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《巨人の4番が誰かわかりますか?》鬼滅に完敗「小学生の憧れ」ランキングからスポーツ選手が消滅の理由 - 中溝 康隆

 子どもたちの「憧れの人物」ランキングにスポーツ選手はいなかった。

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 ベネッセコーポレーションが2020年11月20日~23日にかけて、「進研ゼミ小学講座」の小学3~6年生の会員7661人(女子5170人・男子2491人)にアンケートを実施。「憧れの人物」ランキングのトップ10に、人気アニメ『鬼滅の刃』の登場人物から7人もランクインしたことが話題になった。結果は以下の通りだ。

1位 竈門炭治郎(鬼滅の刃)618票
2位 お母さん 393票
3位 胡蝶しのぶ(鬼滅の刃)315票
4位 先生 229票
5位 お父さん 171票
6位 冨岡義勇(鬼滅の刃)165票
7位 竈門禰豆子(鬼滅の刃)163票
8位 煉獄杏寿郎(鬼滅の刃)151票
9位 我妻善逸(鬼滅の刃)150票
10位 時透無一郎(鬼滅の刃)126票


アニメ「鬼滅の刃」ティザーPVより

 1位の竈門炭治郎に次いでランクインした母は強し。お父さんは胡蝶しのぶにも先生にも負けて第5位って切ない……と思ったら、 アンケート対象は女子の方が2679人も多いので妥当な結果だろうか。憧れている理由の上位で共通しているのが「やさしい」。そして、「小学生が2020年に好きになったもの」アンケートでは、2位のゲーム589票に大差をつけての第1位は、やはり『鬼滅の刃』で2216票と圧倒的な強さ。

「憧れの人」はスポーツ選手の指定席だった

 かつてこの手のアンケートはスポーツ選手の独壇場だった。昭和の長嶋・王の時代から、平成のイチローや本田圭佑まで、上位はその時代を代表するスポーツ選手が独占したものだ。それが令和2年は『気滅の刃』のひとり勝ち状態。

 これ仮に「鬼滅はあんまり好きじゃない……」という少数派の子どもたちは、教室で気を遣うかもなあと心配してしまう全集中の人気ぶりである。なんつって、ベタに“全集中”とか書いてる中年男の自分も、『全裸監督』を見るために加入したNetflixで鬼滅アニメ全話を視聴済みなのだから、まさに社会的なブームということだろう。

 スポーツ選手が憧れの人物上位にいないのは、まだ社会情勢的にスポーツを楽しむ余裕がない、なんだかんだ巣ごもり生活に慣れてきたとか様々な理由が考えられる。なお、10月に進研ゼミ小学講座会員9914人に聞いた「コロナがはやる前と比べて、キミの生活はどう変わりましたか? 」アンケートでは、「読書やテレビ視聴の時間増加は約7割、ネットやゲームは約5割が増加、自宅学習の時間も約6割が増加」という結果が出ている。

 子どもたちもコロナ禍で自宅で過ごす時間が急増し、一時的な“スポーツ離れ”が進みアニメやゲームがさらに身近な存在になった。2年前の2018年にベネッセが小学生4~6年生の男子に聞いた「なりたい職業」ランキングでは「1位サッカー選手、2位野球選手」だったのが、今年12月発表のなりたい職業アンケート結果は「1位ゲームクリエイター・プログラマー、2位ユーチューバー」である。

「世界で戦う」ことが人気の条件

 そんな中で日本スポーツ界にとって致命的だったのは、コロナ禍によりメジャー大会が延期・中止になった以上に、海外移動が厳しく制限されたことによる、「世界と戦う」という少年ジャンプ的な王道ストーリーの消失だ。興味深いデータがある。おもちゃメーカーのバンダイが小中学生を対象に実施した「好きなスポーツ選手」アンケートの最新2019年版を見てみよう。

1位 大谷翔平(野球)9.3%
2位 羽生結弦(フィギュアスケート)7.0%
3位 大坂なおみ(テニス)6.7%
4位 錦織圭(テニス)5.2%
5位 浅田真央(フィギュアスケート)5.0%
6位 八村塁(バスケットボール)4.3%
7位 池江璃花子(水泳)4.2%
8位 サニブラウン・ハキーム (陸上) 3.3%
9位 久保建英(サッカー)3.1%
10位 本田圭佑(サッカー)2.7%

