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電子書籍が切り開く個人出版の新たな地平~『Gene Mapper』作者・藤井太洋氏インタビュー~

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紙の書籍と電子書籍では、原稿が変わる


―執筆にiPhoneを使っているということですが、やはり電子書籍で読まれるという前提を踏まえてiPhoneで書いているのでしょうか。

藤井:元々は、通勤時間しか書く時間がなかったいう現実的な理由です。しかし、縦書きのルビの表示ができる点が非常に読みやすいなとは思いましたね。

加えて、一般的な電子書籍というか、パブーなどで売っているePubの本を買った際に思ったのが、非常に読みにくいということです。普通の文庫本や単行本のデータをePubに流し込んだものは、恐ろしく読みにくいんですよ。そういった体験をしてからは、iPhoneで見た時のリズムや、iPadにデータをうつしてみて、見え方を確認するといったことは、意識してやりました。

―今、リズムとおっしゃいましたが、文章まで変えているんですか。

藤井:今回は変えていないです。ただ縦書きの場合、漢数字で年号を書きますが、横書きになると英数字になるといったように、縦書きと横書きで原稿は変わります。アルファベットの固有名詞で直接書いたほうがいいものは、横書きの時はアルファベットですが、縦書きのときはカタカナにしますしね。

―その他にも、電子書籍というメディアの形態が文体に与えた影響はありますか。

藤井:例えば、『Gene Mapper』を紙に印刷して読むと、過呼吸気味になるというか、結構“息切れ”するんですよ。段落が短いですし、会話は短くぶつぶつに切ってあります。長い台詞はおそらく一切ないでしょう。電子書籍で読まれることを想定して、あえてそうしている部分もあります。

―『Gene Mapper』に編集者との立場で携わった方はいたのでしょうか。

藤井:編集者でもある友人に、2回しっかりと読んでもらっています。そういう意味では、編集者的な第2の目は持つようにしています。

―これをきっかけに、出版社から「紙でも出しませんか」というオファーはありましたか。

藤井:ありましたよ。ただ、「このままでは駄目ですよ」ということお伝えしています。私も読む気になれない(笑)。さすがに出版社の方々も分かってらっしゃいますよ。「このままでも出したい」と言ってきたのは、1社だけでしたから。紙でも文庫本を作る場合、行の長さも全然違いますから、改行を増やすなど、ちょっと中身を変えますよね。それと同じです。

―藤井さんとしては、今後あくまでデジタルの著者としてやっていかれるのでしょうか。それとも出版社と連携して紙でも展開していくのでしょうか。紙でも電子書籍でも展開できるという2つの選択肢があるときに、著者として旨みが大きいのは、どちらなのかというのは気になる点だと思います。

藤井:難しい質問ですね。これからもBorn digitalな作品を作り続けていくことは決めていますが、そこが絶対に全てではないと思っています。なので、出版社から、書籍の話があればぜひ乗らせていただきたいなと思っています。その際には、出版社さんの商品になりますので、著者としてパートナーシップをちゃんとやっていきたいなと考えていますね。

―どちらもメリットはあるというお考えなんですね。

藤井:メリットがあるというよりも、紙の書籍で出すということになれば、読者の幅を広げなければいけません。逆に言えば、著者としての幅も広がります。

『Gene Mapper』という作品は、”電子書籍が読める”以上のリテラシーがなければ、読めない内容なんですよ。言葉の選び方であり、スピード感も一定以上の知識を持った人でないと分からない部分がある。現在、電子書籍の専用端末がない状態で、クレジットカードの番号を入れて、電子書籍を買うという行為ができるリテラシーがないと基本的に楽しめない。ひょっとすると、それでもきついかもしれないという作品なんです。

しかし、著者としては、やはりもっと多くの人に読んで欲しいんです。ただ、『Gene Mapper』を電子書籍で売っている間は、わざわざそこまで間口を広げて書く必要はないんですよね。それは紙の本という機会があった時に本腰を入れてやりたいと思っています。それこそ、遺伝子やIT用語の説明もきちんと入れていく。今の状態で紙にすると、立ち読みでパっと開いた時に、ほぼ1ページ、見開きに意味の分からない言葉が並ぶということになりかねない。そうなってしまっては、最悪です。「こんな話なのかな」というのが、パラパラっと見た時に内容が想像できるようになってないといけないですから。

―実際に読んでみると、今このタイミングで、デジタルで読んでいることを前提として、「これでどうだ、分かるよな?」という部分も感じたんですが。

藤井:執筆や編集という役割を1つ1つ違う人がやっていると、甘えが許されないところはあるのですが、やはり1人でやっているとそういう部分は甘えてしまう。これはもうはっきり自分で分かっています。

私が想定していた読者の方々、つまりTwitterやブログをやられている方たちのリテラシーをあてにして書いた部分はもちろんあります。これは、紙の本だと許されないでしょう。編集者は、「ここが分からない」と平気で赤字を入れてくるのでしょうし、「これ説明してください」とか、はてなマークが1ページに何個も入ることになっていたと思います。

―お笑いタレントやミュージシャンも、テレビ局やレコード会社のプロデューサーに、「ここが面白くないから直せ」「君たちは可能性があるからここを直しなさい」とか言われる。作家も同じように、思った通り書いても出してもコアなファンには分かってもらえるのに、編集者から指摘されると直さざるを得ないといった部分がある。しかし、『Gene Mapper』には、いい意味での、「ゴリっとした、生っぽい、素材そのままな感じ」が出ているという風に感じました。電子書籍の魅力として、そうした「生っぽさ」がダイレクトに伝わるという部分はあると思うのですが。

藤井:今後、紙の書籍で出版した場合、ボリュームも読み応えも増すでしょうし、そうならざるをえないとは思いますが、おそらく、そうした生々しさというのはデジタル版のほうが上であり続けるだろうなという気がします。今書いている別の作品なんかでもやっぱり、そう思います。

―次回作にもう取り掛かっているんですね。

藤井:年末に向けてやっているんですけど、こんなに売れて、忙しくなるとは思っていませんでした。多分年末から1月くらいに向けて、一般的な文芸誌で短編を1本発表することになると思いますので、そちらのほうの執筆で時間を取られて、自分の作品のほうは休んでいます。

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