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「もわっとしてる」「閉め切ってる」世界に広がった“3密”概念が日本で発見された瞬間――いま振り返る新型コロナウイルス感染第一波 #2 - 西浦 博・川端 裕人

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新型コロナウイルスに揺れた2020年…クラスター対策班はどうして3日で“3密”にたどり着けたのか から続く

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 新型コロナウイルスに世界が揺れた2020年。日本に訪れた「第一波」に対し、最前線で立ち向かった厚生労働省クラスター対策班の一員・西浦博氏が当時を語った『理論疫学者・西浦博の挑戦 新型コロナからいのちを守れ!』(聞き手:川端裕人、中央公論新社刊)が、大きな反響を呼んでいる。

 その中から、日本で生まれ、その後、世界にも広まっていった「3密」概念の誕生について、抜粋して引用する。


西浦博氏(左から2人目) ©️時事通信社

◆◆◆

もわっとしている? 閉め切った空間?

 僕がジョンズ・ホプキンス大学の論文で興奮していたのは、押谷先生と僕たちが議論していたようなこと、つまり、二次感染がとても多いようなところを選択的に選んで、そこを攻撃していけば流行を制御することができるかもしれないということを匂わせていたからなんです。こういう論文がありましたよと押谷先生などに共有し、日本でも考えていかないといけないですね、という話をしました。

 クラスター対策班が始動すると、すぐに小林君に言って、情報を集めてもらいました。クラスターは室内の換気の悪い、もわっとしている所で発生していない? と僕はずっと言っていました。雪まつりの休憩所がたしかそうだし、船上でパーティしている時は閉め切ってお鍋をしていたんですよね。「もわっとしている」というのは「湿度が高い」というようなイメージです。

 閉め切った場所というのは少なくとも共通していて、フィットネスクラブの中は明らかにそうですし、武漢からの観光客を乗せたバスのドライバーが感染していた事例もありましたよね。そんな事例がどんどん集まってきていたところでした。

クラスター対策班の“良さ”

 クラスター対策班がいいなあと思うのは、研究者でできている組織なので、思いついたことをいつもの研究アイデア交換のように、すぐに誰かに聞けるんですよ。自分はこういうことを今考えていて、研究のアイデアとしてはこうなんだけど、どう思う? って、昼ご飯を食べる時でも、お茶を飲む時でも、共有してフィードバックをもらいやすいんです。日本の研究者はあまりそういうことをしないそうですが、僕はよくやるんです。

 それで、「もわっとしてるんじゃないですかね」「閉め切ってますよね」とか聞いたところ、「そんなのは偶然だよ」から「そんなのは当たり前だよ」みたいな返し方も含めて、いろんな反応がありました。

 中でも、東北大学の歯学研究科で国際保健の担当をしていた小坂健先生は、ウイルスの生存に関してデータを集めていて、YouTubeでCOVID―19の講座をやっているくらいだったんですよね。おまけに元FETPで、実地疫学のプロでもある。そんな小坂先生に「コロナウイルスは湿度が高くなったら早く死ぬぞ。もわっとしていたら逆じゃないか」というふうなことを言われました。

 また、昨年まで感染症疫学センター第一室でFETPの統括をしていた松井珠乃先生も感染の現場に出ていて、現場の感覚としては「もわっとしている」は共通項とは言い切れないというんです。そんなふうにみなさんに聞いていって、最終的に「閉め切った空間(Closed environment)」をまずは集中して見ていくことにしました。

大切だった「行かなかった場所」情報

 小林君に頼んでいたのは、狭い空間で換気の悪い所にいる人と、そういう場所に明確に行っていなかった人とを、二次感染の多さに関して比較できるようなデータがほしいということです。

 その時点での感染者は、日本全国でまだ100人少々でしたけど、その人たちについて調べたデータは、すごくフォローアップが良くされているんです。誰がどこに行ったという行動だけでなく、「行かなかった」というネガティブデータがある。

 人数が増えてくると、誰がどこでクラスターを起こしたかという情報は取っても、「行かなかった」というところまで聞き取らなくなっていきます。でも、FF100についてお話ししたように、流行の最初のころはかなり頑張って詳しく調べているんです。

 まずは、実際に1人当たりが生み出している二次感染者数の分布を描いてみて、いわれていた通り、ほとんどの人たちは二次感染を0人とか1人しか起こさないのに、右の裾野の方にたくさん感染させている人がいることを確認しました。

クラスター対策班誕生3日でわかったこと

 じゃあ、閉め切った空間 “Closed environment” にいた人でたくさん二次感染を生んだ人と、そうでなかった人、閉め切った空間に行かなかった人でたくさん二次感染を生んだ人と、そうでなかった人の数が分かれば、Two by two table、2×2表を埋めることができて、そこから閉め切った空間ではどれくらい二次感染が起きやすいかを推定できるんです。

 これはオッズ比という指標で出てくるのですが、閉め切った空間では、20倍近く二次感染が起こりやすい、という結果でした(【図6】)。

 これは査読を経ない状態で発表できるプレプリントサーバにすぐに論文を上げておいたんですが、その直前のドラフトまで僕は「湿度の高い空間」と書いていました。それが、必ずしも湿度ではなくて、共通項として取っておくべきは「換気の悪い密閉された空間」なんだというのが、クラスター対策班が始まって3日くらいに分かってきたことです。

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