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アキバ化するディズニーランド〜TDRは子どもオタクのための遊園地・オタクと子どもでマネタイズ(後編)

テーマ性=物語性、そしてファミリーエンターテインメントという軸からなるコンセプトを破壊しつつ新陳代謝を遂げ、アキバ・ドンキホーテ的な「ごった煮=データベース的空間」となりつつあるTDR(東京ディズニーリゾート=東京ディズニーランド+東京ディズニーシー)。こういった、コンセプトの崩壊(つまり「テーマなきテーマパーク」)は、それまでの家族や大人にかわって、子どもとオタクに強いまなざしを受ける環境を作り上げることになった。だが、それにもかかわらずTDRは強い人気を誇り続けている。そしてオリエンタルランド=TDRの経営母体からすれば、きわめて効率のよいビジネス・モデルを形成してもいる。今回は、顧客=ゲストが変わろうが高度なマネタイズを確保するTDRの、そのしたたかな戦略についてみていこう。

子どもとオタクをマーケットとした巧妙な戦略

オタクのニーズは膨大な情報、そしてその羅列にあることを前回指摘しておいた。ただし、こういった膨大な情報ニーズに対応するためには、やはり膨大な費用がかかる。しかし、これにもTDRは見事な対応を見せている。その一つはイベントやパレードを大型化したことだ。大型化すれば、キャラクターの露出頻度も高まる。ただし費用もそのぶん膨大になるのだけれど。だが、これは固定化してしまえばいいのだ。つまり同じパレードやイベントを何年も繰り広げれば、こういった「初期費用」は十分回収できる。しかもイベントそのものは大規模なので、一見するとゴージャスになったようにすら思える。だが、その分、細々したイベントやアトモスフィア的な演出は廃止されている。ステージにしてもスモールワールド、トゥモウロウランド、ラッキーナゲットなどにあったものが廃止されている。こうやってショーなどを集約してしまえば、実は運営費、人件費とも大幅に削減が可能となる。しかも、どんどん増えるゲストで通りを闊歩することになるダンサーや楽団(いずれもパーク内のアトモスフィアを演出する)は、むしろ安全上問題があるので、こちらの面でもメリットがある。

逆に増えたものもある。それはキャラクターズ・グリーティングと呼ばれる類いのアトラクションだ。これはディズニーのキャラクターが常設的にそこにスタンバイし、ゲストと一緒に写真撮影が出来るというもの。これも人件費的にはきわめてお手軽だ。キャラクターを一体だけ置いておけば事は足りるのだから。しかし、これって、ようするにAKB48の握手会みたいなもの。ただの情報でしかないし、完全な子供だましであることは、考えなくてもわかる。ここに列をなすのは子どもとオタクだけだ。

「エサ」と「情報」をばらまく

食についても同様だ。子どもは味覚がわからない。オタクも食事が「エサ」代わりなんて言われるくらいで、あまり食事には関心がない。だから要するに食べられればいい。で、こういった層のために登場した典型がポップコーンと自販機だ。パーク内にはコーンポタージュ、カレー、シーソルト、キャラメル、チョコレートなど(パークによって異なる)、実にたくさんのポップコーンがある。オタクたちはこれ専用のポップコーンバスケットにリフィルするかたちで食べ歩くのだ。オタクたちのオタク係数は極めて高い。こういった「萌えグッズ」や「萌えフード」さえ用意すれば、味なんか関係なくグッズを購入し、ポップコーンを食べてくれる。この時、彼/彼女たちはポップコーンを味=意味ではなく、情報として消費している。つまり全てのポップコーンをコンプリートすることが目的。だからTDRとしてはオタクたちはショー的なサービスをしなくてもどんどんお金を落としてくれる、ありがたいゲストなのだ。

ただし、こんな客ばっかりだから、ワゴンや食べ物売り場は常に列が出来てしまう(実際、ポップコーンワゴンには常に長蛇の列が出来ている)。そこで登場したのが体よくドリンクを配布できるドリンクの自販機だった。自販機だったら手渡しよりもはるかに効率がいい。ただし、これってファミリーエンターテインメントというコンセプトからすれば完全な掟破り。ウォルト・ディズニーは草葉の陰で怒り心頭に発しているだろう。でも、子どもとオタク相手だから、そんなことはどうでもいいのである。

