- 2020年12月31日 17:52
【民の声新聞が見た2020年の福島】弱者に冷たい内堀県政、五輪準備の陰で原発避難者切り捨て 「汚染水海洋放出」に「伝承館」で〝復興〟? そして「丸10年」へ
1/22020年も今日で終わり。震災・原発事故から9年が経った福島にも新型コロナウイルスの波が押し寄せた。批判の声が多い〝復興五輪〟は1年延期。一方で原発避難者の切り捨てはさらに進み、ハコもの復興ばかりが進んだ。原発事故後にたまり続ける汚染水問題は解決しないまま越年。原発事故を後世に伝えるための「伝承館」も〝復興〟に軸足を置いた中途半端な滑り出しとなった。今年書いた100本の記事から、2020年の福島を振り返りたい。次の「3・11」で丸10年。しかし、原発事故被害者に「区切り」など無い。課題が山積したまま、新しい年を迎える。
【課題あぶり出した水害】
2020年の福島取材は元日に始まった。
いわき市の「内郷コミュニティセンター」。暖冬だったとはいえ、寒さが身に染みる体育館で、70人のいわき市民が「10・12水害」(2019年台風19号水害)の被災者たちが新しい年を迎えた。
男性は言った。
「行政区長が『どんどん不動産業者に電話をかけて年内に(新しい住まいを)決めてください』って厳しい口調で言ってました。被災者の気持ちになっていないですよ。私たちは遊び呆けてここに居るわけではありません。住まいが確保出来ないから、昼間は働いたり自宅の片づけをしたりしながらここで寝泊まりしているんです。政治は本当に冷たい」
郡山市は昨年12月25日をもって市内の水害避難所を全て閉鎖した。被災者に「期限を決めた自立」を強要する姿勢は、原発避難者への仕打ちと全く同じだ。
「行き先が『決まった』んじゃありません。『決めた』んですよ。もう少しここに居たい、せめて正月三が日が明けるまでは避難所に居たいって言う人もいたけど、いつまでも甘えてばかりというわけにもいかないものね…。25日までしか居られないから、みんな不動産屋さんを巡って大急ぎでアパートを探したんですよ」
女性は自分に言い聞かせるように語っていた。
自宅が激しく損傷した被災者が国の「被災者生活再建支援金」を申請しても、書類提出から振込までに半年も要した人もいた。水害発生から7カ月以上が経過した5月末の段階で、まだ2割近くの人が支援金を得られていなかった。これでは「生活再建」どころでは無い。
水害は、放射性廃棄物に関する情報公開の課題も浮き彫りにした。
福島県本宮市の災害廃棄物は1月27日から3週間にわたって一部が新潟県五泉市に運ばれ燃やされたが、「木くず」や「稲わら」は県の自主基準100Bq/kgを上回った(最大で662・4Bq/kg)ため搬出を断念されていた。しかし、測定値は一切公表されず、県の情報公開制度で入手した文書で判明した。
別の災害廃棄物は原発事故後に環境省が設置した仮設焼却炉で焼却されたが、「焼却灰は全て8000Bq/kgを下回ったので指定廃棄物にはならない」として発生元自治体に返却されている。これも住民への公表は無し。震災・原発事故発生から間もなく丸10年を迎える福島は、依然として情報公開や透明性の点で大きく遅れている。

②〝復興〟をアピールする五輪開催に福島県内からも反対の声があがった。感染症を理由に1年延期したが、五輪どころでは無い
③「子ども脱被ばく裁判」の証人として3月、福島地裁で証言した山下俊一氏。当時の発言の誤りを一部認め、「誤解を招いたのであれば申し訳ない」などと述べた
④4月には〝アベノマスク疑惑〟が浮上。福島市内の会社が一部を受注したが、ほとんど実態の無い会社だった
⑤国や福島県による「原発避難いじめ」がさらに進んだ今年。福島県は〝避難者追い出し訴訟〟を福島地裁に起こした
⑥震災・原発事故で「復興公営住宅」に入居した被災者の一部が「収入超過」で家賃値上げの対象となっている事も判明。入居者からは反発と戸惑いの声があがった
【五輪延期と避難者切り捨て】
計画通りであれば、今年は3月26日に〝復興五輪〟の聖火リレーがJヴィレッジをスタート。7月には福島市で野球とソフトボールの試合が行われるはずだった。国も福島県も「原発事故から立ち直った姿」を国内外に発信する好機と捉えていたが、新型コロナウイルスの感染拡大を受け、1年延期された。
そもそも、〝復興〟を世界にアピールする場としての五輪開催には、福島県内でも疑問や批判の声が絶えなかった。
原発事故で避難を強いられた浪江町民は「オリンピックも聖火リレーも国の〝コマーシャル〟なんだ。復興でもなんでも無い」と怒り、2月末と3月1日には、原発事故の被害者たちがJヴィレッジや県営あづま球場で「福島はオリンピックどごでねぇ」と声をあげた。
- 鈴木博喜 (「民の声新聞」発行人)
- フリーライター