記事

『水曜日のダウンタウン』総合演出・藤井健太郎の悪意とイタズラの演出論 真似できないこだわりと番組への愛情

2/2

編集も原稿もすべて1人でこなすこだわりぶり

Pixabay

僕は放送作家のため、ディレクターの仕事を100%理解しているわけではありませんが、著書を読んでみて他のディレクターと藤井さんの異なると感じた点がいくつかありました。1つが「総合演出として自分の手で行う作業量が多い」こと。

これはテレビ制作に関わる者しか分からない部分なのですが、著書の中で藤井さんは最終的に番組の編集はすべて自分で行い、ナレーション原稿もすべて自分で書き、オンエアの尺にする本編編集を他人に任せたのはたった1回だけと述べています。

総合演出は指示を出して、部下のディレクターに作業を任せて編集を自ら監修するのが一般的な仕事のやり方だと思います。総合演出にもかかわらずここまで自分で作業をしている人は多くないはずです。あのナレーションも含めた細かい編集のこだわりはどんなに優秀なディレクターに任せても再現性が低いのかもしれません。いや、そんな理屈抜きに自分でやってしまいたい人なのかもしれませんが…。

テレビ番組の制作工程には、編集したVTRを放送作家に見せてあれこれ意見をもらう「プレビュー」と呼ばれる会議があるのですが、藤井さんはそれもやらないそうです。これに関しては藤井さんが少数派というわけではなく、ディレクターによって考え方が分かれます。

数としてどっちが多いかは分かりませんが、どちらにもメリットデメリットがあって…多くの人の意見を参考にすることで、視聴者が見やすくて分かりやすいVTR編集にすることができるので客観的な視点を持った放送作家に見てもらいたいという考えが1つ。

多くの人にプレビューしてもらって人の意見を取り入れることでVTRがどんどん無難な丸いものになっていき、面白さが無くなってしまうという考えがもう1つ。藤井さんは後者のようです。

確かにプレビューの際、放送作家は少し複雑だったり、マニアックだったり、お笑いの偏差値が高すぎる部分があった場合に「視聴者にはこれ伝わらないと思いますよ」的なことを言ってしまいがち。

藤井さんは著書の中で「ほとんどの人が気づかないような細かいネタを散りばめている」「わからなくても成立するけどわかったらもっと面白い要素を入れるのが好みの作り」と綴っています。このような細部へのこだわりが、自身の手で編集作業をすべて行うことにつながっているのかもしれません。

藤井さん演出の番組は再現性が低い

写真AC

ビジネス的な観点で見ると、藤井さん演出の番組は「極めて再現性が低いコンテンツ」と言えるのではないでしょうか。スタジオジブリで長年宮崎駿監督の仕事を見てきたクリエイターであっても宮崎監督の作品を再現することが難しいのと同じように、藤井健太郎さんの作る番組を再現することは難しいはずです。

藤井さんが演出を務める『水曜日のダウンタウン』が残した演出のノウハウはTBSの後輩局員によって引き継がれていくとは思いますが、あのセンスや面白さを引き継いで「水曜日のダウンタウンのような面白い番組」を作るのは難しいと思います。だからこそ『水曜日のダウンタウン』という番組には、ここでしか見られない価値があると思います。

一定の功績を残したディレクターの中には、現役を退いても監修的な立ち位置で後輩に助言を与えながら番組作りに関わっていく方もいますが、どうやら藤井さんにはそういう気持ちはないようです。著書の中で「演出業を退いたらきっぱり現役から離れたいともちょっと思っています」と綴っています。また、あとがきにはこんな記述も…。

「体力的な問題もあるだろうし、きっと世間とのズレも出てくると思います。僕のキャリアのピークは、おそらく長くて今から5年くらいでしょう」。この本が出版されたのは2016年8月。来年の2021年がその5年目になります。

藤井健太郎という稀代の天才ディレクターが本当にあと1~2年で世間とズレてしまうのか? または才能が枯れてしまうのか? すっぱりテレビ制作から身を引くのか? とても興味があるので、これからも藤井さんの作る番組を追っかけていきたいと思います。

本の要約チャンネルを例に出した割には、本の内容をあまり入れ込むことができませんでした。申し訳ありません。とにもかくにも、できるだけウィンウィンウィンにしたいので藤井健太郎さんのことが気になった方はぜひともAmazonで本を買ってください。『悪意とこだわりの演出術』というタイトルです。もちろん、内容も大変面白いですから。

悪意とこだわりの演出術 Kindle版

深田憲作
放送作家/『日本放送作家名鑑』管理人
担当番組/シルシルミシル/めちゃイケ/ガキの使い笑ってはいけないシリーズ/青春高校
3年C組/GET SPORTS/得する人損する人/激レアさんを連れてきた/新しい波24
/くりぃむナントカ/カリギュラ
・Twitter @kensakufukata
日本放送作家名鑑

あわせて読みたい

「テレビ業界」の記事一覧へ

トピックス

ランキング

  1. 1

    KDDI「povo」への批判はお門違い

    自由人

  2. 2

    PCR検査で莫大な利益得る医院も

    中村ゆきつぐ

  3. 3

    広島県の大規模PCR検査は愚行

    青山まさゆき

  4. 4

    橋下氏 いま日本は「欠陥の車」

    橋下徹

  5. 5

    菅首相発言が「絶対アカン」理由

    郷原信郎

  6. 6

    菅首相発言に漂う日本崩壊の気配

    メディアゴン

  7. 7

    渡邉美樹氏 外食産業は崩壊危機

    わたなべ美樹

  8. 8

    青学・原監督の改革を学連は黙殺

    文春オンライン

  9. 9

    車移動に回帰? ペーパー講習混雑

    井元康一郎

  10. 10

    デパ地下以外は死んでいる百貨店

    PRESIDENT Online

ランキング一覧

ログイン

ログインするアカウントをお選びください。
以下のいずれかのアカウントでBLOGOSにログインすることができます。

コメントを書き込むには FacebookID、TwitterID のいずれかで認証を行う必要があります。

※livedoorIDでログインした場合、ご利用できるのはフォロー機能、マイページ機能、支持するボタンのみとなります。