過去を振り返らず変貌を遂げるTDR

一方、かつての物語とテーマの重層性からなるハイパーリアルな空間を嗜好していた「大人」たちにとっては、こんなTDRはもはやおぞましいアキバ・ドンキ的世界にしか思えない。だから、ここからどんどん遠ざかっていく。30代以降にとってTDRはもはや「卒業したもの」と位置づけられ、子ども連れて行くこと以外、自らそこに足を向かわせることがなくなっていくのだ。彼/彼女たちにしてみれば、あまりに安っぽくて薄っぺらい「子供だまし」にしかみえないのだから。
おそらく、今後TDRはこういったかたちでどんどん子どもとオタクのための遊園地、しかもテーマ性のないテーマパークとして発展を遂げていくだろう。そして、やがてファミリーエンターテインメントは完全に消失し、テーマパーク性=物語性のないテーマパークという矛盾した存在になっていく。その時には、パークは子どもとオタクの草刈り場となっているだろう。

しかし、ビジネス的に見た場合は「これでいい」のである。TDRは顧客のニーズに適応してどんどんと新陳代謝を遂げ、新しいビジネスモデルを作り上げていく。そう、ここは秋葉原・ドンキと同様「過去を振り返ることのない空間」。過去の片鱗の一切を捨象してスクラップ・アンド・ビルドを繰り返し新世代の欲望を無限に吸収 それでも僕はTDRに通い続ける 僕の友達やかつてディズニーランドでキャストを務めていた仲間たち(いずれも40代以上)はすっかり愛想を尽かし、子どもたちも大きくなったのでTDRからは足が遠のいている。その一方で、相変わらずディズニー世界には愛着があるため、ある点については共通した認識を持つ。それは「ディズニーランドはやっぱりアナハイムだよね」というもの。そう、ロサンゼルス郊外にある本家本元はTDRと異なり、過去を振り返りながら物語の重層性が幾重にも重ねられ歴史を刻み続ける「ウォルトの精神が宿る場所」。で、彼/彼女たちは、もうそこそこの歳でアメリカまで遊びに行くカネもあるので、そちらの方へ出かけるのだ。つまり「ディズニーランドは日本ではなくアメリカにある」という認識。つまりTDRからすれば、とっくに旧世代なのだ。

さて、でも僕だけは相変わらずTDRを訪れ続けている。子ども&オタクランドになぜ?それはTDRが常に日本の近未来を先取りしていると考えるから。イギリスの社会学者A.ブライマンはディズニー化(Disneyization)ということばを提出している。これは、世界全体がテーマパークのようにテーマと物語に基づいた空間を現出させていく現象を示したものだ。つまりディズニーランドは近未来の世界を先取りしているという前提に基づいてこの議論を展開している。僕も、この考えに賛成だ。つまりディズニーランドは常にちょっと先の未来をすでに実現している空間とみなしている。ということはTDRに通い続け、その変化をつぶさに見続けることで、数年後の未来をずっと見通すことが出来る。TDRでは、もはやブライマンの予測などとうの昔の話になり、テーマ性も物語性も崩壊しているわけで、いわば「脱ディズニー化(post-disneyization)」している。ということは、こういった「子ども+オタク」による社会空間が、数年後には日本中に出現するであろうことが予測される。だから、ここを訪れれば日本の未来空間が見える。で、実際、三十年近くTDRに通い続け(僕の実家は浦安で年パスで通ったこともあるし、キャストをやったこともある)、こういった「ディズニーランドの未来先取り」状況をビビッドに感じ続けてきた。つまりブライマンの指摘は当たっているという実感が強い。だからこそ、僕はTDRにこれからも通い続けようと思う。ただし、やっぱり僕は旧世代。だから、ディズニー世界そのものをここで楽しむのではない(楽しみたければやっぱりアメリカへ行く)。その変化を見届けたいという「社会学的・メディア論的関心」(あるいは「怖いもの見たさ?」)に基づいているのだけれど。

TDRの動向は見逃すことが出来ない。

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