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秋吉 健のArcaic Singularity:2021年は「聖域なき選択」の年となる?本連載から2020年を総括するとともにモバイル業界の未来を占う【コラム】



2020年コラム総まとめから、2021年のモバイル業界を考えてみた!

クリスマスもあっという間に過ぎ去り、今年も残すところあと数日となりました。みなさん年末年始の準備はお済みになりましたでしょうか。2020年はモバイル業界のみならず、世界中が大混乱に陥った年のように感じます。もちろん理由は新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の拡大による問題(以下、コロナ禍)です。

コロナ禍によって世界は一変してしまいました。人々は外出や人と接触する際に必ずマスクをするようになり、そもそも外出をできるだけ控え、会社ですら出勤することなく自宅でのテレワークへと切り替えられました。ショッピングでもオンライン利用が進み、店舗での決済ではより接触が少ない電子マネー決済が大きく成長しました。

ある意味、通信技術と通信端末とアプリケーションの進化がそれらを可能にしてくれたわけで、不幸中の幸いだったとも感じます。筆者はそんな世界の変遷をモバイル技術の裏側から眺めていた1年でした。

感性の原点からテクノロジーの特異点を俯瞰する連載コラム「Arcaic Singularity」。今回は1年間のコラム連載の締めくくりとして、今年印象に残った出来事や技術を過去のコラムとともにまとめ、2021年のモバイル業界を占ってみたいと思います。

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人々の生活が変わり、社会が大きく変わった1年だった



■人も企業も「ニューノーマル」を模索した2020年

やはり2020年を語る上で、初めはコロナ禍から語らなければなりません。みなさんの生活にコロナ禍が影響を及ぼし始めたのはいつ頃だったか覚えているでしょうか。筆者の場合、2月頃からその影響が徐々に現れてきました。展示会や発表会が激減し、取材ができなくなったのです。

当初、これは非常に由々しき事態であると強い危機感を覚えたことを記憶しています。それについて書いたコラムがこちらです。

【過去記事】秋吉 健のArcaic Singularity:熱意や本気を伝えたい!感染症問題による発表会や展示会の自粛からその重要性と意義を改めて考える【コラム】


事実、今年はモバイル製品の大きなヒットや話題となる製品が非常に少ない年となりました。現地での取材ができず、メディアはプレスリリースやオンライン発表会の動画を頼りに製品を紹介するしかなく、ライブ感の少ない記事が増えたからです。

人々の購買欲がコロナ禍によって大きく減損したことも要因の1つです。コロナ禍によってただでさえ収入が減る中、新たなモバイル製品を購入する人が減少するのは必然です。使えるものはなるべく長く使う、そういった節約行動が広がるのは当然でしょう。

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取材方法の激変に筆者が慣れるまでには数ヶ月かかった



一方で、飲食店にスマートフォン(スマホ)から直接注文と決済を行い、自宅まで宅配してもらう「モバイルオーダー」が注目され始めるなど、新たなビジネスチャンスも生まれました。

事実、コロナ禍によって飲食店が大打撃を受ける中、元々ドライブスルーなどの持ち帰り文化のあったファーストフード各社はいち早くモバイルオーダーを採用し、売上を落とすどころか伸ばす企業まで現れるほどでした。

【過去記事】秋吉 健のArcaic Singularity:コロナ禍の今だからこそ使いたい!外食産業を中心に広がり始めた「モバイルオーダー」について考える【コラム】


人々の行動が変わればビジネスも変わる。それが社会の正しいあり方です。オンライン発表会や取材先で、何度「ニューノーマル」という言葉を聞いたでしょうか。それぞれの企業は新しい生き方や経済活動のあり方を模索し、この1年だけでも大きく変革してきました。

例えば、ソフトバンクは2021年1月に本社機能を港区海岸1丁目(竹芝地区)にあるオフィス兼商業施設「東京ポートシティ竹芝」へと移転しますが、元々は最先端のIoT技術を駆使し、効率的な商業施設運営を目指して建設されていたものでした。

しかしながら、コロナ禍によってその計画は大きく変更を余儀なくされ、導入されたIoT技術は奇しくも人々の導線や混雑をコントロールし、ウイルス感染を予防するための技術へと転用されています。

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東京ポートシティ竹芝には1000を超えるIoTセンサーが配置され、混雑状況の監視や来場者数予測などが常に行われている



これはIoT技術や通信技術の可能性の広さや柔軟性を非常によく表していると感じます。

技術とは道具であり、その道具をどう使うのかは使う人間次第です。より多くの人を効率的に誘導し収益力向上のために使うのか、それとも人々が密集しないように分散させ疫病リスクを低下させるために使うのか。それこそが人の判断です。

時代が変わってしまったから、もしくは人々の行動が変わってしまったからと、技術を諦める必要はないのです。むしろ、今まで育ててきた技術があればこそ、人はこの困難の時代を乗り切れるのだと確信する出来事が多くあったように思います。

