
クロスボーダークリエイター・放送作家の谷田彰吾です! 毎月、芸能人のYouTubeについて考察させていただいておりますが、今月は2020年のYouTube界を振り返ってみたいと思います。
2020年は、テレビ界、YouTube界、そして芸能界にとって激動の1年となりました。これはもう「激動」という言葉では足りないぐらいで、もはや「50年に一度の革命」と言っても過言ではありません。
日本におけるテレビ放送の歴史が約70年。昭和の時代に映画からテレビへとメディアの王者が変わったように、テレビからYouTubeに変わってしまうのではないか……そんなことすら思わせる地殻変動が起こりました。
今後、メディアはどう変わっていくのか? 芸能界はどうなってしまうのか? コンテンツの未来が見えてくるかもしれません。
芸能人はなぜYouTubeを目指したのか?

2020年のYouTubeを語る上で欠かせないトピックは、なんといっても芸能人の大量参戦でしょう。
カジサックさん、中田敦彦さん、江頭2:50さん、石橋貴明さん、宮迫博之さんなどの芸人さんはもちろん、佐藤健さん、本田翼さん、川口春奈さん、仲里依紗さんなどの俳優さん、手越祐也さん、錦戸亮さん&赤西仁さん、白石麻衣さんなどの元アイドル組、他にも声優の花江夏樹さん、歌手のGACKTさんなど、様々なジャンルの芸能人が活躍しています。チャンネル登録者数100万人超えのチャンネルも珍しくなくなってきました。
今年、電通が発表した『2019年 日本の広告費』によると、テレビメディア広告費は1兆8612億円。インターネット広告費は2兆1048億円と初の2兆円の大台を突破。ついに日本の広告メディアの首位が交代しました。
しかし、かつての輝きを失ったとはいえ、テレビは今も日本最大のメディアと言っていいでしょう。ドラマ『半沢直樹』の話題性などを見てわかる通り、今も影響力は桁違い。減ったとはいえ、番組の制作費は他のメディアに比べて潤沢です。
では、なぜ芸能人はこれだけYouTubeに参入したのでしょうか?
最大の理由は、芸能人の価値が数値化される時代になったからでしょう。ブログから始まり、Twitter、Instagramとメディアが増えるにつれ、フォロワーがそのままタレントパワーと解釈されるようになりました。
影響力が増せば、そこには仕事が発生します。SNSだけで食べていくことが可能な時代になり、動画というテキストメディアを凌駕する情報量を内包できるYouTubeが現れ、「YouTuber」という職業が定着した。まずは、この流れが根底にあります。
一方、テレビはその間に、より高い視聴率を求められるようになりました。ビジネスですから当然ではありますが、数字を取るためには高齢層に刺さる内容でなければならない。すると、笑えるけど情報性がない番組などは淘汰され、自由度が消えていきました。
「コンプライアンスがテレビをつまらなくした」とよく言いますが、本当の問題は高齢層の支持が必須となる世帯視聴率重視の方針にあったと僕は思っています。
その上、テレビ番組はスタッフが用意した企画や台本にのっとって進行するので、出演者は自分のやりたいことをやれるわけではありません。テレビを使わなくても何でも自分で発信できてしまう時代に、これでいいのかという漠然とした不満は、多くの芸能人の心の中にあったわけです。
しかし、YouTubeならすべて内容を自分でコントロールでき、動画の権利を自分のものにできます。お金の面でも、再生回数が上がれば上がるほど収入も上がる青天井の歩合制。「好きなことして青天井」なら、やらない理由が見つかりません。
そして、決定打となったのが、新型コロナウイルスでした。テレビ、コンサート、演劇、あらゆるエンタメがストップする中、仕事を失った芸能人たちが、自分で仕事を作り出せるYouTubeへと舵を切ったのです。
芸能人の参入は、長い時間の積み重ねによる時代と価値観の変化。それがコロナをきっかけに爆発したというわけです。
YouTuberのテレビ進出は激変した視聴率事情にアリ

一方、YouTuberたちは逆に、テレビやラジオといったレガシーメディアへの進出が著しい1年でした。代表格は、なんといってもフワちゃん。もはやテレビで見ない日はなく、CMにも引っ張りだこ。朝のワイドショーでコメンテーターまで務めています。
水溜りボンドさんは伝統あるオールナイトニッポンのレギュラーパーソナリティーに就任。(※木曜日のオールナイトニッポン0を担当)テレビ神奈川で冠番組もスタートさせました。さらに、東海オンエアさんも日本テレビで地上波初の冠特番を放送予定。しかも、年末に3夜連続というから驚きです。
この流れはもしかしたら、レギュラー番組に昇格するかもしれません。他にも、数多くのYouTuber、さらにはTikTokerがテレビで活躍しました。
この芸能人とYouTuberの逆転現象の背景には、テレビの視聴率の変化があります。テレビの視聴率は、今年から個人視聴率に切り替わりました。従来の世帯視聴率は、文字通り世帯単位で視聴された割合を示してきましたが、この計測方法では何歳の人が何人見ていても「1世帯」としてカウントされていました。一方、個人視聴率は何歳の人が何人視聴したか、細かく判別できます。
個人視聴率の導入でテレビ局の姿勢は大きく変わりました。スポンサーは、高齢層よりも若年層にウケる番組を好みます。しかし、若年層はテレビ離れが激しく、YouTubeやTikTokを見ている時間が長い。そこで、個人視聴率対策として「インフルエンサー」を起用する番組が急増したわけです。
この傾向は来年、もっと強まるでしょう。コロナの影響でテレビ局の制作費は激減しているため、出演料が比較的安価で済む若いタレントやインフルエンサーがキャスティングされます。インフルエンサーは各種SNSのフォロワーも多く、番組の宣伝にもなって一石二鳥。インフルエンサーにとっても自分のチャンネルをテレビで宣伝できるのでウィンウィン。
しかし、まだインフルエンサーの冠番組でこれといったヒット番組はありません。彼らのポテンシャルを生かした演出、企画性、話題性、高視聴率…すべてを兼ね備えた番組を作った局が、これからのテレビ界をリードするかもしれません。