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常勤監査役による責任限定契約の締結は普及するか?

監査役の皆様向けに、11月28日に開催される岩原東大教授(会社法制部会長)の会社法改正要綱解説会は、あっという間に満席となり(日本監査役協会主催 1300名定員)、代わりにライブの模様を伝える上映会が2回に分けて別途開催されることになったそうです。ガバナンス関連の論点が中心となるそうですが、それにしても会社法改正への関心の高さはスゴイですね。

ところで監査役さん向け論点になろうかと思うのですが、会社法改正要綱のなかで、あまり議論になっていないところの問題が取締役・監査役の責任の一部免除(会社法427条1項 責任限定契約)に関する改正ではないかと。ご承知のこととは存じますが、取締役・監査役の任務懈怠による対会社責任が発生するような場合において、社外性要件が業務執行要件に変わり、とくに監査役の場合には(これまで社外監査役のみ認められていたものが)すべての監査役に責任限定契約が締結できることになる、というものです(現時点の会社法改正要綱を基準としています)。旬刊商事法務の岩原教授解説を拝読し、法制審の審議会議事録を再度見直しましたが、この論点についてはほとんど議論もされることなく、すんなりと要綱案として改正が盛り込まれているようです。

ただ、公表されているパブリックコメントには、理論的に筋が通っていると思われる反対意見もあります。改正理由としては、取締役の社外性要件が(改正によって)厳格化されることに伴い、これまで責任限定契約を締結できた人たちができなくなってしまう・・・ということが挙げられます。この理由は、経済団体からの強い意見を採り入れた、という政策的判断のもとではなんとか納得できそうですが、しかし監査役すべてに責任限定契約締結を認める理由にはなりません。中間試案の補足説明にあるように「自ら業務執行に関与せず、専ら経営に対する監査・監督を行うことが期待される者については、その責任が発生するリスクを自ら十分にコントロールすることができる立場にあるとは言えない」という理屈についても、業務執行取締役についても、自らの担当業務以外の会社業務については十分にリスクをコントロールすることができる立場とは言えないのではないか、とも思えるわけでして、説得力に欠けるように思います。

そういったことから、なんとなく積極的な改正理由が見つからない「監査役すべてについて責任限定契約の締結を認める」改正ですが、ともかく監査役さん方にとっては実務上の大きな課題になりそうな予感がいたします。果たして常勤監査役さん方にとって、この改正会社法が施行された場合には、定款を変更して責任限定契約を会社と締結する、という実務は定着するのでしょうか?

素直に考えますと、監査役さんが任務懈怠責任を問われにくくなる制度ということになりますので(ただし、最近は対第三者責任追及や金商法に基づく不法行為責任追及がなされるケースも増えていることに注意)、十分な監視・監督を行うインセンティブが機能しなくなってしまうのではないか、緊張感が欠けて怠けてしまうのではないか、との不安が出てきそうです。ただ、最近日経新聞にもご登場されましたトライアイズ社の元監査役F氏の「闘争の歴史」を振り返りますと、監査役が真剣に経営執行部と対峙した際、社長から「そんなことしたら会社として損害賠償請求するぞ」と威嚇される場面が何度もありました。「そんなことは監査役のやることではない。もしやるんだったら、あなたの個人資産がすべてなくなりますよ」と怒鳴られ、それでも株主総会開催の差止めや違法行為の差止めを裁判所に求めるには、監査役さんにかなりの勇気が必要です。おそらく監査役の立場からすれば、「自分が間違っていたらどうしよう」と逡巡し、会社法上の権限行使を控えるケースも出てくるのではないかと。

私の個人的な意見からしますと、そもそも監査役さんが会社法上の権限として行使されることが期待されているものについて、たとえ結果的に取締役の行動が違法だと認定されないものであったとしても、これを違法と指摘した監査役さんについては、合理的な理由がある限り任務懈怠などにはならないと考えています。しかし一般の監査役さんにとってみれば、不安がいっぱいになるのも無理からぬところがあり、違法行為を積極的に指摘する勇気を与えるためには、こういった責任限定契約も必要とされる場面もあるのかもしれません。つまり「監査環境の整備」という視点からみれば、社内の監査役さん方も責任限定契約を締結することが、むしろ監査役の権限行使のインセンティブになりうる、との考え方です。理屈のうえで考えれば、これまでの「社外役員の導入を促進するため」という理由に代わりうる積極的な理由はないものの、監査環境整備という政策的な理由から責任限定契約の存在を肯定的に考える、というところでしょうか。

いずれにしましても、株主総会できちんと説明できる理由がなければ一般的に定着するものではないはずです。このあたりは法制度化されることを前提に、議論をしておくべきものと思います。

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