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『水曜日のダウンタウン』総合演出・藤井健太郎の悪意とイタズラの演出論 真似できないこだわりと番組への愛情

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お笑いファンからカリスマ的な人気を誇る『水曜日のダウンタウン』で総合演出を務める藤井健太郎氏。彼の著書『悪意とこだわりの演出術』から藤井流の演出術を分析します。


放送作家の深田憲作です。今回は「今、最も注目されているバラエティの演出家の1人」について書いてみたいと思います。…が、本題の前に私の身の上話に少々お付き合いください。

読者の中にも今年YouTubeを見る習慣がついた方が多くいらっしゃるのではないでしょうか。御多分にもれず、僕も生活の中にYouTubeが侵食し、その勢力は日々拡大しています。Amazonなどもそうですが、ネットの“レコメンド機能”は凄いですね。

YouTubeではその人が普段視聴している動画からAIが推測し、その人の好みと思われる動画が「関連動画」としてオススメされます。関連動画を見ながら「うわ、この動画も見たい! よし見よう!」「こんな動画もあるの!? よし見よう!」の連続です。

こういったシステムの秀逸さだけで言うと、テレビは到底YouTubeには敵いません。日本でテレビ放送が開始したのは1939年。約80年前ですから、新進気鋭のYouTubeにシステムで勝てないのは仕方がないと思います。

テレビも20年後、30年後はYouTubeのようなシステムになっているかもしれません。番組の配信日時は決まっていて、視聴者が番組表をクリックするとスタート。

生放送はその時間に配信されて、アーカイブは後からでも見られる。視聴者の好みをAIが推測してオススメの番組を勧めてくれる。視聴者の属性に合わせた広告が流れる。しかも早送りができない…という具合に。

「今からそうすればいいじゃん」と言われてしまいそうですが、僕もそう思って有識者に確認したところ、テレビ放送で使用している電波ではYouTubeのようなシステムはまだ組めないそうです。テレビは免許事業のため、根本のシステムを変えることは簡単ではないのでしょう。

YouTubeで僕がよく見る動画のジャンルに「本の要約チャンネル」があります。発刊されている本の内容をイラストレーションやナレーションを用いて10~15分にまとめた動画を挙げているチャンネルのことです。

中でも「サラタメさん【サラリーマンYouTuber】」というチャンネルは、構成も分かりやすく、ナレーションの声質やテンポも気持ちよく見やすいのでオススメです。

オリエンタルラジオ中田敦彦さんの「中田敦彦のYouTube大学」もいわば本の要約チャンネルですね。これもよく見させてもらっています。

「本の内容を短くまとめている動画」と聞くと、ネタバレで筆者や出版社が迷惑を被っているものと考えてしまいますが、本の要約チャンネルに紹介された本は売上が伸びるそうです。視聴者にとっても10分ほどで本の内容が分かり、その本を買うかどうかの判断もできるため、①YouTuber②筆者&出版社③視聴者の3者がウィンウィンウィンの構図だと思います。

事実、中田敦彦さんの元には出版社から「うちの本をぜひ扱ってください」と新刊が送られてくるそうです。(中田さんは「献本された本は絶対に紹介しない」と言っていますが…)

YouTuberの立場で考えると、紹介する本が尽きることはありませんから、ネタ切れはありません。何より良質な本を熟読し、他者に伝わるように噛み砕いて説明することで自身の理解度も深まります。本の要約チャンネルを運営することで自分の見識が広がり人生が豊かになるのではないでしょうか。

色々な観点から考えても本の要約チャンネルは、よくできていると思います。

毒のある笑いにカリスマ性が宿る

水曜日のダウンタウン|TBSテレビ

そこでようやく本題になりますが…「このコラムでもあれをやっちゃおうか」と思い立ち今回のコラムを書くに至りました。

僕は放送作家ですので、テレビマンが出版した本をご紹介して、一応テレビマンとしての目線で意見も述べさせていただき、読まれた方の一部にでも本を買っていただければ、ウィンウィンウィンになるかと思った次第です。

