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電子書籍が切り開く個人出版の新たな地平~『Gene Mapper』作者・藤井太洋氏インタビュー~

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出版社に求められるのは”エージェント”としての役割?


―電子書籍の出現によって、出版社自体の役割がゼロベースで捉え直されてきていると思っています。藤井さんのように、ご自身で書くことができるし、友人に「感想聞かせてよ」と聞く程度であったとしても編集者としての視点も持つことができて、プロモーションに関しても自分でリスティングもできるし、サイトも構築できてと、ほぼ全てのプロセスが自己完結しようと思ったらできてしまう。なおかつ、ソーシャルメディアを介して、ダイレクトに読者とも繋がることができる。そうした状況で、プロの編集者や、出版社にサポートされる部分の必然性をもし感じられているとしたら、どういった部分でしょうか。

藤井:やっぱりメディアが変わる時には必要になると思います。例えば、ニンテンドー3DSの電子書籍マーケットに向けて、10代向けの『Gene Mapper』を書きたいんですよ。中学生くらいの子たちが300円くらいで買って読む本を出したい。

ところが、私は児童書の経験がないわけです。ですから、児童書の経験がある編集者の方と協力して、内容について指摘をもらいながら書き進めていかないと厳しいだろうと思っています。あとは、紙の本を出すときは、当然、出版社にサポートというか、パートナーシップを結んでやっていかなければいけないでしょう。

―そうなると、もしかしたら編集者はエージェントに近い存在なのかもしれませんね。

藤井:基本的にそうだと思います。今は、自分でエージェントもやっているので、あいまいですが、編集者・エディターという部分については、エージェントに近い動き方をしているわけですね。

―対象やデバイスが違えば、当然その内容もある程度、変えてしかるべきという背景があり、これからの編集者は、著者のエージェントとしてそれぞれのマーケットや、デバイスに最適化し、チューニングしていくという部分ですよね。

藤井:ソースコードが『Gene Mapper』であって、それぞれのOS環境に併せて、そのバイナリ版をコンパイルしていく。同じソースから微妙に違うものができる。例えば、『Gene Mapper』は中国版と英語版を準備しているのですが(中国語版の「基因設計師」が11月16日より刊行中)、当然私は書けないので翻訳家に依頼して、チェックだけしています。中国版はePub版の制作までやってもらえることになったので助かっていますけど。

―これまでの作家像というのは、良くも悪くも「作家先生」自体は書くことに集中して、あまり直接、契約交渉や、プロモーションといった雑事にはタッチせず、創作活動に集中するものだ!というイメージがあったと思います。しかし、今後は執筆以外の部分の活動が重要になってくるでしょうし、むしろ本人が直接できるのであれば、本人がやったほうがいいと思いますか。

藤井:必要ですし、そういう契約にもクリエイティビティが必要だと思います。プロの作家でも、自分で公式サイト持っている人の方が少ないですからね。

―海外では、電子書籍のベストセラーが出ていますが、日本で10万ダウンロードされるような電子書籍が出てくると思いますか?

藤井:可能性はあると思います。再来年とかには出るんじゃないでしょうか。実際にアプリ本と呼ばれるものが、6~7万売れているわけですから、Kindleでもkoboでもどこでも買える状態で、しっかりとプロモーションすれば10万くらいはいくと思います。

―それは、個人出版であっても可能性はあると思いますか。

藤井:個人でも電車の広告とかは出せますからね。その気になったらやる人は出てくるんじゃないですかね。

―紙の出版社も、我々BLOGOSのようなネットメディアにおいても潜在的に危機意識を持っているのは、クリエイターの方が、自分で書いて、クオリティチェックして、プロモーションしてというように自己完結できたら、編集者やプロモーター、キュレーターは、「俺らってやっぱり寄生虫だった」と思わざるを得ないという点です。そういうロールモデルとして藤井さんのような方が出てきたというのは、衝撃的で、いままで潜在的な可能性の話でしかなかったものが、現実になってきている。

藤井:本を出す際の執筆以外の部分の経験が自分にあるというのは、本当に偶然です。

それこそ活字の組版から、編集プロダクションの設立、取材、Webのプロモーション、制作、データの成形、プログラミングのチェックなどなどについて、それぞれのプロフェショナルとして携わっていた期間があったので、真ん中に著者というパーツを新たに置いたらはまって、個人完結のダイレクト・パブリッシングになったというイメージです。

もし、たくさん絵を描く人間であれば、絵を売る話になるでしょうし、音楽であればiTunesでやってらっしゃる方は大勢いるでしょう。ミュージシャンできちんとしたプロモーションサイトを持っているところは、文筆家以上には多いでしょうけど、そんなに一般的ではないですよね。アルバムの1枚ごとにオリジナルのドメインを取って「さあ、売るぞ」っていうところもあんまり見たことないですからね。

―藤井さんがこういう形で著書を出されて販売をされて、後に続こうという方がどんどん出てくると思います。そういった方にアドバイスはありますか。

藤井:とにかく、1人でやることにこだわらないでくださいということですね(笑)。私はたまたま自分で出来たので、他人に頼まなかったというだけですし。作品になっていない原稿を読んでもらう友だちや、そこに忌憚の無い意見を述べてくれる仲間というのは何ものにも代えがたいですから、最低限、その部分だけは見ていただく人を捕まえたほうがいいですね。

―それは例えばソーシャルの、Twitterとか、Facebookの友だちとかでも候補になり得ますか。

藤井:それは充分なると思います。

―プロの編集者に期待することがあったとしたらなんですか。

藤井:そういう創作活動をやっている人を発掘していくという活動はしたほうがいいんじゃないかなと思います。始まったばかりのKindleでもすぐに7、8人くらいは小説を個人出版で売っている人を発見できると思います。ブログなり、Twitterなりでその周辺の方々を追いかけると、もっとたくさんの人が出版しているのを発見できますよ。

―本日はありがとうございました。

プロフィール

藤井 太洋(ふじい たいよう):SF小説『Gene Mapper (ジーン・マッパー)』作者。処女作である『Gene Mapper』が完全個人出版でありながら異例の注目を集めている。
公式サイト
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