- 2020年12月25日 12:36
「勝負の3週間」に何も勝負しなかった菅首相、支持率が落ちるのは当然だ〜田原総一朗インタビュー
新型コロナウイルスの感染者数の増加が止まらない。12月23日には全国の新規感染者数が3271人と過去最多を記録。今後も増えていく可能性が大きい。政府はGoToトラベルキャンペーンを一時停止するなど対策を取っているが、後手に回っている印象は否めない。このような状況について、田原総一朗さんはどう見ているのか、話を聞いた。【田野幸伸・亀松太郎】
支持率低下を受けて、慌てて「GoTo」停止

政府は11月下旬から12月中旬までを「勝負の3週間」と位置付けていたが、結局、何にも勝負しなかったといえる。その間に感染者はどんどん増えて、最後になってGoToトラベルキャンペーンを一時停止することを決めた。
本来ならば、勝負の3週間の「最初」に決めるべきことを「最後」に決めた。いったい勝負の3週間とは、なんだったのか。
新聞やテレビの報道によると、菅首相がGoToトラベルを全国的に停止することを決めたのは、毎日新聞などの世論調査の結果、内閣支持率が一気に10ポイント以上も下がったからだという。
毎日新聞が12月13日に発表した世論調査の結果では、内閣支持率は40%で、前回(11月7日)の57%から17ポイントも下落した。一方で、不支持率は前回より13ポイント多い49%で、支持率を上回った。
菅首相がGoToトラベルの一時停止を表明したのは、この翌日の12月14日のことだ。いかに慌てて動いたのか、その動揺ぶりがうかがわれる。
このような事態を見て、僕は呆れている。
本来、政府というのは、国民が何を感じ、何を不安に思い、何を求めているのか、くまなく知っていないといけない。したがって、政府は常に独自の世論調査をやっているものだと思っていた。
しかし、どうも日本の政府は選挙の前くらいしか、まともに世論調査をやっていないようだ。その危機感のなさに驚いた。現在の菅内閣は、発足直後の支持率が非常に高かったので、しばらくは支持率も安泰だろうと安心しきっていたのではないか。
ところが、マスコミの世論調査で支持率の大幅下落が判明し、慌てふためいて、GoToトラベルキャンペーンにブレーキをかけた。その様子から見ても、菅内閣の「勝負の3週間」は大失敗だったといえるだろう。
政府の意志が国民に届いていない

もう一つ、問題がある。それは、12月14日にGoToトラベルの一時停止を発表して以降も、コロナの感染者はどんどん増え続け、過去最高を更新していることだ。
おそらく、コロナの感染拡大に歯止めをかけようという政府の意志が、国民の多くに伝わっていないのではないか。
昔は新聞やテレビで、政府の方針を発表すればよかった。だが今は、新聞もテレビも見ていない層がどんどん増えている。だから、時代の変化に合わせて、政府の意志や決定を国民にどう伝えるかを工夫しなければいけないのだが、その点で遅れているのではないか。
どうやら菅首相は、国民に対して「自粛をお願いします」と言えばそれでいい、と思っている節があるが、そんなことではコロナの感染拡大が止められないのは、データがはっきりと示している。

勝負の3週間の序盤、菅首相は小池東京都知事と会談し、65歳以上の高齢者や基礎疾患がある人について「GoToトラベル」利用の自粛を呼びかける、という点で合意し、大きく報道された。
だが、そもそも65歳以上の高齢者の多くはすでに自粛している。問題が、若い人たちが「感染しても大したことがない」と考えて、危機感を持っていないことだ。そのような状況を考えると、いったい何を言ってるんだと首をかしげてしまう。
「勝負の3週間」といいながら、結局、国民に「気をつけてください」と言うだけで、ほとんど何も対策をしていなかった。無為無策であって、支持率が落ちるのは当然だろう。
菅内閣が「GoToトラベルキャンペーン」をずるずると続けてきたことに対しては、「もっと早くやめるべきだった」と批判する声が強い。なぜ、キャンペーンを継続していたのか。
政府の幹部に聞くと、自民党の支持基盤の一つである商工会議所から「絶対にやめないでほしい」と強く言われていたらしい。経団連や経済同友会は大企業中心だが、商工会議所は中小企業中心で、サービス産業が多いから、GoToキャンペーンが頼みの綱という側面があったようだ。

二階幹事長も、観光業界との繋がりが非常に深い政治家だ。そのような事情が、GoToトラベルの一時停止まで時間がかかった背景にあったといえる。
勝負の3週間で何もしなかった菅内閣だが、このままでいいわけがない。効果的な対策を打たなければ、さらなる感染者の増加を招くだけだ。
菅首相が一番、心配しているのは医療崩壊だろう。全国各地で起きたら大変なことになる。いまや相当危ないところまできているが、菅首相は医療現場の実態を正確につかめているのか。非常に心配だ。