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フェイクポルノ職人に有罪判決 目的はエロでも金銭でもなくディープラーニング技術の向上だった

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裁判傍聴芸人の阿曽山大噴火です。今回傍聴したのは、12月8日に東京地裁で行われたシステムエンジニアの大槻隆信被告人(47)の著作権法違反と名誉毀損の初公判。今年の3~7月に芸能人2人の偽のわいせつ動画を公開したことで逮捕されたと報じられた事件です。

被告人が作っていたのは「ディープフェイク」「フェイクポルノ」と呼ばれる動画で、アダルトビデオの女優の顔を他人の顔に変えた動画です。昔はヌード写真モデルの顔の上から芸能人の顔を貼り付けたアイドルコラージュがありましたが、その動画版とでもいいましょうか、精巧にできた性交の動画になります。ポルノに限った話ではなく、海外に目を向けると2020年のアメリカ大統領選ではトランプ氏もバイデン氏も実際の発言とは違うディープフェイクの動画が出回っていました。世界的な社会問題といえるでしょう。

日本国内でディープフェイクに関連した事件の摘発は本件が初だそうで、この裁判が初の判例ということになります。歴史に残る注目の裁判です。

身柄は拘束されていたため、グレーのジャージを着た被告人が刑務官2人に連れられて入廷。手錠腰縄をはずされて、開廷です。

起訴されたのは3件。
1つ目は、被告人が今年3月28日〜4月18日の間、兵庫県内の自宅でメディアエージェンシーが著作権を有する映画で、妃悠愛のAV作品に別の女性の顔を合成した動画を制作し、サーバコンピューターに保存して著作権を侵害した件。

2つ目は4月17日、被告人が自宅でウィルが著作権を有する映画で、深田えいみのAV作品にAさんの顔を合成した動画を制作してサーバコンピューターに保存し、Aさんがあたかもアダルトビデオに出演したかのような動画を送信した事で名誉を毀損し、著作権を侵害した件。

3つ目は、被告人が7月6日、男女の性交場面を収めた動画の女性の顔にBさんの顔を合成した動画を制作。被告人が開設したブログ内にBさんがあたかもアダルトビデオに出演したかのような動画のURLを掲載して名誉を毀損した件。

1つ目は作品を特定していますが女性を特定していないため、著作権法違反。2つ目は両方特定しているため著作権法違反と名誉毀損。3つ目は作品を特定していませんが女性を特定しているため名誉毀損となります。

法廷でも被害女性の名前を明かす事なく、AさんBさんと呼ばれていました。それにしても起訴状だとアダルトビデオは「映画」と表現するのですね。罪状認否で被告人は3つとも罪を認めていました。

検察官の冒頭陳述によると、被告人は大学中退後、会社を転々として犯行当時はシステムエンジニアとして働いていたとのこと。前科前歴はなく、今回が初めての逮捕となります。

被告人は2015年にディープラーニングの存在を知り、個人的に勉強するようになったといいます。そんな中で顔を合成するソフト「ディープフェイスラボ」と出会い、同時にフェイクポルノがある事も知ったと。遅くとも2019年10月には被告人もフェイクポルノを作って、自分のTwitterアカウントに動画を公開。ブログに動画のURLを掲載していたらしいです。

取り調べに対して被告人は、「自宅のPCを使って芸能人の顔を合成した動画を作り、ブログに公開。多くの人が見られるようにしました。元々AI技術に興味があり、ディープラーニングを勉強するようになりました。勉強していた顔合成のソフトで制作した動画をネット上に公開している人がたくさんいる事を知り、どこまで似せる事ができているのかを知るためTwitterにアップするようになりました。

するとフォロワーが増加し、この人で作って欲しいというリクエストも多くなりました。それにやりがいを感じて様々なフェイクポルノを作りました。リクエストをしてきた人に直接動画を渡していたところ、連絡が取れなくなるケースが出てきたため、ブログにURLを掲載するようになりました。

ディープフェイクに関しては、トランプ大統領やFacebookの(共同創業者兼会長兼CEO)マーク・ザッカーバーグの動画で問題になっている事も知っていました」と供述しているそうです。

フェイクポルノはディープラーニング技術向上のために始めた

Pixabay

被告人質問です。まずは弁護人から。

弁護人「私との面会でも言っていましたが、お金を稼ぐ目的ではないと?」
被告人「はい」

この手のフェイクポルノは制作だけでなく、販売もする輩も多いらしいのですが、被告人は販売をしていなかったようです。

弁護人「あなたにはどういうメリットがありますか?」
被告人「前提としてディープラーニングの勉強をしていました。僕は芸能人をあまり知らないため、皆さんに見てもらいたいなと」
弁護人「最初からアダルトビデオを元にしていましたか?」
被告人「最初はYouTubeに上がっていた、服を着ている動画を使っていました」

