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"米大統領選結果を受け、日本はどうすべき?"から考える、この国の問題の本質

■米大統領選結果を受け、日本はどうすべき?

小見出しと同じタイトルで、各界のオピニオンリーダーたちの見解をそれぞれ簡潔にまとめた記事が、現在、フジテレビのウェブサイトに載っている。

http://www.fujitv.co.jp/compass/view_66.html

回答者は以下のような面々である。国内外の大学教授および大学経営陣、シンクタンクの代表および研究者、医師、弁護士、評論家、芸術家、企業経営者、ジャーナリスト、エコノミスト、エッセイストら計30名。錚々たる顔ぶれが揃う。

質問事項は次の5つだ。「Q1.今回の大統領選の結果は、日本にとってどう影響すると考えるか?」、「Q2.問1の回答理由」、「Q3.日本の経済を好転させるために、次期大統領が率いる米国に対して、日本は今後どう対処すべきと考えるか?」、「Q4.日本の安全保障を高めるために、次期大統領が率いる米国に対して、日本は今後どう対処すべきと考えるか?」、「Q5.今回の大統領選の結果を受け、注目しているポイント。」

■筆者の気づき

内容としては興味深い。詳しくは当該記事を参照されたいが、各回答者の知識・経験・バックグラウンドに裏打ちされた、多様な見解や鋭い予測がある。多くの人が、同問題について考える材料やヒントを得ることができるだろう。

しかし、筆者は読み進めていくうちにあることに気づき、最後には暗澹たる心持ちになった。

それは何故か。30人ものオピニオンリーダーのうち、誰も、それこそ誰一人として、「日本の教育問題」に触れていなかったからである。

■問題の本質と目を向けるべき先

今回の米国大統領選挙において、「教育問題」は、オバマ・ロムニー両陣営にとって、確実に重要な争点のひとつだった。再選したオバマは大学授業料の半減や理数系教師の積極配置、失業者訓練の強化といった政策を掲げ、敗れたロムニーも優秀な学生(ベスト&ブライテスト)を惹きつけるような教育環境の整備や民間重視の職業訓練といった政策を掲げていた。

政策の力点こそ違えど、「教育問題の改善は雇用そして経済・社会問題の改善につながる」との意識は、両者に共通していた。かの国の有権者にとって、多額の借金をして高等教育を受けたが不況で職がない若者や構造的問題を抱えた公の教育・訓練制度が、広く認識された優先課題だったからだ。選挙戦佳境の討論会で、将来を不安視する学生が候補者に問いかけを行うシーンは、印象深い映像として世界中にニュース配信された。

照らして、わが国の教育はどうか。中身こそ違うが、深刻さとしては似たような課題を抱えているのではないか。

特にここ最近は、折しも田中真紀子文科相の大学新設にかかわる認可/不認可騒動で、高等教育の在り方を含め、日本の学校教育の在り方が大きく議論になった時期でもある。そのほんの少し前には、いじめ自殺報道等で、初等・中等教育現場の状況が世間の耳目を集め、広く社会問題として人々に認識された。しかも、そんなタイミングで、記事で回答を寄せた30人は、大学等で実際に教育に携わっている人々を含め、おそらく皆が皆、後進の教育・指導に従事している人ばかりのハズだ。

そのような人たちが、今「日本をどうすべき?」と問われ、なぜ日本の教育問題に関心が向かなかったのか。ここにこそ“問題の本質”があるのではないか。(別に彼ら30人を責めようというのではない。)

「経済について質問したからじゃないの?」という声が聞こえてきそうだが、経済と教育を切り離して考える方がどうかしている。それこそ官僚主導の縦割り行政の弊害とも言えるタコツボ思考だろう。かつて『学問のススメ』が大ベストセラーになった明治期、日本がどういう状況で何をしようとしていたか、思い起こしてみると良い。同様に「米国への対処を中心に質問したからじゃないの?」という指摘も的外れである。結果をよく読むと、回答者の多くが「米国への対処(外交・対外政策)というより、日本がどうするか(内政・国内問題)が課題」とのスタンスで回答を寄せているからだ。

私たちが目を向けるべき先はどこか。

文教費/GDPで国際比較してみると、日本の公教育の貧しさがよく分かる。医療経済学者の権丈善一氏は日本の医療をして「小さすぎる政府」と呼んだが、この国は教育においても同様の問題を抱えている(下図)。

リンク先を見る

ある調査によれば、東大合格者の親の6割が年収1000万円以上だという。公教育への投資の貧困が、教育格差を生み出し、社会格差と若者の閉塞感とも関係しているのではないか。

■まとめにかえて:次世代に渡すタスキ

果たして、将来のこの国の豊かさを左右するのが、本当に米国や中国なのか?はたまた、日米安保やTPP、さらなる増税なのか?

身も蓋もないことを言えば、そんなことは誰にも分かりはしない。回答者の一人、河野勝氏が鋭く指摘するように、それは「パワーバランスや経済相互依存といった構造的要因によって決められるもの」だからだ。すなわち、それは因果論ではなく確率論や複雑系の世界で決まる話であり、不確実性が高く予測不可能ということである。

逆に誰にでも分かるのは、「将来のこの国の豊かさを左右するのは、現在の若い世代と今はまだ生まれてもいない世代である」ということだ。

日本の将来のカギを握るのは、記事に出ているような知識人たちでも、今の政界で権力ゲームを繰り広げている人たちでもない。20年後や30年後には、彼らの多くが一線を退き、あるいは世を去っていることだろう。ましてや、将来世代のためと詭弁を弄し、デフレ下の現在に増税やTPPを強行しようという人たちが、そのカギを握っていることは絶対にない。

そのカギは、今はまだ選挙権もない人々の手中にある。これだけは確実に言える。この国の現在を憂い、次世代に少しはマシな時代にしてタスキを渡す気があるのならば、私たちは「教育問題」にこそ真摯に取り組むべきだ。

国民の代理人を選び直すときが近いのなら、私たちがよくよく耳を貸し目を凝らすべきは、この点についてだ。「候補者たちが果たして教育問題を重要な争点として取り上げているどうか?」というレベルから、チェックが必要だろう。それこそが、今、選挙権を持つ私たちに求められる「大人の責任」(※)というモノではなかろうか。

---
坂口一樹(シンクタンク研究員)
【2012年11月13日初稿受、同年11月19日掲載】

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