僕としても「テレビマンの本を要約するコラム」がシリーズ化できれば、毎月コラムのネタを考える労力も減らすことができます(笑)

そこで第1回は誰の本を紹介しようかと考えた結果、この人が適任かと思いました。それはTBS局員の藤井健太郎さんの著者『悪意とこだわりの演出術』。

藤井健太郎さんは現在放送されている『水曜日のダウンタウン』の他に『クイズ☆タレント名鑑』『クイズ☆正解は一年後』『キリウリ』『有吉弘行のドッ喜利王』など、数々の番組で演出を担当されています。(ちなみに僕はお仕事をさせてもらったことはないですし、面識もありません)

現役テレビマンの中でも、お笑い好きの視聴者から最も熱い支持を受け、強いカリスマ性を誇るテレビディレクターが藤井さんではないかと思います。

本のタイトルにもなっているように藤井さんの番組には悪意というか、毒というか、トゲというか、そういった類の演出が散見されます。

著者に書かれていた内容で例を挙げると『水曜日のダウンタウン』で「美女と野獣のカップルはいるが、その逆はいない説」という検証企画。

ブサイクな女性とイケメンのカップルを探していく内容ですが、VTRの中でBGMに広瀬香美さんの曲とドラマ「JIN~仁~」のテーマ曲を流すという演出がありました。悪意、ありますよね(笑)でも、面白いです。(意味が分からない方は広瀬香美さんのWikipediaを見てください。それでも分からなければ…分からなくていいです(笑))

例をもう1つ。同番組の「ストッキング被って水に落ちるやつ、誰がやっても面白い説」という検証企画。

俳優の中村昌也さんが挑戦し、面白く見せるため過剰にリアクションしてしまった様子に対してつけたナレーションが「慣れないバラエティのロケで不安だったのか、完全にやりにいってしまった。自慢の長い足をわざと大きく開き、スタッフの反応が悪いと感じたのか、プールに顔を理由なき二度づけ。息苦しさを大袈裟にアピールする、とんだ“串カツ野郎”にスタッフはすっかり醒めきってしまう結果となった」。

これも悪意がバリバリにありますが最高に面白いナレーションです。

藤井さんが多くのお笑い好きから支持を受けているのは、こうした演出によるものかと思います。余談ですが、日本のお笑いにおいては“カリスマ性”というのはなぜか毒のある人に宿る気がします。

ビートたけし、松本人志、石橋貴明、有吉弘行、マツコ・デラックスなど。昨今の風潮では芸人を褒める時に「誰も傷つけない笑い」「安心して子供と一緒に見られる」といった言葉が使われることが増えましたが、そう称される芸人にカリスマ性は感じられない気がします。

これは僕の中で謎が解明できていないため、心理学者に話を聞いてみたいところです。「理性で閉じ込められている人間の奥底に存在する毒の部分をくすぐられると脳が興奮する」みたいなことがあるのかもしれません。いわば中毒症状です。そんな中毒性というか、魅力というか、魔力のようなものを藤井さんの番組からは感じてしまうのです。

そして余談の余談ですが、出演者をナレーションでイジるVTRで笑いを作る代表的なディレクターに『世界の果てまでイッテQ!』『月曜から夜ふかし』『嵐にしやがれ』などを演出している日本テレビの古立善之さんがいます。藤井さんとはまた少し違うタイプの天才です。(古立さんとも僕はお仕事させていただいたことはありませんが)

みなさんも両者が演出している番組を思い返してもらえると感覚的にお分かりかと思いますが、同じように出演者をナレーションでイジっているのに番組から受ける印象は異なるように感じます。古立さんの番組はどこかあどけない感じがするというか、藤井さんの番組はやはり悪意のようなものを感じるというか…。

僕はうまく言葉にできませんが、TBS上層部の1人がこんな表現をしていたと聞いたことがあります。「古立さんの演出は“イタズラ”だ。藤井のは“イジワル”だ(笑)」と。藤井さんには失礼かもしれませんが、言い得て妙だなと思いました。でも、だからこそ藤井さんにはカリスマ性が漂い、番組には信者のような熱の高い視聴者が生まれるのでしょう。

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