これも勝手にネットにアップしていたため著作権侵害に変わりはありませんが、アダルトビデオなどの裸の動画は使わずに顔の合成をしていたようです。

弁護人「それがアダルトビデオになったのは?」
被告人「依頼があったし、皆さんアップしているし良いかなと」
弁護人「アダルトビデオだと見てくれる人も多いということもあったのかな?」
被告人「はい」
弁護人「多くの人に見てもらいたいですか?」
被告人「コメントを頂きたくて」
弁護人「コメントを貰うと何かあったのですか?」
被告人「自分で作ったプログラムの数値は出ますけど、正しく動くのか見てもらいたいと」
弁護人「技術を高めたかったの?」
被告人「そうですね」

被告人は芸能人に詳しくないため、ファンにチェックしてもらい動画としての仕上がりを審査して欲しかったというのが犯行の動機。しかも服を着た動画だと反響が少ないため、アダルトビデオを元にしてやっていたと。何を持って「やましい」と言うのかは難しいですが、これで金を稼ぐとか女性芸能人のイメージをダウンさせようというやましい意図はなかったようです。あくまでも自分の技術を高めたいという自己中心的な動機でした。

弁護人「他に違法にならない方法はなかった?」
被告人「探せばあると思いますが、一番手っ取り早かった」
弁護人「技術の向上は今後どうしますか?」
被告人「ディープラーニングは他にもいろいろあるので勉強していきたいと思っています」

ディープラーニングと言ってもジャンルは多岐に亘るわけで、他にも勉強のやり方はあったと悔やんでいるようです。

弁護人「使われる女性の気持ちは考えませんでしたか?」
被告人「芸能人のことを知らなくて、リクエストしてきた人に素材を集めてもらい作っていたので」

ディープフェイクには、たくさんの写真が必要のようで、その画像はリクエストする側が用意していたこともあり、被告人としては女性の気持ちは気にしていなかったように感じました。

弁護人「今後ですけどシステムエンジニアとして生活をしていくのですか?」
被告人「この件でクビになったので、仕事を探します」
弁護人「似た仕事ですか?」
被告人「技術には自信があるので」

本件自体は犯罪ですが、被告人は技術もあるし勉強熱心。この人材は早い者勝ちでしょう。欲しがる会社も多そうですよね。

AI技術は人の生活を豊かにするためのもの

続いて検察官からの質問です。

検察官「社会問題になっていたのは知っていました?」
被告人「はい」
検察官「動画をアップして捕まるとは思っていましたか?」
被告人「考えていませんでした。他にもやってはる人がいたので」

それで被告人の罪が軽くなる事はありませんが、現状として同じ犯罪をやっている人は他にもいるという事でしょう。

検察官「目的はどこにあったのですか?」
被告人「Twitterに(この芸能人で作って)欲しいという依頼がきて。そのリクエストした人と連絡が取れなくなった時はブログにアップしていたんです」
検察官「さきほど『コメントを貰いたかった』と言っていましたけど、それが目的なのですか?」
被告人「はい。依頼してきた人だと、目が違うとか似てないとか細かな事を言ってくれるので」

依頼主はその芸能人をよく知っているから詳細なダメ出しをしてくれたのでしょう。

検察官「そのコメントをプログラム修正の分析に使う訳ですか?」
被告人「はい」
検察官「コメントの内容そのものについてはどうでした?」
被告人「賛否両論ありました。似ているとか似てないとか」

てっきり違法か合法かといった動画制作の道義的意義についての賛否両論かと思っていたのですが、似ているか否かの賛否だったようです。

検察官「似ていますね〜と言われると嬉しいのですか?」
被告人「嬉しいというよりは、良かったなと」
検察官「それは技術が作用しているという喜び?」
被告人「そうです」
検察官「ブログの閲覧数が増えると広告収入が上がるのですか?」
被告人「いいえ。(広告収入は)全くないです」

依頼するクライアントと制作する職人という関係性のため金銭が発生しそうなものですが、被告人は金儲けではないんだと改めてアピールです。ディープラーニングを真面目に勉強したい、技術を向上させたいという純粋な動機です。

検察官「そもそもこの技術の本来の目的は?」
被告人「実際使われているのはフェイスIDとか、画面認識のシステムです。ディープラーニングはAIスピーカーなどに使われています」
検察官「人の生活を豊かにするものなのですね」
被告人「そうですね」
検察官「その技術をどう活かしていくのですか?」
被告人「ディープラーニングに絡めた仕事をしたいなと」
検察官「今後、その知識や経験は世間に役立つように使うと約束できますか?」
被告人「はい」

多くの人の生活を豊かにすると誓って質問終了。かなり大袈裟な質問ではありますが。検察官としては、技術向上と言うけどそもそも何のためのものという疑問があったようですね。

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