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「肉を食べるのは残虐」と誰もが考える時代の幕開け。

伝統的にベジタリアン(精進)料理が広く食されているシンガポールでは、ほとんどの屋台でこんなベジタリアン料理が食べられる。

2020年はコロナに開け コロナに暮れた1年だった。

このブログを書いている2020年末時点でコロナ収束の唯一の希望はワクチンだ 。イギリスを皮切りに欧米では今月から高齢者や医療関係者を筆頭にワクチン接種が始まり、 私が住んでいるシンガポールでも明後日30日からワクチン接種が始まることになった。

現在これらの国で使われているワクチンの大半はファイザー/バイオンテック社製の伝令 RNA 技術を使用したものである。この技術を使ったワクチンが人間に使われるのは世界で初めてだが、 元々はガンやHIVなどの感染症治療のために長いこと研究開発が進められてきたもので効果や安全性も高いことが分かっている。当初WHOは2021年末までワクチン開発は無理だろうと言明していたが、実際にはこの新技術のおかげで驚くほどのスピードでワクチン開発が進んだ。

日本の家庭ではいまだ遺伝子組み換え大豆使用の食品を食べて良いかどうかの議論が続いているが、このワクチンに至っては人間の体内に入ってコロナのタンパク質を作り免疫まで作ってしまうと言う 近未来SF のような薬だ。 通常の状態なら試験に試験を重ねて慎重に人体に適用されるところだろうが、 コロナの猛威で世界中が機能不全に陥っている今、背に腹はかえられずどの国も大した検査もせずに緊急承認を行った。

遺伝子情報をいじって細胞レベルで新しく開発された商品はコロナワクチンにとどまらない。 ここにきて世界の食品業界で熱い視線を浴びているのが2021年からシンガポールで始まる培養肉の商業販売である。

培養肉は英語でcultured meatと呼ばれる。 家畜を殺さずに家畜の肉の組織から人工的に肉を作り出すもので、人間に使われてきた再生医療(山中教授の IPS 細胞応用技術も含む) 技術がベースとなっているそうだ。 2013年にはマサチューセッツ大学の教授が実際に培養肉からハンバーガーのパテを作ってこの技術の実現可能性を実証した。 

2010年代には培養肉や培養シーフードの製造販売を目指して多くの会社が起業し、2019年にはこのうち5社がthe Alliance for Meat, Poultry & Seafood Innovation という組織を作って各国政府にロビングを開始。そのうちの一社であるEat Just社がめでたくシンガポール政府の承認を取りつけ、来年から培養鶏肉の商業販売を開始すると今月2日に発表した発表した。 

この記事によると、現在植物由来の肉等を含む代用肉市場はマーケット全体の1%しかないが2019年には10%に拡大すると予測されており、コスト的にも数年先には従来の精肉よりも低く生産することが可能になると期待される。また、20年以内には実際の家畜の肉を食べる行為が残虐だとして忌避されるような未来を予言する学者もいる。

2019年に上場し植物由来の代替肉マーケットでトップを走る米ビヨンドミート社には ビル・ゲイツ氏が投資しており、競合のインポッシブルフーズ社にはシンガポール政府投資会社であるテマセックが投資。世界に先駆けて培養肉販売を解禁した裏には、この分野で主導権を握りたいシンガポール政府の思惑が透けて見える。

動物愛護の観点からのみならず、精肉から代用肉への転換には地球温暖化防止効果も期待されている。毎年150億本を超える樹木が伐採され地球温暖化を加速させているが、熱帯雨林伐採後の用地の大半は牛肉生産のための牧草地に変換されている。 また 1億3千100万ヘクタールを閉める大豆農地はその70%が家畜の飼料になっている。これらを減らし熱帯雨林に戻すことができれば地球環境を大きく改善することができるはずだ。

1978年世界で初めて体外受精により誕生したルイーズ・ブラウンさんもすでに40代。高齢出産が当たり前の現代では体外受精で生まれた人たちも少数派ではなくなってきた。

バイオテクノロジーを使って生まれ、バイオテクノロジーで生産された食品を食べて育ち、バイオテクノロジーを応用した医療でいつまでも若々しく生きるようになる。コロナ克服の年になるはずの2021年はまた、そんな時代の幕開けの年になるのかもしれない。

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