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フェミニズムの対極「トラッドワイフ」、支持者は余裕のある層?コロナ禍で仕事を失う女性たちの影響が深刻

近頃、英国を中心にSNSでハッシュタグ #TradWife が人気なのをご存知だろうか。

「昔ながらの従順な妻(traditional wife)」を意味するこのキーワードがこの時代に注目を集めているのは意外に思えるが、どうやら50年代の映画に出てきそうな専業主婦イメージを強く支持する層がいるらしい。インフルエンサーの一人、英国人のアリーナ・ペティットは「ダーリン・アカデミー」というサイトを立ち上げ*1、従順で封建的ともいえる女性のライフスタイルを提唱し、さまざまなメディアで取り上げられている。

*1 Darling Academy https://www.thedarlingacademy.com 

cyano66/ iStockphoto

「奥様ファッション」のようなトレンドに過ぎないと捉えることもできようが、中にはこのムーブメントは「フェミニズムへの反発」や「極右的価値観への回帰」、何かと不安定な時代ならではの現象と見る向きもある。「トラッドワイフ」のインフルエンサーたちは、自分たちの理想に挑んでくるメディアに反論もするし、人種やジェンダーの問題が今ほど可視化されていなかった社会への回帰をよしとしている。

“男らしさ”や“結婚前の純潔”には賛成、LGBTカップルによる育児や避妊、中絶には反対など、昔ながらの“伝統的な妻”なら口出ししないようなことまで、意見を強く主張する存在でもある*2

*2 参照:‘Tradwives’: the new trend for submissive women has a dark heart and history

コロナ禍で露呈する男女の不平等は万国共通

働くことをやめ、“フルタイム”の主婦になることを称賛する「トラッドワイフ」が一部でトレンド化してるものの、経済的に恵まれた層の余裕ならではといった印象は否めない。

コロナ禍に伴う経済危機が多くの人々、とりわけ女性たちに与えている大打撃の方がずっと深刻だという人の方が圧倒的多数だろう。景気後退を意味する“リセッション(recession)”にかけて“She-cession” と呼ぶ経済学者もいるほど、そのしわ寄せが女性に集中している現実がある。

コロナ禍で生活が大きくひっくり返った女性エステルは、保育園と小学校が閉鎖されたため、仕事を辞めて4人の子どもたちの世話に徹さざるを得なくなった。

「突如として専業主婦になりました。なるべく笑って明るく過ごそうと心がけていますが、朝、目が覚めたときなど、この状況やその日にやるべきことを思うと悔しさが込み上げてきます......」

ロックダウンによって“社会的な役割”ががらりと変わった多くの女性たちが、エステルと同じような無力感や怒りを感じているのではないだろうか。感染症そのものだけでなく、家のこと、子どもたちの勉強、家族のこころの健康......不安の種は尽きない。コロナ禍で家族との関与度が以前より強まった父親もいるだろうが、こうした“無償のタスク”は何かと女性にのしかかりがちだ。

ロックダウンで相談件数が急増、アンガーマネジメントに取り組む

ケベック州で家族支援を行っている「アントレ・ママンズ・エ・パパス」のソーシャルワーカー、マリーヴ・ラフォルテュヌに話を聞いた。「学校休校と保育園の閉鎖が発表されるや、人々のあいだに不安や懸念が広がりました。普段なら相談が入らない日が続くこともあるのですが、一気に10件、20件と舞い込みましたから」とロックダウン時を振り返る。

「幼い子どもの世話をしながらテレワークをしなければならない人、失業して家にいるしかなくなった人、いままでと異なる日常に生活リズムが崩れた人.......余裕をなくし、イライラや怒りの感情が高まっている人が多くいました」

Photo by Leonard Beck on Unsplash

「やるせなさや後ろめたさ、いろんな意味で “我慢の限界”を超えたように見受けられたので、アンガーマネジメントで怒りや苛立ちの感情をコントロールすることを実践しました」心理社会的なアプローチを専門とするラフォルテュヌは言う。「心理学的に見ても、より平等な役割分担を選択した夫婦の方が関係性が強まって、良い状況にあるようでした」

「衣類バンクなどを通じた支援や、ミルクやおむつの提供も行ってきましたが、次の大きな流行が起きたときにも補助金や助成金をもらえるかはわかりません」ともこぼした。

子どもの成長・教育支援を行う「Déclic」の創設者で教育心理学者のキャドリン・デジールも、ロックダウンによって激しく揺らいだ社会のセーフティネットを元に戻すことが喫緊の課題だ、そのために仕事復帰や新しい仕事を始めることを諦める女性も少なくないと指摘する。

「経済的にも、女性の人生を前進させるうえでも、保育所がいかに重要な役割を担っているかがよく分かったと思います。子どもの存在を無視して働くなんてできませんし、仕事そっちのけで子育てするわけにもいきませんし」

キャドリン・デジール Credit: Martin Flamand

2月〜10月のあいだに労働力から外れたカナダ人女性は約2万600人、女性の失業者数は2月以前より2.8%増えている。特に、20-24歳と35-39歳で失職者が多い。女性はリモートワークに対応できない職種や景気が戻りにくい業種に就いている率が高いという事情も影響しているようだ。この流れが続けば、ジェンダー賃金格差がパンデミック前より悪化しかねない*3

*3 参照:Canadian Women Continue to Exit the Labour Force

仕事を離れて幸福度が上がる女性もいれば、仕事にあぶれて苦しむ女性たちも数多くいる。「女性」と「仕事」。選択肢は多いに越したことはないが、一人ひとりが主体的な選択ができる社会こそ健全なはずだ。

By Alexandra Guellil Translated from French by Catherine Algar
Courtesy of L’Itinéraire / INSP.ngo

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