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生きることは「生きたい」という意思をなくして成り立つことはない - 「賢人論。」128回(中編)毛利衛氏

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1992年9月12日、毛利衛氏を乗せたスペースシャトル「エンデバー」が宇宙へ飛び立った。それは少年の日に抱いた憧れを成就させた瞬間だった。しかし、夢が実現するまでのプロセスは決して順風満帆ではなく、宇宙からの帰還後には思いがけない苦悩が待ち受けていた。自身の飛行体験と人類のこれまでの宇宙への挑戦から見えたものは何だったのか。毛利氏に聞いた。

取材・文/木村光一 撮影/荻山拓也

35歳で宇宙飛行士選抜試験に応募し合格

みんなの介護 毛利さんが“人工太陽”の研究に携わっていたこと、いまや雪道には欠かせない“スタッドレスタイヤ”の開発と普及のきっかけになった研究を行っていたことなど、非常に興味深いお話を伺いました(前編)。その後、毛利さんは日本初の宇宙飛行士選抜試験に応募して宇宙への切符を手にされたわけですが、それまで着実に実績を積み上げていた研究者の立場に未練はなかったのでしょうか。

毛利 35歳になっていた私が宇宙飛行士選抜試験に応募したのは、言うまでもなく宇宙に行くことが子どもの頃からの憧れだったからです。したがって「宇宙へ行きたい」という思いが先走って後先のことについては考えていませんでした。それと、採用枠が宇宙空間でさまざまな実験を行う「搭乗科学技術者(PS/ペイロードスペシャリスト)」であったことにも背中を押されました。実験は得意分野。自分にとって、これ以上自分の能力に挑戦する機会はないと思ったわけです。

とはいえ、優秀な研究者はほかにいくらでもいますし、「自分が採用されることはまずないだろう。駄目で元々」という気持ちで応募したところ、信じがたい幸運で合格。と、そこまでは良かったのですが、宇宙へ飛び立つまでが大変でした。

喜びから一転、初飛行まで32回の延期で約7年間忍耐の日々を過ごす

みんなの介護 向井千秋さん、土井隆雄さん、そして毛利さんの3人が正式に選ばれたのが1985年8月。そこから数えると、エンデバーに乗り込むまで7年かかったことになりますね。

毛利 はい。当初、初飛行は1988年1月の予定でした。ところが、宇宙飛行士に採用されてわずか3ヵ月後の1986年1月にスペースシャトル「チャレンジャー」の爆発事故が起きてしまった。それから次の打ち上げがいつになるのか予定が立たなくなったのです。

最初のうちはNASAから日本へは情報がまったく与えられず、3人のうち誰が最初に乗るのかさえ決まらないまま、訓練だけを繰り返していました。そのうち「ひょっとして、このまま待ち続けても自分が宇宙へ行けるチャンスは巡ってこないのではないか」という不安に苛まれて。といって、大学も辞めて住んでいた札幌のマンションも引き払っていましたから戻れる場所もなく、先行きが見えない状態で、妻や子どもたちにも不慣れな環境での生活を強いていることが申し訳なくて…。私の勝手な夢は現実の生活では地獄になりました。

みんなの介護 先日(日本時間2020年11月16日)、野口聡一さんが度重なる打ち上げ延期の末、ようやく民間の宇宙船としてはじめて運用段階に入った「クルードラゴン」で3回目の宇宙へ旅立ちましたが、何か連絡は取られていたのでしょうか。

毛利 待たされる身の苦しさや不安は誰よりもわかっているつもりですから、「打ち上げは必ずやってくる。私のときは32回延期になった」とメールを送って励ましていました。そしたら野口さんから「32回ですか。それを聞いて安心しました」という返信が(笑)。とにかく、無事に打ち上げが成功して本当に良かったです。

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