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人間が生き延びていくためには“個人の智恵”が求められる時代に入った - 「賢人論。」128回(後編)毛利衛氏

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宇宙飛行士の毛利衛氏は現在、日本科学未来館の館長を務めている。すべての展示に必ず研究者が携わっており、来館者が展示物を通して思考する科学体験を提供している。またプロの科学コミュニケーターが、一般の方と来館による対話やオンラインを通じてのコミュニケーションを図り、より深い理解と考察をサポートするというユニークな方針は世界的にも注目されている。宇宙飛行士の毛利氏が、なぜこのような施設の運営にかかわるようになったのか。その真意を伺った。

取材・文/木村光一 撮影/荻山拓也

膨大なエネルギー消費を続ければ地球が保たない

みんなの介護 宇宙飛行士の毛利さんが「日本科学未来館」の館長に就任された経緯についてお聞かせください。

毛利 前回(中編)、はじめての宇宙飛行の後、次の目標を見失ってしばらく思い悩んだという話をしました。ですが、2000年2月にふたたびエンデバーに乗り込んで行った2度目のミッションは、私に大きな示唆を与えてくれました。

そのミッションで行ったのは、NASAの合成開口レーダーによる地球観測の仕事。現在では簡単にスマートフォンで世界中の立体地形図を手に入れられますが、このミッションではそれを可能にするために地球の3次元データの収集を行いました。また日本の技術である高精細ビデオカメラによる撮影を行なったりした結果、地球そのものに対する考え方が変わった。宇宙から私たちが生きている世界を詳細に見つめたことで、「このままでは地球は保たない。何かしなければ」という強い思いに駆られたのです。

みんなの介護 「地球は保たない」とはどういうことでしょうか。

毛利 2000年当時の世界の人口は約60億。すでに日本は少子化へ転じていましたが、地球全体で見れば人口は急増中で、21世紀の中頃には人口は100億に達するだろうと予測されています。太陽に照らされた昼間の地球では宇宙から目の当たりにした大気汚染、海洋汚染、森林伐採の爪痕もそれほど深刻なようには見えませんでした。

しかし、太陽の光が届かない夜の半球側の地球表面に浮かぶ無数の光の斑点…。すべての陸地にはびっしり「人間」という生物が住んでいることを実感しました。ふと「この先、人口が100億になっても人類は生き延びていけるのだろうか」という不安を禁じ得なくなったのです。

宇宙で得た一番の真実は「私たちは地球のすべてに生かされている」

みんなの介護 しかし、だからこそNASAも火星探査のミッションで“人類の火星移住の可能性”についても模索している、ということではないでしょうか。

毛利 これだけははっきり言えます。宇宙は、人間が持続的に世代を超えて住めるところではありません。宇宙船や宇宙服といった生命維持装置がなければ、人間は一瞬で死んでしまいます。人工的につくられた地球の環境を持って行って、はじめてそこで生きられる。空気と水のほか、植物や動物といったほかの生命の存在がある地球にいるからこそ、私たちは持続的に世代をつないで生きられるのです。人間は人間だけでは生きていけない。それが宇宙で私が得た一番の実感です。

したがって、私は「地球に住めなくなったら火星に移住すればいい」という発想には違和感を覚えます。可能性の追求は否定しません。ですが「人類とは何か」を考えれば、今私たちがやるべきミッションは、これ以上の地球環境の悪化を食い止め、本来持っている自然による自浄作用のシステムを正常な状態に戻す。そして将来、100億の人間が生きていける地球を目指すことだと思います。

みんなの介護 なるほど。火星に地球と同等の環境を再現する労力を思えば、地球環境を守ることの方が現実的で、私たちにも何かできるような気がします。

毛利 その通りです。では、話を戻すことにしましょう(笑)。

2度目の宇宙でのミッションを終えて地球へ帰還し、NASAの宇宙飛行士と報告会に参加している最中に、「これまでにない、まったく新しい国立の科学館をつくりたいので館長をやってほしい」という依頼を受けました。そのときはあまりピンと来なかったのですが、しばらく考えていたある日、「そうか、これこそが宇宙から地球を見つめた自分にこそ果たせるミッションだ」と閃いた。

そして、「科学技術礼賛を目的とせず、今、私たちがともに生きている地球の持続的な未来に科学技術がどのように貢献できるのかを発信する基地をつくろう」と決意。半年かけてプランを練り上げ、2001年7月9日、「日本科学未来館」の開館にこぎつけました。

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