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東京ポートシティ竹芝に試験導入された除菌用巡回ロボット(画像は人のいる中で行われているが実際は深夜に行う)。IoT技術のみならず、ロボット技術やAI技術もまた人の新しい生活習慣の一部となるだろう



■激動のモバイル業界。市場崩壊の先に見える大寡占時代の暗鬱

そしてもう1つの大きな話題は、やはり通信料金値下げ問題でしょう。私たちの生活に直結する問題であり、そもそも値下げ議論のきっかけこそが私たち消費者からの不満の声だったのですから、そこに関心が集まるのは当然です。

この問題については、もはやこのコラムに書ききれる内容ではありません。今年執筆したコラムの中から直接関連のあるものだけを抽出しても、これだけの数のコラムがあります。

【過去記事】秋吉 健のArcaic Singularity:生まれ変わるUQ mobile。KDDIへの事業統合の裏に何があったのか、これまでの微妙な立ち位置や今後の戦略について考える【コラム】

【過去記事】秋吉 健のArcaic Singularity:そして誰も動かなくなった。MNP転出手数料無料化や再燃した通信料金値下げ議論から消費者流動性を考える【コラム】

【過去記事】秋吉 健のArcaic Singularity:NTTドコモが全方位へ「宣戦布告」!? NTTによる完全子会社化の背景にある目論見や業界の動向を考える【コラム】

【過去記事】秋吉 健のArcaic Singularity:携帯電話料金値下げは是か非か。単純には答えの出ない問題に、通信品質や消費者流動性の視点から考える【コラム】

【過去記事】秋吉 健のArcaic Singularity:戦場にかける通信回線。政府が要望した「20GB/月額4000円」プランの「落とし穴」と「抜け穴」とは【コラム】

【過去記事】秋吉 健のArcaic Singularity:サービスの対価とは何か。NTTドコモのアプリ設定サポート提供を前にキャリアショップの価値やあるべき姿を考える【コラム】

【過去記事】秋吉 健のArcaic Singularity:メールの呪縛を解き放て!総務省が提言するキャリアメール持ち運び案の意義と現状の問題について考える【コラム】

【過去記事】秋吉 健のArcaic Singularity:NTTドコモの20GB/月額2980円プランは何を変え、壊すのか。ahamoのメリットとデメリットを解説しつつ、未来を紐解く【コラム】


特に11月以降はほぼ毎週のように通信料金値下げに関連した話題を取り上げており、一挙集中連載の如き有様です。こうなった理由の1つには毎週どころか毎日のように入れ替わる情報と新たな料金施策、そして総務省による要請のいたちごっこがありました。

もうすぐ半世紀に達しようかというモバイル業界の歴史の中でも、これほどの大激動が一気に押し寄せた時期はほとんどないかもしれません。それほどに業界内は混乱を極め、情報が錯綜しました。時には前日までの情報が無駄になり、記事の寄稿締め切りを過ぎてからすべて書き直した週もあったほどです。

通信料金値下げについては思うところが多くありますが、筆者が最も問題視している点は、その値下げ議論の中心にあるのが総務省だという点です。

モバイル業界やその市場に限らず、自由経済市場の競争原理は基本的に企業が主体でなければいけません。当然ながら政府による法整備やガイドラインがあってこその経済活動ですが、しかしそれは飽くまでもガイドラインであり、政府が市場を直接コントロールするような状況であってはならないのです。

しかし、2020年のモバイル業界ではそれが起こりました。政府が事あるごとに示してきた「20GBで4,000円前後」という数字が企業の必達目標のように扱われ、それを達成しなかった企業には政府から強い圧力がかけられたのです。それは市場介入や価格統制と何も変わりません。

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総務省の「要請」という名の圧力によって生まれたNTTドコモの「ahamo」。消費者としてば嬉しいが、その背景や経緯に問題がある



確かにモバイル業界を牽引してきたNTTドコモ、KDDI、ソフトバンクといった移動体通信事業者(MNO)の大手3社の通信料金が事実上高止まりしていたことは間違いなく、そこに消費者が不満を持っていたことも事実です。

しかしながら、だからといって総務省が価格を決めて良いものではありません。商品の価格とは、市場競争の結果として存在しなければなりません。本来であれば、

【1】MNP手数料無料や仮想移動体通信事業者(MVNO)への回線卸価格の引き下げ、キャリアメールの持ち運び施策を先行させる

【2】その後、消費者に通信キャリアの移動を促す施策を実行する

【3】年単位での消費者動向を見定めた上で、改めて料金の議論を行う


というような流れを作るべきでした。

そもそも、低廉な料金やシンプルな料金プランは各社のサブブランドやMVNO市場で達成されており、問題点があるとするならMNP手数料やスマホの割賦前提販売の常態化による消費者流動性の停滞、MVNOの通信品質の悪さなどであり、これらは上記の【1】で示した内容を実行することで多くが改善されるものです。

