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北海道と新潟で進む中国資本の土地買収の実態と背景 - 吉田哲 (Wedge編集部員)

日本最北端、北海道稚内の野寒布(ノシャップ)岬越しに国の安全を守るのが海上自衛隊稚内基地分遣隊だ。この周辺には、国による再生可能エネルギーの固定価格買取制度(FIT)を追い風に数年前から風車が立ち並ぶようになった。その運営事業者の中には中国資本が見え隠れする。

「稚内は全国的にも風が強く、風力発電にはうってつけの場所だった」。東京都中央区に本社を置く再生可能エネルギー会社社長が語る。同社は稚内市内に事務所を構え、基地脇の同市富士見の土地数カ所を2017年から18年にかけて購入した。

同社は中国資本の風車メーカーと日本での総代理店、中国に本社がある設備会社とメンテナンス契約を結んでいた。稚内での説明会には、メーカーの中国人社長も参加している。

その後、FITの買い取り価格変更などによって同社は稚内での事業が経営難となり、この地域から撤退。土地や事業の一部は中国メーカーの商品を卸す契約をしていた企業へ債務弁済という形で引き継いでいるという。

「海岸沿いにある基地の周りや山あいに風車があれば、レーダーを乱反射させることになる。事実上の〝壁〟と同じ。機器が外国資本によるものとなれば、有事の際に妨害行為をされる恐れがある」と防衛省関係者は懸念の声を上げる。

稚内市は、17年12月に小型風力発電施設の建設と運用の基準を示した条例を制定。住宅や公共施設から100㍍以上離れることや計画段階での住民説明を課した。違反した場合は事業者名公表など罰則規定を設け、強制力がある。ただ、この条例に防衛施設周辺に対する条件はない。同市環境エネルギー課の市川正和課長は「防衛施設周辺に風車を建設することでどのような問題が生じるかなど条例制定の根拠を市が示すことは難しい」と現状を語る。

土地問題は日本経済の
弱体化を映し出す鏡

国として重要な土地への外国資本の影は、都市部にも及んでいる。新潟県庁や県内業界団体の建物が並ぶ新潟市中央区新光町では約1万5000平方㍍(サッカーコート2面分)もの土地が買われ、約10年間、〝塩漬け状態〟になっているのだ。

新潟市中央区新光町の1万5000平方㍍もの土地は、在新潟中国総領事館に買収された後、使われていない状態になっており、地図「グーグル・アース」(左上)には「中国総領事館候補地」と記されている (WEDGE) 写真を拡大

この土地は12年3月、在新潟中国総領事館が地元の不動産会社から移転用地として購入したことが表沙汰になった。領事館建設には広大過ぎることなどから、地域住民が反対し、建設にいたっていない。今でも雑草が生い茂り、地面にペイントされた文字が残ったままだ。

「ビルなり駐車場なり利用方法はいくらでもあるはず。使われないままなのはおかしい」。議会答弁などを通じてこの問題を注視する同市の深谷成信市議はいぶかる。

総領事館は小誌の取材に対し「土地に関するインタビューは受けていない」と詳細を明かさない。登記簿上は土地所有権者となっている地元不動産会社は「所有していることは間違いなく、(固定資産税など)税金は納めている。土地の利用や売却は活動していないので、わからない」と答える。

 事実上、国土を利用されていない状況ではあるが、「在新潟中国領事館土地売却に反対する県民の会」の川村保代表は「地元住民の関心が薄れた時に動いてくることもあり得る」と危惧する。深谷市議は「民有地なので、売却をやめろと言うことはできない。領事館の建設を認めないことを求めることが限界。領事館という公共のものでなく、民間の施設となったらどうしようもない」と話す。

北海道と新潟県の事例はいずれも法的には問題のない経済活動の一環。地域にとっては歓迎する面もある。

北海道稚内市の野寒布岬沿いの土地は、「昆布の干し場や漁師の倉庫として使われていたものの、近年は漁を辞める人や世代交代できなかった人が多くおり、比較的大きな遊休地ができてしまっている」(市関係者)。

港町である新潟市は、歴史的にも外国人との交流があり、市内の海産物店で働く男性は「中国人やロシア人が日常的に街にいて、〝よそ者〟という気は全くしない。留学生や働き手としての外国人で経済が成り立っている部分もある」と話す。

少子高齢化や人口減少によって衰退が止まらない地方にとって、外国資本による土地買収はまさに救世主のような存在なのかもしれない。だが、前出の防衛省関係者はこう指摘する。  「冷戦期と違い、今日の新冷戦の最前線は日本をはじめ東アジアなのは明らか。日本のルールにつけ込まれることは避けなければならない」

土地問題は日本経済の弱体化を映し出す鏡なのかもしれない。このまま指をくわえて待っていても事態は好転しない。日本全体の課題として良質な危機感を持ち、領土を守る術を1日も早く考え、実行していくべきだろう。

Wedge1月号では、以下の特集を組んでいます。全国の書店や駅売店、アマゾンなどでお買い求めいただけます。
■取られ続ける技術や土地 日本を守る「盾」を持て
DATA      狙われる機微技術 活発化する「経済安保」めぐる動き
INTRODUCTION アメリカは本気 経済安保で求められる日本の「覚悟」
PART 1    なぜ中国は技術覇権にこだわるのか 国家戦略を読み解く
PART 2    狙われる技術大国・日本 官民一体で「営業秘密」を守れ
PART 3    日本企業の人事制度 米中対立激化で〝大転換〟が必須に
PART 4   「経済安保」と「研究の自由」 両立に向けた体制整備を急げ
COLUMN   経済安保は全体戦略の一つ 財政面からも国を守るビジョンを
PART 5    合法的〟に進む外資土地買収は想像以上 もっと危機感を持て
PART 6    激変した欧州の「中国観」 日本は独・欧州ともっと手を結べ
PART 7    世界中に広がる〝親中工作〟 「イデオロギー戦争」の実態とは?
PART 8   「戦略的不可欠性」ある技術を武器に日本の存在感を高めよ

◆Wedge2021年1月号より

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