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新・個人主義

東大名誉教授の上野千鶴子氏が「おひとりさまの老後」という書を発刊したのが2011年。その後、おひとりさまシリーズとして「男おひとりさま道」「おひとりさまの最期」を次々と出しました。私も読みましたがその頃からお年寄りが一人でも生活できる実感が出てきた時でもあります。

食事はスーパーのおひとり様用総菜コーナーで購入すればよいし、重いものはアマゾンやスーパーの宅配で調達、ネットという便利なものでほとんどの生活は不自由せず、出かけるときは病院に行くときだけなんていう方もいらっしゃるのかもしれません。

老人の一人住まいで困るのが掃除と何か壊れた時の対応。ひと昔前には街中にはナショナルショップ(今のパナソニックショップ)のような電機のよろず屋さんがあり、「電球買うから電球の交換もお願い」と言えたのですが、今はなかなかそういう時代でもなく、この辺りが不便なところなのかもしれません。

しかし、お年寄りですらおひとり様で悠々自適に過ごせるのであればそれが全世代に伝播しないわけがありません。

日本で個人主義が概念として伝わったのは明治維新の頃とされますが、それが直ちに水平展開されたとは思えません。特に戦時中は全体主義的な傾向、戦後の高度成長期における集団主義では個人主義を意図的に隠す必要すらあったかもしれません。ところがバブル崩壊後、軽薄短小、多品種少量生産が普及したところから若者を中心に個人主義が芽生えてきます。

しかし、当時の個人主義は大枠からは外れないながらも流行ばかりを追わない個性を見せ、いわゆる画一的なブランド商品の押し売りが崩れ始めた頃であります。糸井重里氏風に言えば「ちょっぴり自己風」(これ、私が作ったキャッチです)だったと思います。特にファッションでその兆候が見え始めたのが90年代でした。

音楽の世界では芸能事務所とテレビ局やメディアの連携もあり、なかなか崩れませんでしたが、ここにきて一部人気グループの凋落が明白になってきています。この背景は音楽個人主義が本格的に浸透してきたためですが、個人的にはiPhoneと白いイヤホン、それに音楽のストリーミング再生という技術が「こんな曲もあるんだ」という発掘につながったのでしょう。

最近では「オリコンの没落、ビルボードの躍進」(=人気曲の選出方法を多面的で複雑化させた)が指摘され、音楽個人主義を後押ししているとされます。要は一部の企業による操作が出来なくなり、本当に自分が好きなのは何なのか、個人が探せる時代になったともいえます。

そんな着実な個人主義が今後更に進展する可能性があるとみています。それは「コロナが変える世界」の一つで仕事のやり方や人との付き合い方の変化を見て取っています。以前にも指摘しましたが、コロナとは無関係にフェイスブックは本当に活用されているのか、という疑問があります。私の周りでは登録はしているけれど積極活用している人が少なくなってきているのです。

一部では「関係の薄い人とは切る」という明白な行動をしている人もいます。かつては「お友達の数」が多い、少ないの議論をしたと思いますが、今では別に5人でも10人でもいいしっかりつながっている方がいい、という時代になってきていないでしょうか?

つまり、モノと情報があふれる時代に於いて人々は腹いっぱい食わされ、消化不良を起こし、「何か変だ」と思い始めたのが昨今の動きではないかと思うのです。

リモートワークが普通になっても都心に住みたい人もいれば田舎に引っ込む人もいます。レストランで食べる選択肢とデリバリーしてもらう選択もあります。旅行だってそのうち実際に行くだけではなく、VR旅行が可能になりそうです。フィットネスはジムに行かなくてもアップルをはじめ各種フィットネスアプリを使って自宅でやるかもしれません。

つまり、そこは人と繋がる必要が無くなってきているのです。言い方は悪いのですが、上野千鶴子氏が「おひとりさまシリーズ」をお年寄りをターゲットにして書いたのは衣食住といった基本生活の確保という最も単純モデルであったけれどそれから10年近くたってどんな人にもおひとりでも満足を与えられる社会が出現したと言えないでしょうか?

私はこれぞ「新・個人主義」の始まりだと思っています。だからこそ、ビックデータのように人々の行動規範をベースに個人の行動を予測されるのを嫌い、偏屈になる人だって当然出てくるわけです。ただ、偏屈とは迎合しないという観点であれば「世の中総偏屈主義」にすらなり得るともいえます。

カナダに29年も住んで個人主義のメッカ故に強烈な個性を持つ日本人に囲まれながら自分もいつの間にかその色に染まってしまった経験を感じながら日本でもそんな社会が遠からずやってくるのだろうと思わずにはいかないのです。

では今日はこのぐらいで。

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