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「日経や朝日より上」文春オンラインが日本最大のニュースサイトになるまで

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いま日本最大のニュースサイトは「文春オンライン」だ。2019年11月に3億PVを超え、2020年5月には4億PVを突破。これは『日経電子版』や『朝日新聞デジタル』も上回る。なぜそこまでの成長を遂げられたのか。柳澤健氏の新刊『2016年の週刊文春』(光文社)から紹介しよう——。

※本稿は、柳澤健『2016年の週刊文春』(光文社)の最終章「文春オンライン」を再編集したものです。

女優の沢尻エリカ容疑者の保釈を取材するために警視庁東京湾岸署前に集まる報道陣ら女優の沢尻エリカ容疑者の保釈を取材するために警視庁東京湾岸署前に集まる報道陣ら=2019年12月6日、東京都江東区 - 写真=時事通信フォト

2017年時点では『文春オンライン』は第3グループだった

二〇一七年末、『文春オンライン』のPVは五〇〇〇万に達し、翌年も同程度の数字で推移した。決して悪くない数字だが、収益を上げるまでには至っていなかった。

当時、出版社系サイトのトップは『東洋経済オンライン』の約二億PV。それに続くのが『NEWSポストセブン』(小学館)や『アエラドット』(朝日新聞出版)の一億PV弱。『文春オンライン』は第三グループに位置していた。

ここを抜け出さなければ儲からない。竹田直弘(文春オンライン編集長)はそう感じた。

『文春オンライン』の記事の割合は、『週刊文春』と月刊『文藝春秋』と書籍からの転載が半分、オリジナル記事が半分というところ。

データを見ると、『週刊文春』のスクープ速報がPV獲得のエンジンとなっていることは明らかだった。特集記事の短い予告編である。一方で、オリジナル記事はユーザーが回遊する中で読まれることが多く、客寄せにはなりにくいことも判明した。

PVをここからさらに上げていくためには『週刊文春』との連携の強化が不可欠だ、と竹田直弘は考えた。

有料課金は「コアなアイドルファン向け」になっていた

一方、『週刊文春デジタル』を担当する渡邉庸三デスクは、有料課金モデルの大きな壁にぶち当たっていた。

当時の『週刊文春デジタル』は加入者七〇〇〇人程で頭打ち状態。月額八八〇円をニコニコチャンネル\に支払い、スマホやパソコンで『週刊文春』の記事や直撃動画を読んだり見たりする人間の数は、期待したほどには増えなかった。

気がつけば『週刊文春デジタル』は、コアなアイドルファン向けにディープな情報を提供するマニアックなサイトになっていた。

作っている人間が少数であり、テレビ局に直撃動画も売っていたから、赤字ではまったくなかったが、『週刊文春』の記事をスマホで読んでもらおうという当初の目標とは違う方向に進んでいた。二〇一四年春に新谷学が始めたデジタルへのチャレンジは、四年を過ぎてなお、紙の落ち込みを補うには程遠い状況だったのだ。

だがいま、『文春オンライン』は強力なコンテンツを切実に求めていた。『週刊文春』もまた、自らのスクープ力を存分に活用できるプラットフォームを必要としていた。

『週刊文春』に掲載されるのはほかのどこにも出ていない独自ネタばかり。ベッキーもショーンKもインターネットで大爆発した。コンテンツとしては最強だ。

『週刊文春』と『文春オンライン』の連携をもっと深めるためにはどうすればいいのか。渡邉庸三は竹田直弘と議論を重ねた。

PV獲得には『週刊文春』のスクープの力が必要不可欠

「そもそも『文春オンライン』は、文藝春秋という会社全体のプラットフォームとして、宣伝プロモーション局の中に立ち上げられたという経緯があり、社内では書籍や雑誌の宣伝的役割をもっと果たすべきだという意見が強かった。

しかし、そういう自社広告記事ではPVを稼げないのが現実でした。かたや『週刊文春デジタル』も現状のままでは大きな収益を上げるブレークスルーはできそうになかった。

二〇一八年の秋頃から竹田(直弘)と何度も話し合う中で意見が一致したのは、有料の課金モデルと無料のPVモデルは、別々にオペレーションするのではなく、ひとつの大きな枠組みの中で考えるべきだという方針でした。

有料は無料の延長線上にあり、無料の“裾野”を広大にしなければ、ピラミッドの頂上である有料会員の数も増えない。『文春オンライン』が大量のPVを獲得するためには『週刊文春』のスクープの力が必要不可欠、というのが我々の共通認識でした。

だったら、一緒にやるのがてっとり早い。まずは『文春オンライン』をニュースメディアとして勢いをつけてしまおうと。『文春オンライン』が『週刊文春』と同じフロア、同じ局内にあれば、連携はスムーズになるし、スクープ対応もしやすい。

『文春オンライン』が週刊文春編集局に入ることは、一見遠まわりに見えても、じつは名実ともに会社全体のプラットフォームになるための一番の近道だというのが、竹田と私が出した結論だったんです」(渡邉庸三)

『文春オンライン』を週刊文春編集局の中に入れようとするふたりのプランは、しかし社内から猛反発を受けた。「『文春オンライン』は本誌、週刊、出版局を横断する全社的なプラットフォームであったはずだ。週刊文春編集局の中に入るのは筋が違う」というものだ。

