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法科大学院制度の在り方 田中真紀子文科相の「決断」から考える

 大学設置・学校法人審議会が新設を認めた大学3校について、田中真紀子文科相が不認可としたことが、最終的には認可されたものの、大いに物議を醸しました。

 同審議会が設置を認めれば、これまでは文科相は、当たり前のごとく認可していました。
 それが開校直前になり、不認可とされたことから問題になったものです。

 もちろん、文科相の認可、不認可の権限は形だけのものではありませんから、当然に判断に責任をもってもらわなければなりません。

 鳩山邦夫元法相が発言していたようなベルトコンベア式で死刑執行命令を出されては困るのです。
 とはいえ、今回の不認可はあまりに唐突であったことは否めません。
(死刑執行命令と一緒にしないでくださいね、法相はその死刑執行が適正なものかどうか最終的に判断する責任があり、その判断をすっ飛ばして命令書にサインするがごときは、死に神です。

また死刑制度に反対であるが故にサインしない、というのも法相としての問題はありません。死刑制度そのものの是非が論議されている以上、「凍結」も選択肢の1つです。)

 しかし、今回の田中真紀子文科相の不認可の決断は、多くの問題提起をしてくれました。以下の点については賛同する人たちも多いのではないかと思います。

(1)すでに少子化の流れの中で、大学全入時代を迎えている中で、さらなる大学の設置が必要なのかどうか。
(2)学生の競争が確保されておらず、質の向上にはつながらないのではないか。

 この点については、法曹関係者であれば、誰もが思い浮かべる「法科大学院制度」があります。
 濫立とまで言われ、法科大学院数、定数ともに非常に大きななものとなりました。
 そのため、法科大学院間の格差も拡大するばかりです。

 しかも、法曹志願者が激減し、法科大学院制度そのものが危機的状況に陥りました。
 このような中で、法科大学院制度推進派(擁護派)の人たちは、文科省が認可しすぎたんだから問題だったんだ、というのです。

 法科大学院制度を推進する人たちは、今回の不認可とした田中真紀子文科相の対応を支持するのでしょうか

 もともと法科大学院制度についても、当初から準則主義がとられ、要件を満たせば設置を認可するという制度設計とされており、司法審意見書(2001年6月)もその立場でした。

 司法審意見書では、「法科大学院の設置は、関係者の自発的創意を基本としつつ、基準を満たしたものを認可することとし、広く参入を認める仕組みとすべきである。」(70ページ)として、むしろ、参入規制にならないようにする方針を採用しているのです。

 推進派の人たちは、誰も異を唱えることなく、しかし、現実に74校も認可され、定員も5000名を超えてしまったという状況のもとで、慌てたようです。

 しかし、法科大学院制度は、法曹人口激増(司法試験の合格者数激増)とセットとなっているもので、年間司法試験の合格者数3000名は最低限の目標であり、それ以上にしなければならないんだとする司法審意見書のスタンスからは、法科大学院制度もそれに合わせて認可していく必要があります。

 佐藤幸治司法審会長(当時)は、この点について、『司法制度改革』(有斐閣2002年10月、佐藤幸治、井上正仁、竹下守夫共著)において次のように述懐しています。
 「法科大学院に対する批判の1つに、法科大学院の数がだいたいこれに見合うようになって、結局は法曹人口を抑えることになるのではないか、というものがあります。それは全くの誤解であって、法科大学院には法曹人口を抑止する、ある時点で抑えるとかいうような意味合いは全くありません。」(204ページ)

 「法科大学院の数を幾つにすべきかといったことは決して考えていないことは、誤解無きよう、はっきり申し上げておきます。」(223ページ)
 要件を充足している限り、法科大学院設置の申請を拒否(不認可)とすることはできないのです。
 法科大学院制度推進派の人たちは、それを知っていながら、文科省の責任だと問題をすり替えているのです

 法科大学院制度推進派の人たちは、何故、そのようなウソと誤魔化しをしようとするのか。
 要は、設置基準に話が及ぶと、司法審路線の矛盾をそのまま認めることになってしまい、法科大学院制度の存立の正当化根拠であった司法審意見書の否定につながるからです。

 法科大学院制度を推進する人たちは、未だに弁護士人口が足りない(一応、急激な増加は問題ではあるとするものの)と口にしていますが、法曹人口激増が必要ないということになれば法科大学院制度そのものが不要になりかねません。

 それから法科大学院制度は、学問を基礎においているそうであり、しかも「多様な人材」をそれぞれの法科大学院で独自に選抜するということになると、設置について許可制とすることとは相容れなくなります。

 特別に許可された法科大学院であるならば、入学者を選り好みで選抜するということが許されないのは当然のことです。
 ここでも司法審路線との矛盾が出てくることになります。

 それ故に、法科大学院制度を推進する人たちは、法科大学院を認可しすぎたと文科省にその責任を押しつけようとしているだけなのです。

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