- 2020年12月30日 07:06
コロナ禍の冬、江戸時代から続く東京の祭りで人々が願ったこと【定点観測】
1/2東京浅草の鷲神社で江戸時代から続くお祭り「酉の市」。例年、商売繁盛を願う縁起物「熊手」を求めて多くの参拝者が訪れる。
筆者は昨年、この祭りを定点観測取材し、個性豊かな多くの人たちに出会った。

しかし、今年は新型コロナウイルス拡大に襲われた1年。商売繁盛を願う人の気持ちは、賑やかだった去年とは全く違うものになっているのではないか……。
そこで今年も足を運んで聞いてみた。
「2020年の冬、神様に何を願いましたか?」
「酉の市」とは
毎年11月の酉の日に行われる伝統神事。関東各地で開かれているが、なかでも鷲神社は「起源発祥」として知られる。「一番太鼓」を合図に始まり、終日、祭りで賑わう。参拝客の多くが目当てとするのが、福を呼び込むとされる縁起物の「熊手」だ。おかめの面や来年の干支など意匠を凝らした豪華な熊手を販売する商店が境内に並ぶ。今年は一の酉から三の酉まで3週に渡り、3日間開催された。

「仕事がなくなってもコロナに負けていられない」
11月14日、二の酉。
最初に取材したのは茨城から車で来たという男性グループ。代表で答えてくれた29歳の男性は建設会社の社長だ。

「1ヶ月前が一番大変でしたね。案件がなくなってしまったり、中国の工場の生産が止まったりで仕事がなくなって。今も全然仕事は戻らないです」
でも、後ろ向きなことばかりは言ってられない。
「コロナに負けず、いろんなところに営業をかけて頑張っています」
熊手を抱えて力強く口にする社長。
「来年は景気が戻るといいな。神頼みです」
コロナ禍で社会人デビュー 2人の夢は?
大学時代の先輩後輩関係だという花菜子さん(23)と麻衣さん(22)。

花菜子さんはコロナの感染拡大が本格化しだした今年4月、金融系の会社に新卒として入社した。
「研修期間はずっと在宅勤務。同期にも先輩たちにもなかなか会えないままでの社会人生活スタートでした。ようやく……いや、やっぱりまだ慣れないかな」
一方、麻衣さんは来年、花菜子さんとは別の金融系の会社に入社する。去年も酉の市に2人で足を運び、就職活動の成功を願った。
今年は?
「やっぱり商売繁盛の神様なので、稼げますように」(花菜子さん)。「社会人生活がうまくいきますように」(麻衣さん)。
手元には2千円の熊手。「いつかあんな大きな熊手を買いたいね」。そう言って笑う2人の目線の先には巨大な熊手を吟味する"先輩"たちの姿があった。
「4日前にプロポーズしました」

小坂莉緒さん(27)は隣に立つ郡実春さん(26)と顔を見合わせながら、幸せそうに教えてくれた。
「本当は海外で結婚を申し込むのが僕の夢でした」という莉緒さん。そのプランはコロナのせいで現実にできなかった。
だけど、悪いことばかりではない。2月から同棲を始めたという2人だが、仕事が休みになることも多かったことが幸いして「一緒にいる時間が増えました」(実春さん)。
ゲームや筋トレ、映画鑑賞……。「コロナによって絆が深まった」と2人は振り返る。
海外の代わりに莉緒さんがプロポーズに選んだ場所はGoToトラベルキャンペーンで行った北海道。実春さんは「びっくりしたけれど、待ちわびていたので」と喜んでOKした。


今年、2人が選んだ初めての熊手には「寿」の文字。願うことはもちろん、「2人の幸せです」。
2021年は丑年だから!
二の酉から11日後の11月25日夜、最終日である三の酉の宵宮祭が開かれた。

牛の飾りが目立つ熊手を購入した男性(34)は千葉県市原市から訪れた。営んでいるのは焼肉店。
時短営業も乗り越えて今年の困難に打ち勝ってきた。熊手には"途切れないこと"を表す「牛の涎(よだれ)」の文字が躍る。


「来年は丑年ですから勝負をかけます」。気合は十分だ。
荒波を乗り越えろ 伝統ある熊手店が生み出した厄除けデザイン
取材相手を探しながら華やかな熊手店の間を右往左往していると店の人から声をかけられた。
熊手店「西藤」(埼玉県さいたま市)の3代目、西野豊さん。昨年の定点観測の際に取材させていただいたことを覚えてくれていたそうだ。

「今年はどんな1年でしたか?」と今年も話を聞かせてもらう。
「春先からちょっと一大事だということで厄除けのデザインを組み込みながら熊手のデザインを練っていました」
たどり着いたのは「宝船」。コロナ禍という波を乗り越える船を、京都から仕入れた越前和紙を使って表現した。


「景気良く手締めをしたいんですけれど、感染防止のルールで今年は声が出せない。その分、飾り付けを豪華にして、来年がお客様にとって良い年になるようにご祈念しています」
祭りのピークも今年は人の数少なく……
0時を迎え日付が変わると、一番太鼓が打ち鳴らされ祭りの本番。前に進めないほどの人混みが神社の前にできる……のは昨年までの光景だ。今年は、他の時間帯より参拝者が増えたものの、その数は少ない。

仕事仲間の男性2人と熊手を購入した神奈川県川崎市のスナック「みな」のママは20年以上、酉の市に通う常連。去年までの雰囲気との差に驚いていた。
今年のスナック経営は緊急事態宣言の影響が響いた。感染者を出さないようにと気をつけながら踏ん張ったが「お客さんは少なくなっている」と今も気を抜けない。

周りからは「店を閉めた」という話も耳にする。そのなかで言われた常連客からの「長く続けてくれ」という言葉。大変な状況だが「お客さんのためにも」と来年の回復を願った。