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行政の「医療従事者に感謝」キャンペーンに潜む自己満足感

新型コロナウイルスの感染拡大が猛威を振るっている。

これを書いている時点で、日本全体では1日あたりの新たな感染者数が3000人を超え、東京では12月17日には800人を超えるなど大変な状態である。感染症は急激な増加を見せる可能性があることから、これが掲載される頃には数字が大幅に増加していることも考えられ、まったく予断を許さない状況にある。

何か引っかかる「行政における医療従事者への感謝」

共同通信社

そんな状況下で必死に新型コロナに立ち向かっているのが医療従事者たちだ。

報道では通常の医療行為に影響が及ぶほどになっており、新型コロナに関係のない患者でも受け入れられないケースが出てしまうような状況であるという。特に年末で、自粛ムードとはいえ忘年会などでお酒を飲む機会が増えそうなこの時期は、現場の危機感も相当なものであろう。

だからこそ、医療従事者には感謝をしたいと思う。思う……のだが、どうも引っかかるのが「行政における医療従事者への感謝」である。

厚生労働省は、12月4日からSNSで「#広がれありがとうの輪」というハッシュタグを使用するなどして、感染予防の徹底と医療従事者などに対する差別や偏見をなくすためのプロジェクトを開始した。*1

また、全国各地で医療従事者に感謝を示すブルーのライトアップなどが積極的に行われている。

その一方で、ライトアップに新型コロナ対策のための臨時交付金が使われた例*2があるなど、こうしたライトアップが本当に医療従事者への支援になっているかという点には疑問が残る。

コロナに関連する予算を使っているとすれば、それは別の医療施設等に対する支援に置き換えられなかったのだろうか?ライトアップをすることで、医療従事者に感謝を伝えるよりも、行政の一般市民に対する「我々は医療従事者を応援してますよアピール」だとすれば、それは医療従事者を利用しているだけとも捉えることができてしまう。

プロパガンダ映像?ブルーインパルスの成功体験

BLOGOS編集部

こうした微妙な「行政による医療従事者への応援」が行われているのには、明確な原因がある。

それは5月29日に実施された、航空自衛隊の飛行チーム「ブルーインパルス」による医療従事者への感謝を表したパフォーマンスである。河野太郎防衛大臣(当時)の発案によって行われ、東京上空を飛んだブルーインパルスの姿は多くの人の共感を呼んだといわれている。

特に印象的だったのは、新聞やテレビをはじめ、様々なメディアで報じられた、白衣姿の医者や看護師たちが、ブルーインパルスを見上げて快哉を叫ぶ映像だろう。真っ青な空と、ブルーインパルスの煙幕と、白衣姿の医療従事者。この見事なコントラストの映像は、多くの人たちに清涼感を与えた。

だが、そこで喜んでいたのは、本当は誰だったのか。

喜んでいた医療従事者は、世田谷区にある自衛隊中央病院の屋上に集められた自衛隊員たちだった。自衛隊が自衛隊の病院の屋上に、自衛隊の医療従事者たちを集めてメディアに撮影させることで、あのような見事な映像ができたのである。
うん、見事なプロパガンダ映像だ。

もちろん、自衛隊中央病院の医療従事者たちも、無関係ではない。無関係ではないどころか、日本における新型コロナ騒ぎがまだクルーズ船の中だけの話だった頃から、新型コロナ患者を受け入れ、対応に当たっている。

だから当然、自衛隊中央病院の医療従事者たちにも感謝である。しかしその感謝にブルーインパルスや、河野太郎という政治家個人の手柄感は必要であっただろうか?自衛隊中央病院以外の医療現場で戦っている人たちには、あのように空を見上げる時間があっただろうか?

様々な疑問を残しつつも、あのプロパガンダが世間に好意的に受け止められたことによって、多くの自治体の人たちに対して「行政がパフォーマンスを用いて、医療従事者に感謝を示すことは良いことだ」と思わせてしまったのである。
そのことが、今のパフォーマンスのために新型コロナ対策費を使う行政の姿に繋がっている。

行政なら適切な待遇とサポートを示せ

AP

僕は行政がパフォーマンスの形で医療従事者に感謝を示すことは、やってはならないことであると考えている。

理由としては単純だ。医療の知識や術を持たない個人が、医療従事者に感謝するのは素晴らしいことだが、行政はもっと合理的に医療従事者を支援できる権限がある。その権限を適切に行使すること自体が最重要だからである。

「感謝のライトアップ」などをすることで、さも「我々行政は医療従事者に感謝を示している」と気持ちよくなってしまい、医療従事者に対して十分な何かをした気になってしまう。その結果として山積している問題を見失ってしまうのである。

行政が医療従事者に抱くべきは、感謝の気持ちではなく「申し訳なさ」であるべきだ。医療従事者が長きにわたり、新型コロナと攻防を続けざるを得ない状況に対し、喉に小骨が詰まり続けているような気持ちを行政は味わうべきなのである。

普段はコスト削減とばかりに医療への支援を取りやめたり減額したりしながら、緊急時には医療に丸投げをする。そして「医療従事者に感謝」とライティングを行う。そして喉元を過ぎれば、またコスト削減がはじまる。こんなことで医療従事者たちが報われるはずもない。

「医療従事者に感謝」ではなく「医療従事者に適切な待遇と休暇とサポートを」である。そのためにこそ行政は平時から動かなければならなかったのである。

*1:医療従事者をはじめ身近な人に「ありがとう」をSNSで(厚生労働省)https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_15257.html
*2:コロナ交付金でライトアップや公用車…財務省「説明を」(朝日新聞)https://digital.asahi.com/articles/ASNC267BTNC2ULFA00L.html

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