を再編集したものです。

直営レストランのカレーの味が統一されていなかった
アパ社長カレーの「困難(スパイシー)な状況」は、その誕生以前にさかのぼります。
「違う!」
ある地方のアパホテルへ行ったときのこと。ホテル直営のレストランでカレーを食べた私は衝撃を受けました。なんと、東京の直営レストランのものと味がまったく違ったのです!
「アパホテルでは、直営レストランのカレーの味が統一されていない」というショックな事実に直面した瞬間でした。老若男女を問わず人気のカレーは、ホテルレストランの看板メニューです。カレーがレストランの評価を決めるといっても過言ではなく、また、そのホテルのブランドをも左右しかねない特別なメニュー。大手シティホテルほどそれがわかっているので、カレーには力を入れていますし、ホテルブランドを上手く使って商品化もしています。それが、アパホテルでは味がバラバラ……。
「金沢カレー」にピンときた
「アパならではのおいしいカレーを開発しよう」
まずは全国各地からありとあらゆるカレーを取り寄せて試食です。一口にカレーといっても、本場のインドカリー風から昔なつかしい家庭的なもの、北海道のスープカレーほかご当地カレーなど、実にバラエティ豊か。これならモデルにできるものも見つかるはず。ところが……ピンとくる味にはなかなか出会えませんでした。
さんざん食べるなかで、ふと思い出したのは故郷石川県で子どものころに食べたカレーでした。
「そうだ、金沢カレーだ!」
金沢カレーといえば、ゴリラの看板が目を引くゴーゴーカレーでご存知の方も多いでしょう。ビーフシチューのようなコクとごはんの上にキープされる濃厚さ、とんかつとキャベツが添えられた石川県独自のご当地カレーです。私のカレーの原点であり、また、金沢はアパホテル発祥の地でもあります。私はゴーゴーカレーの大ファンで、宮森宏和社長に、アパホテルが発行している『アップルタウン』という雑誌のなかの「スーパー企業最前線」のコーナーで、取材に行ったくらいなのです。
めざすカレーはこうして決まりました。
ホテルニューオータニの元料理長が開発を支えた
アパホテルのオリジナルカレー開発を支えてくれたのは、アパホテル統括料理長の岩崎勇。ホテルニューオータニの料理長をしていた名シェフがアパホテルに転職してきていたこともアパ社長カレーにとって幸運でした。シンガポールのニューオータニ時代には料理の国際大会で、冷製部門の世界チャンピオンになったこともある実力派です。
「スパイシーななかにもコクとまろやかさを」
「ホテルカレーの高級感をもっと!」
「後味を引き立たせる工夫は……」
具材の旨みを溶け込ませるスープやソースづくりの専門家である岩崎シェフが、私のイメージをカレーに溶け込ませていきます。試行錯誤のすえ、隠し味にとんかつソースを加えることでスパイシーながらも果実と野菜の旨みと香り、高級感が後味に残る、最高のアパオリジナルカレーが完成したのです。

「シェフの労務時間を減らすこと」も目的
実は、カレー開発を決めたのには、「全国どのホテルでも味わえる安定したおいしさ」を求める以外にもう一つ目的がありました。
それは「シェフの労務時間を減らすこと」。
カレーはおいしくつくろうと思えば思うほど手間も時間もかかります。シェフが変わっても味がブレないためにはレシピだけでなく技術を伝えることも必要になります。さらに、ホテルレストランでは、大人数の料理を決まった時間に提供しなければなりません。人気メニューともなれば、その負担は甚大です。
ですから、安定したおいしさを確実に提供するなら外部の工場で業務用につくろう、と開発の段階で決めていました。
お客様を喜ばせるには、まず従業員が無理なく働ける環境があってこそ。アパ社長カレーは、「お客様だけでなく、社員も幸せにしたい!」という情熱のスパイスも隠し味になっております。
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