
これまで病院は、病気を治療することで、患者に「安心」を与える場だった。それゆえ多くの人が、長時間待たされることを厭わずに通院し、医師の診察を受けることで心身を落ち着かせた。
ところがコロナ禍のいま、病院は患者に「不安」を与える場にもなっている。
大きな要因のひとつが、院内感染の発生だ。病院内に新型コロナウイルスが持ち込まれれば、基礎疾患を持つ高齢者を含む多くの患者に感染が拡大し、重症化リスクが増大する。
感染拡大初期には、東京の永寿総合病院で214人が感染し、43人が死亡。感染者が中高年齢層に移行した第3波では院内感染リスクがさらに増し、北海道の旭川厚生病院では12月10日までに患者ら258人が感染、25人が命を落とした。同じく吉田病院では201人が感染して31人が亡くなっている。
本当に必要な医療とは
その結果、「受診控え」が激増した。ヘルスケア企業「ロシュ・ダイアグノスティックス」が全国の20代から60代の男女4500人に行なった調査によると、回答者の2人に1人が、コロナ感染への不安から、それまで定期的に受けていた診療や治療、検査の受診を延期した。
また、がん患者の就労を支援する「CSRプロジェクト」の調査では、がん患者の8人に1人が治療を延期またはキャンセルしたという。その他の調査でも呼吸器内科や小児科、耳鼻咽喉科などで顕著な受診控えが確認されている。
だが、こうした状況を絶望視するのは早計だ。
長年、日本では「過剰医療」が問題視されており、特に慢性疾患における不適切な検査や多剤併用のリスクが指摘されてきた。病院が「安心を与える場」であるため過剰医療はなかなか是正されなかったが、コロナに よる受診控えの増加は、「本当に必要な医療とは何か」を考える絶好の機会となる。
これまで当たり前だった「受診」や「検査」は欠かせないものなのか。コロナを奇貨とし、改めて医療のあり方について考えたい。
※週刊ポスト2021年1月1・8日号