
新型コロナウイルスの感染拡大に襲われた2020年。風俗業に従事する女性たちは貧困に陥っていた。
仕事場に行っても客が来ず、給料はない。滞納していた家賃の催促はもう、来なくなった。
彼女たちにとってのコロナ禍。2020年はどんな1年だったのか、当事者に話を聞いた。
18歳から風俗業1本 緊急事態宣言で「あぁ、終わったな…」
「風俗でこんなに稼げない日がくるなんて夢にも思わなかった」
絵梨花さん(34歳・仮名)はそう話す。
彼女は16歳のころから援助交際をはじめ、18歳で風俗に“就職” 。それ以降、風俗業1本で生活してきた。
これまで箱型ヘルスからデリバリーヘルス、SMクラブやソープランドと様々な風俗業を経験してきた絵梨花さんは、日払いで稼いだ分だけ散財しても、お金に困ることはなかった。
しかし、今年2月ごろから事態は一変した。新型コロナウイルス拡大の影響で客足が遠のいていき、都内では4月に“緊急事態宣言” が発令。その瞬間に「あぁ、もう終わったな…」と感じたという。
「風俗はどうしても濃厚接触。会食や飲み会すら禁止されている中、わざわざ風俗に行くという人は少なくなりますよね」。
当時、絵梨花さんは吉原のソープと自宅付近のデリヘルを掛け持ちしていたが、週6日出勤しても月収は20万円に届かなくなった。
続く給料ゼロの日々 マックに行くのも怖かった

来る日も来る日も「お茶(誰も客がこないこと)」が続き、交通費と食費で貯金が減っていく。絵梨花さんは「マクドナルドのハンバーガーすら怖くて買えなかった」と当時を振り返る。
「デリヘルは店による送迎がありますが、ソープは鶯谷まで電車で行かないといけない。出勤日には必ず500円はかかります」。
毎日の昼食は業務用スーパーで買いだめした1本39円の500mlペットボトルのお茶と59円のおにぎり2つ。話題になっていたUber Eatsなど、デリバリーのお弁当などもってのほかだった。
彼女の働くソープでは客1人当りで得られる報酬(バック)は2万円。基本的に風俗の仕事に時給は発生せず、出勤しても客がつかなければ給料はゼロだ。
絵梨花さんは「待機室の雰囲気も最悪でした。いつも予約が取れない程人気があったランカー(ランキング上位の子)ですら、コロナになってからは、お茶の日があってすごくイライラしていた」と当時の様子を振り返る。
客が来ても店はランカーや新人を優先するため、絵梨花さんには仕事がまわってこないことも多かった。「5月なんて5日連続無給ということもありました」
「履歴書が真っ白な私たちを雇ってくれるとこなんてないのが現実」
そんな状況下でも入店希望者は多く、それまでキャバクラで働いていたような女性たちが日々、面接にやってきた。
「ナインティナインの岡村隆史さんが、ラジオで『コロナが明けたら美人が風俗嬢になります』と発言して叩かれていましたが、まさにそれがコロナ明けを待たずに現実となっていました」
同じ店で働く女の子が解雇される姿にも戦々恐々とした。“緩い店”だったはずの勤務先で、寝坊したスタッフが「待機室も一杯だからもう来なくていいよ」といきなりクビになった。
その後、彼女は様々な店の面接に行ったというが、どこの店にも採用されず田舎に帰らざるを得なかったそうだ。
本来なら繁忙期である12月だが、絵梨花さんは「全然ダメ。毎月家賃を滞納している自宅マンションの催促も最近は来なくなりました」と苦笑する。
正月も出勤予定。
「希望はありますか?」
筆者の問いに「正直、何もないですね…」と絵梨花さんはタバコをふかせた。
「希望はないというか…選択肢がないんです。他に出来る仕事がないと昼職の友人に話したら『それは甘えだ』なんて言われてしまいましたけど。もう15年以上風俗の仕事をしていて、他に職歴がない。普通の仕事をしていた人たちも失業しているのに、履歴書が真っ白な私たちを雇ってくれるとこなんてないのが現実。あるなら教えて欲しいです」
そう寂しそうに話し「今日もこれから出勤なので」と鶯谷へ向かって行った。