「紙の雑誌が食われるから困ります」と言われていた

デジタルの最前線で戦うふたりの判断を理想論を掲げて邪魔するべきではなかろう、と社外の私は思うが、この期に及んでもなお、ビジネスの論理とは異なる考えで動く人間も社内には多く、デジタルへの生理的な嫌悪と拒絶もなお存在した。

週刊文春編集局長の新谷学は、渡邉庸三と竹田直弘の合併構想の最大の推進役となった。

「このプランは俺も成長戦略の一丁目一番地として、かねてから上層部に伝えていたこと。現場で数字を背負うふたりが『一緒にやるしかありません』と言ってきたから、俺は改めて上層部に話をした。半ば強引に話を進めざるを得ないところもありました。

反対はものすごかった。オール文春のつもりで作った『文春オンライン』がどうして週刊文春編集局に入るんだ、週刊の軍門に降るのか、と。感情論としては理解できますが、リアルなビジネスを考えた場合、『文春オンライン』と最も親和性の高いメディアが『週刊文春』であることは明らかです。

これまでの『文春オンライン』は『週刊文春』にとっては同じ社内であっても遠い存在だった。お互いに気を遣いながら『この記事を出してもらえませんか?』『いや、それは紙の雑誌が食われるから困ります』と、いわば半身の状態でのやりとりを続けていた。

でも、そんなことでは話にならない。俺たちは本気でデジタルシフトして、デジタルの世界で勝たなければいけない。勝つためには武器を磨くしかない。週刊文春編集局の中に『文春オンライン』を入れれば、同じ部署だからスクープ速報の本数も増やせるし、これがほしい、というネタを最高のタイミングで出せる。スクープという武器をとことん使って、全体を引き上げるイメージです。一見、『文春オンライン』が『週刊文春』に飲み込まれたように見えるかもしれないけど、全社的なバランスを取るのは後からでもできるわけですよ」(新谷学)

「9階から2階」へ移ると、半年後には2億PVへ

役員のほぼ全員が反対だったから、「向かうところ敵だらけだな」と新谷が苦笑することもあった。

「オンラインとデジタルの現場で戦っているのは竹田と渡邉です。彼らが出した結論を社内の事情で潰すなんて論外でしょう。俺自身は、みんなが稼げてハッピーになれる仕組みを作りたいだけ。『文春オンライン』を週刊文春編集局に移して、もしうまくいかなければ、俺のことをおもしろく思わない人たちからボコボコに叩かれるに決まってる。リスクだらけですよ。でも、誰かが決断しなければ何も進まないから『俺が責任をとります』と押し切るしかなかった」(新谷学)

『文春オンライン』編集部が九階の宣伝プロモーション部から二階の週刊文春編集局に移ってきたのは二〇一九年四月のこと。俺が責任をとると啖呵を切った以上、新谷学には『文春オンライン』の数字を上げる以外に道は残されていなかった。背水の陣である。

だが、成果は意外なほど早く出た。当初の目標であった年内の一億PVは一カ月も経たないうちにクリア。その後も右肩上がりを続け、半年後の一〇月には二億PVを超えた。

二億PVは、出版社系サイトでは『東洋経済オンライン』だけが達成している数字だったから、渡邉庸三のデジタル部、文春オンライン編集部、デジタル・デザイン部(文春オンライン担当)にはそれぞれ社長賞が贈られた。

「『週刊文春』からもらえる記事の数も以前より遥かに多くなったし、渡邉庸三さんのデジタル部とガッチリ連携できたことも大きい。紙の雑誌で扱わないようなマニアックなアイドルのネタでも、『文春オンライン』に載せればドンとPVが伸びる。これまでデジタル部は課金サイトの『週刊文春デジタル』と『週刊文春』の芸能記事を主に担当してきたんですけど、次第に『文春オンライン』でPVを稼げる記事を作る専門部隊になっていった」(竹田直弘)

新編集長は「部数の減少」に大いに苦しんでいた

『文春オンライン』の躍進を支えているのが、紙の『週刊文春』のスクープ力であることは言うまでもなかろう。二〇一八年七月に新谷学から編集長を引き継いだのは加藤晃彦だった。

「青天の霹靂でしたね。ウチの奥さんとはずっと話をしていたんです。僕は『週刊文春』にもう六年もいるから、七月の人事異動では絶対に出るはずだ。『週刊文春』のデスクよりも忙しい仕事は文藝春秋にはほかにない。これからは楽になるから安心してほしいって。人事部のアンケートにも、希望の部署は『ナンバー』もしくは経理部と書きました。そもそも僕は『ナンバー』をやりたくて文春に入ったわけだし、営業にも広告にもいたことがあるから、経理に行けば会社のことが大体わかるかなと思って。

そうしたら三月末くらいだったかな。新谷さんに呼ばれていきなり『七月から編集長』と言われた。一瞬、何の編集長かなって。新谷さんとは一〇歳違うから、さすがに『週刊文春』編集長はないだろうと思っていたんです。文春は基本的に年功序列の会社だし。新谷さんが次に本誌に行くのなら、僕も一緒に行くかもしれない、とぼんやりと考えていたくらいで。

『週刊の編集長をやることになった』と奥さんに言ったら『えーっ、それはおめでとうって言った方がいいんだよね?』って、複雑な心境を隠さなかった。『週刊文春』のデスク以上に忙しい仕事はないと思っていたけど、じつはひとつだけあった。編集長です(笑)」(加藤晃彦)

新編集長となった加藤は大いに苦しんでいた。部数の減少が止まらないのだ。

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