しかし政府は消費者(国民)の人気取りのためなのか、先んじて行うべき施策の多くを飛ばして価格引き下げを優先してしまいました。

これによって2021年以降、通信料金の基準は大きく引き下げられることになりますが、これまで築き上げられてきた業界構造は完全に瓦解します。価格的メリットを失ったMVNOは「通信品質が悪い」というデメリットのみを抱えることとなり、より安価で利益の出ない料金プランで生き残りを賭けるか、事業からの撤退や他社との合併・吸収を余儀なくされるでしょう。

MNOもただ料金を安くしたのでは利益を大きく損なうため、グループが持つポイント経済圏や通信ブランドの更なる強化にひた走っています。この流れは消費者をより一層MNOのグループブランドへ囲い込む流れとなり、消費者流動性はますます下がっていくことになります。

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ソフトバンクの新しい料金プラン「ソフトバンク on LINE」は、完全にahamo対抗として生まれた



総務省が本来求めていたものは「消費者が自由に動ける市場」であり、その動く理由としての価格競争だったはずです。しかし、現在の市場の流れはMVNOを潰し、MNOが消費者を囲い込み、消費者がまったく動かない「大寡占時代」へと突き進んでいます。

総務省が手段と目的を取り違えたために起きた大失策です。MNO各社が本格的に価格競争を始めてしまった今、もはやこの流れは止められません。

かつて総務省は市場の流動性を高めるためにMNOへの新規参入を募り、楽天モバイルが名乗りを挙げましたが、その楽天モバイルも価格メリットを総務省に潰され、エリアの狭さや通信帯域の狭さというデメリットだけが浮き出た形です。

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楽天モバイルがMNO参入当時や5Gサービス開始時に鼻息荒く通信料金で他社煽りをしていたのも、もはや懐かしさすらある



■手札が出揃う2021年。消費者は必ず「選択」を

2021年、MNO各社の格安料金プランやオンライン専用ブランドの運用が開始され、モバイル業界はいよいよ本格的に寡占状態へと突入していくでしょう。

ソフトバンクやKDDIなどは、すでに移動体通信事業を「儲からない事業」と割り切り始めた印象すらあります。

例えば、ソフトバンクは11月に行われた「2021年3月期 第2四半期決算説明会」の中で、収益源の多様化について「モバイル通信料は2015年に売上高の45%だったが、2019年度には29%まで下がっている」と説明を行い、同社の収益全体に占める割合の低さとその減少率を強調する場面がありました。

つまり同社は「通信事業の売上が下がっても業績への影響は少ない」と言いたいのです。

これはコンシューマ向けのモバイル通信事業についてある程度の見切りを付けているという証拠であり、通信事業が同社のエコシステムを動かすための事業の一環でしか無くなっていることを示したのです。

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多角経営を軸とする同社にとって、通信事業は収益比率を下げるべきリスク事業になりつつある



この流れはソフトバンクだけではなく、KDDIも同様です。そもそも通信事業を軸としていない楽天モバイルは、初めからエコシステムの動力源としてしか利用していません。今後MNO各社は同じような流れになっていくものと思われます。

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楽天グループにとっての楽天モバイル事業は単なる経済圏を動かし、ユーザーを囲い込むための施策の1つでしかない。だから多少強引な料金設定も可能になる



コロナ禍が消費者の生活を直撃したのと同時に、企業もまたコロナ禍に苦しんでいます。そのような中での総務省による強引な値下げ要求に、各社は疲弊しているとも取れます。これは健全な市場競争ではありません。

2021年もまだまだコロナ禍続く上、状況はより悪化しているものと思われます。その中で、通信技術や通信事業はどのように人を救えるでしょうか。少なくとも、人を救うために使える道具ではあるはずです。

唯一救いがあるとするなら、消費者としては通信料金が劇的に安くなる可能性が高くなったことです。その背景や今後の業界動向はどうであれ、正しい選択を行えば確実にメリットのある料金プランが出揃い始めています。

KDDIや楽天モバイルも来年早々にはNTTドコモやソフトバンクに対抗する料金プランを打ち出してくるでしょう。NTTドコモもまだ、MVNOを活用した「超低廉な料金」プランの発表を残しています。消費者としての選択肢が増える中、もはや「選択しない」、「行動しない」は通じません。

2021年こそ「選択」を。厳しい時代だからこそ、自らの意思で少しでも良いと思うものを探し、選択してください。

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1つの通信キャリアでは見つからない選択肢も、他の通信キャリアならあるかもしれない。通信キャリアにこだわらない「聖域なき選択」を行う時が来た



記事執筆:秋吉 健


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