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フィフィさんのツイートに学ぶ移民社会(3)

 前回の記事では、移民の中には、自ら「モデルマイノリティ」と呼ばれたがる人たちがいることを取り上げました。

 その理由として、「マジョリティの価値観を習得すればマジョリティに仲間入りできる」と考えてしまう場合のことを紹介しましたが、それですべて説明できたわけではありません。

 というのも、自らある種の「モデルマイノリティ」になろうとする生き方を選択するマイノリティは、移民一世だけではありません。四世、五世が生まれつつある在日コリアンの中でもよく見かけますし、むしろマイノリティ一般に広くみられる行動様式だからです。

(3)「意識の高いマイノリティ問題」(業績主義と公正世界への信念)

 人を評価するとき、年齢、性、人種・民族、家柄等の個人の能力や努力によって変えられない生得的要素を重視する立場を「属性主義」といいます。逆に、個人の努力と能力、およびその結果である業績といった獲得的要素を重視する立場を「業績主義」といいます。

 マイノリティとは、属性主義によってライフチャンスを相対的に剥奪されている人々のことだ、という考え方があります。つまり、人と同じ業績を達成したとしても、その属性によって評価を制限され、相対的に低い地位にしかつけない人々を指してマイノリティというのだ、というわけです。

 じじつ、マイノリティの中には、本人にはどうしようもない属性よる不利に直面し、それを克服するために、一倍の努力で社会的地位を達成しようとする人が少なくありません。属性主義による不利益を業績主義によってカバーしようとする生存戦略ですね。

 マイノリティが持ち前の能力をいかしながら、人一倍の努力で逆境を克服して行く姿は、それ自体が感銘を呼び起こすものであるため、数多くの物語を生み出してきました。王貞治やジダンを例に出すまでもなく、努力と能力で不利益を克服したマイノリティを皆さんも何人か知っていることだと思います。マイノリティが業績主義への強い志向性をもつことは、ある意味で《美しい》と評価されうる現象だともいえます。

 ただし、問題があるのは、その業績主義という理想を信奉しすぎて、属性主義に基づく差別を「ない」ことにしてしまうような場合があることです。あるいは、差別があることは認めつつも、個人の努力によってつねに克服可能なものであるとみなすことで、差別の責任を被差別者の側に負わせる場合があることです。

 例えば、ジョージ・ブッシュ大統領のもとで国務長官などを務めたコンドリーザ・ライスは、「実力さえあれば特別な優遇措置は必要ない」というスタンスで積極的な差別撤廃策に反対しています。また、ニューズウィーク誌のインタビューに答えて次のように語ったこともあります。

「人の2倍努力しなければならないなんて、ヒドイとか間違っているとかいう人もいるけど、それは違う。単に、人の2倍努力しなければならないだけ。」


 じつにマッチョですね。小さなころから天才少女ともてはやされるだけの素養を生かして政権中枢にまで上り詰めた実績に裏付けられているだけに、相当に堅固な信念のようです。

 フィフィさんのツイートの中にも、同種のマッチョな要素がみられます。自分は努力によって苦労をはねのけて今の地位を築いた。通名を名乗って出自を隠している在日コリアンあたりは甘えるな、というご主張です。

「私は12年間日本の教育制度で学んだから留学生としてでは無く、日本の学生と同額を払って大学に通った。それでも容姿が外国人だから就活では外国人受け付けてませんと門前払いも何度か。それでも実力の無さと受け取って留学して再度就職に挑んだ。都合よく外国人と日本人使い分ける連中とは苦労が違う」http://favstar.fm/users/FIFI_Egypt/status/268203877608849409

「恩恵を受けているなら、文句を言うな。文句を言いながらおねだりすれば、それは"たかり"と言われても当然。プライドがあるなら自らを偽るな。」http://favstar.fm/users/FIFI_Egypt/status/263474147458420736


 埼玉大学の福岡安則さんは、このような生き方を「個人志向」タイプと名付けて次のように特徴を整理しています。(福岡安則『在日韓国・朝鮮人』[中公新書:96-97頁])

 このタイプの中心課題は、個人主義的な意味合いで「自己の確立」を達成することであり、「個人的成功」の追求のかたちをとることが多い具体的には、社会的「移動」によって、差別的評価から自由になることをめざす。...(中略) 彼ら/彼女らの典型的な生活史をみるとき、特徴的なのは、自己自身の能力に一定の自信をもって育ってきたということである。それゆえ、日本社会に在日韓国・朝鮮人として生きることでの違和感や葛藤を体験しても、それが自我にとってのトラウマになることからは免れている。


 ようするに、自分の才覚に自信のあるマイノリティは、「努力すれば報われる」と信じることで、民族的な劣等感を免れる場合があるということですね。才能があると自覚しているマイノリティにとって、魅力的な生き方の一つではあるでしょう。《才能のない人々》を切り捨てているという自覚をもたないかぎりは。

 「努力すれば報われる」に代表される、世界は正しく動いているはずだという考え方を「公正世界信念」といいます。公正世界信念は、「差別は差別される側に(も)責任がある」のような「犠牲者非難」を生じやすいことが知られています(詳細は下記の記事を参照)。

http://han.org/blog/2010/02/post-119.html


http://han.org/blog/2010/02/post-120.html


http://han.org/blog/2010/03/victim-blaming.html


 民族的な劣等感を免れたいがために、「努力すれば報われる」という公正な世界を信じ込み、その信念を脅かす無実の犠牲者を「ないもの」とみなしたり、「差別される側に責任がある」と考えてしまったりする。それは、じつに悲しい不正義だといえないでしょうか。

 ぼくとしては、移民や民族的マイノリティが、そもそも民族的劣等感などもたずに、ただまっとうに生きていける社会が到来することを願うばかりです。

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