- 2020年12月30日 10:50
「親子で語れる唯一のサッカースパイク」選手の足元支え35年 ミズノ・モレリアが選ばれ続ける理由

新型コロナウイルスの影響で開催が危ぶまれていた第99回全国高校サッカー選手権大会が、12月31日に開幕することとなった。高校サッカーの頂点を決める決勝は2021年1月11日におこなわれる予定だ。
この大会で数多くの選手の足元を支えているのが、日本のスポーツ用品メーカー・ミズノの「モレリア」シリーズのサッカースパイクだ。2019年には、同シリーズの「モレリアネオ」が大会中で最も多く履かれていたスパイクとなったが、一方で、1991年からラインナップの中核をなす「モレリア2」も根強い人気を維持している。
並み居る海外ブランドのシューズを抑えて、なぜ「モレリア」シリーズは支持され続けるのか。その歴史とこだわりを知るため、企画担当者を取材した。

「履いた瞬間に勝負は決まる」モレリアに注ぎ込まれたミズノの経験
「ミズノのサッカーシューズは、足を入れた瞬間に選んでもらえると思っています。履き心地をよくするための、ディテールへのこだわりが違うんです。長年、モノづくりを続けてきた深さの違いとも言えるかも知れません。また、シューズを作っていただいている生産工場の方の技術、経験、知識も大きい。それらすべてが組み合わさって、いいシューズが出来ていると思っています」
「モレリア」の企画を担当したグローバルフットウェアプロダクト本部企画部クリーツ企画課の陳賢太課長はその強みをこう語る。
シューズに足を入れてもらうため、これまでミズノは地道に活動してきた。新型コロナウイルスの影響が出る前は、ミズノカップなどの大会を通じて試し履きの機会を作るとともに、全国のディーラーにも試してもらって、「モレリア」シリーズの伝道師になってもらったのだ。

1906年創業のミズノ(当時は「水野兄弟商会」)は当初から野球ボールなどを販売し、1913年には野球グラブやボールを製造開始した。そのため、どちらかというと野球用具メーカーとしての認知度が高い。もしかすると、野球で培ったスパイクのノウハウがサッカーに生かされたのではないか。
ところが、陳さんは、「野球とサッカーは全く違いますね」と笑う。「それはプレーの動きが根本的に違うからです。サッカーはボールを足で止めて蹴って走ります。常に動いています。ところが野球は静止した状態からボールを打ったり捕ったり走ったりします」
「ただ、基本的にシューズということは変わりません。足を入れた瞬間に、いいか悪いか。履いた瞬間に勝負は決まる、その点を意識しながら野球もサッカーも商品企画開発をしています」
モレリアは「親子で語れる唯一のスパイク」
ミズノがサッカーシューズの開発を始めたのは1983年。人気を博している「モレリア」が初めて発売されたのは1985年のことだった。2020年で35周年を迎えた「モレリア」だが、その間、時代のニーズに合わせるために何度も調整を繰り返してきた。しかし、「軽量」「柔軟」「素足感覚」というコンセプトは変わっていない。
「親子で語れる唯一のスパイクで、しかも変わっていないというのが『モレリア』なんです」と陳さんは胸を張る。
「実は、軽くするだけだったらもっと出来ます。ただ選手のパフォーマンスを考え、『ただ軽ければいい』というモノづくりはしていません」
2020年には5年ぶりとなるリニューアルを行い、「モレリア2 JAPAN」として発売した。シューズの命ともいえる「ラスト」と呼ばれる木型を変えたと明かす。
「大会やイベントで接する人数が年間で500人から1000人、さらにスポーツショップの方々にも話を聞き、そうやって集めたデータを私たちは35年分持っています。そこからのヒントも紡ぎ出し、ラストの細かいところをアップデートしました。その新しくなったラストに合わせて、すべてのパーツを一からリニューアルしています」

プロとの違いは刺繍のみ 定番モデルに求められる品質とは
実は、今年の変更にはずっと「モレリア」のユーザーで、2020年で現役を引退する元日本代表の中村憲剛選手が大きく関わっているという。
「今回のモデルは、3年前から意見を聞いて何度かアップデートし、サンプルが出来たら憲剛さんのところに持って行って確認してもらうという作業を繰り返しました。憲剛さんとの話の中から、『強いて言うなら』とおっしゃった改良ポイントも取り入れました。それは『すぐ試合に持っていけるモレリア』ということでした」

そして今、プロ選手が履いているのは市販品と同じものなのだという。以前は幅、刺繍入れ、縫い目、シュータンなどを選ぶことが出来る「イージーオーダー」を展開していた。だが、今年のモデルではこれまで出てきた要望をすべて取り入れたラインナップ3種類を揃えた。
これにより、中村憲剛選手が履いていたシューズと市販品の違いは、「刺繍を入れているだけ」になった。今回のリニューアルのポイントは「定番をしっかり作って、お客さんがいつでも買えるようにする」ことで、それは実現されたと言える。
折り返しタンは「受け継がなければいけないレガシー」
もっとも、カラフルなスパイクがピッチ上にあふれるいま、「モレリア」は特別目立つスパイクではない。今となっては珍しくなった折り返しのシュータンや、ソールのスタッドは丸型で、一見するとクラシカルと言ってもいい。
だが実のところ、スタッドの角度や配列などはこれまで何度もアップデートされていて、シュータンも長さや形状などに変更が加えられてきた。特に印象的なシュータンは、折り返すとミズノ製品でお馴染みの「ランバード」のマークに沿うように設計されているという。
「シュータンは受け継がなければいけないレガシー」と言って、こんな裏話を教えてくれた。
「憲剛さんにはシュータンを小さくしたタイプも試してもらいました。すると『なんか少し寂しいな』という感想をいただいて、サイズを調整し直しました。また、憲剛さんのチームメイト、家長昭博選手はシュータンがなくなると感覚が変わるとおっしゃっていました。ですから、なるべく靴に合うように数ミリの単位でリサイズし、ラウンドの形も微妙に変えています」

最後に、サッカーシューズの未来についての予想を聞いた。
「今はグラウンドの状況が変わってきていますし、現代のサッカーはインテンシティ(運動強度)が上がったり、1試合を通しての走行距離が伸びたりしています。ですので、基本的には軽いシューズが求められる面があります」
「そのニーズには現在の『モレリア』シリーズでも十分対応できますが、「モレリアを超えるのは、モレリアだけ」という気持ちを胸に、『モレリア』の進化にもチャレンジし続けます」
「そして目をつぶってシューズを履いた瞬間に、『これはミズノだ』とユーザーの皆さんに感動を与えられるようなモノづくりが究極の目標です。そこを目指して、これからも愚直にモノづくりと向き合っていきます」