 彼ら彼女らに共通しているのは「世界を舞台に戦っている」というキーワードだ。野球選手で唯一ランクインしている1位の大谷はメジャーリーガー(日本ハム時代は17年5位が最高位)だし、全豪オープンテニスで日本人初優勝を飾った大坂なおみや、NBAのワシントン・ウィザーズで活躍する八村塁にしても舞台は“世界“である。

 そうなると、日本国内でストーリーが完結するプロ野球選手やJリーガーは厳しい。NPBからも誰ひとりとして、子どもたちの好きなスポーツ選手トップ10にランクインしていない。

 例えば90年代の松井秀喜の顔と名前は教室の男子のほとんどが知っていたはずだが、今シーズンの本塁打王と打点王に輝いた令和の巨人軍の4番バッター岡本和真を知っている小学生は決して多くはないだろう。数年前にプロ野球選手の都内小学校訪問を取材したことがあったが、選手の名前はもちろん、バットの握り方すら知らない子もいて驚いたのを覚えている。

 そのシステムに賛否はあれど、日本では長い間、テレビの地上波ゴールデンタイムの巨人戦ナイター中継からプロ野球に触れていた家庭が多かった(というかチャンネル権を持っていた父親の隣で巨人戦中継に付き合う内に野球を覚えた子供は多いはずだ)。毎晩視聴率20%越えの朝ドラ級の“国民的娯楽”コンテンツ。だが、10数年前から巨人戦の地上波放送が激減、地元のチームという意識が低い首都圏では野球中継そのものが消えた。

テレビを見ない子供たち

 しかも、総務省の「令和2年版 情報通信白書」によると、10代のテレビ視聴時間は30代の約2分の1、50代の約3分の1まで減少している。これにより、若年層はテレビの主力ソフトでもある国内スポーツに触れる機会も減ってしまった。高度経済成長期から長年続いた、テレビと家庭とプロ野球を繋ぐ関係性もついに終わりを迎えたわけだ。

 やがてネットやスマホからリアルタイムで海外スポーツ情報を知るようになり、いつからかスポーツニュースも様々な「世界で戦うアスリート」を大きく取り上げるようになった。

 そうなると熱心な野球ファンは各々DAZNやスカパーと契約してペナントレースを追いかけるわけだが、それは同時に他ジャンルの競争相手と同じ土俵に上げられることを意味した。アニメ『鬼滅の刃』はジャンプ読者やテレビ放送時のリアルタイム組だけでなく、Amazonプライム・ビデオやNetflixの定額制の動画配信サービスで見たユーザーも多い。劇場版の大ヒットもあり、そういう後追い組が日に日に増え社会現象にまでなった。テレビの再放送を待つか、巨大な弁当箱のようなビデオテープを店舗でレンタルしていた時代とは違い、自分の好きな時間にアプリで手軽に素早くいくらでも楽しめる視聴環境。つまり、野球にしろサッカーにしろ、スマホの画面上では無数の映画やアニメと並列に並んでいる。

家ですごす時間が増えて7割が「うれしい」

 スポーツ逆風の時代である。大歓声のない無観客のスタジアムから中継される海外スポーツは別世界の風景に感じて感情移入が難しいし、新型コロナウイルス感染拡大が収まらない現状では、東京五輪中止を求める声もいまだに根強い。なるべく人に会わず、年末年始の帰省も我慢するステイホームの日々。

 以前はゲームばかりしてないで少しは外で遊びなさいとしかられていた子どもたちが、外で遊ぶくらいなら家にいなさいと言われるようになった。「進研ゼミ小学講座」会員9914人を対象にしたアンケートでは、約7割が家ですごす時間が増えたことを「うれしい」または「少しうれしい」と答えている。

 そんな彼ら彼女らが生きるインドア派の新様式の日常から、最も遠くなったのが「スポーツ」なのではないだろうか。みんなで集まるクラブ活動とか、スタジアムでの試合観戦を自粛していた学校や家庭も多いだろう。スポーツに触れる機会が激減した今は、スポーツ選手に憧れる以前にリアリティがない。より日常に近い、タブレットで流れる『鬼滅の刃』の方がリアルだ。

 数か月後、もしくは数年後、我々の日常生活がコロナ禍前に戻る日が来るとして、果たしてその日常に“スポーツのリアル“は戻るのだろうか?

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