記事

「cakesは叩かれて当然」と思う人が、ネットを"死んだ土地"に変えている

1/2

ウェブメディアの記事はしばしば「炎上」する。文筆家の御田寺圭氏は「ネット上で“不届き者”を見つけて吊るし上げることで、世直し気分を味わっている人たちがいる。多くの書き手たちは嫌気がさしている。これではインターネットという豊かな空間が、死んだ土地になってしまう」と警鐘を鳴らす――。

夕日
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/idizimage

インターネットに文章を発表すると「嫌な気持ち」になる

御田寺圭の不都合な深層」と題した連載まで与えてもらった身分でありながら、このようなことを述べるのは気が引けるのであるが、しかし率直な心情を綴らせてもらうと、私は近頃、インターネットに文章を発表することで、楽しい・嬉しい・心地よいといった気分を得るよりも、不快感やいらだちを覚えることの方が残念ながらずっと多くなった。

いや、より正確にいえば「オープンでフリーなインターネット」に文章を発表するときにこそ嫌な気持ちになることが多くなった。――これはおそらく、私にかぎった話ではなく、かなり多くの文筆業者たちに、少なからず同意を得られるのではないかと感じている。オープンでフリーなインターネットになにか文章を出すとき、ワクワクする気持ちや、多くの人に見てもらえる場に発表できてうれしいという気持ちよりも「叩かれませんように」「炎上しませんように」とばかり考えてしまうか、あるいはそもそも書くこと自体を躊躇するようになっている。

「cakes」で頻発していた炎上騒ぎ

近頃頻発していた「cakes」というウェブメディアでの炎上騒ぎを眺めながら、私はさらにそのような実感を強めていた。同社ではまず、連載していた人生相談系のコラムが炎上し、次にホームレスのもとを訪ねてその生活の実情をリポートした記事が炎上、さらに声優・文筆家の浅野真澄氏の連載企画がcakesの判断によって取り下げになってしまった件が大きな火柱を上げた。ごく最近のことなので、覚えている人も多いだろう。

短期間で大きな炎上を重ねるにつれ、cakesというメディアそれ自体に対するバッシングの風潮がSNSを中心に形成されていった。

あさのさんはどうやら勘違いしてますが、掲載できないのは炎上のせいではありません。内容に問題があったのです。昨今のメディアが置かれる状況をご存じないようですが、自殺というのはとてもセンシティブに扱われています。この連載を掲載して生じるリスクについて、あさのさんはどうお考えですか。繰り返し強調しますが、炎上のせいではありませんので――。

あさのますみ『cakes炎上と、消滅した連載』(2020年12月9日)より引用

浅野氏の連載中止について、「自死」は扱うテーマとしてセンシティブすぎる――というのが会社側の連載取り下げの理由説明であったようだ。そこでは、昨今頻発してしまったcakes記事の炎上案件とはあくまで無関係であることが繰り返し強調されていた。

取り下げ判断に至った意思決定プロセスの真相は部外者からはわからないが、しかしひとりの書き手の視点からすれば「炎上は関係ない」という編集側の繰り返しの言明がかえって不信感を強めてしまったようにも見える。

個人的な意見を言えば「炎上が関係ない」ことはまずないだろうと思われる。立て続けに炎上が発生しなければ、おそらく浅野氏のエッセイはそのままcakesでの連載企画が通っていたはずだ。実際のところ、他の「ハイリスク」あるいは「センシティブ」な内容を含む連載企画についても、cakesから打ち切りの判断が下されているようだ。

メディア側にも「炎上しやすい話」を載せる動機がない

cakesが「ハイリスク」「センシティブ」などといった理由によって連載企画を次々に取り下げる判断は、たしかに書き手側からすれば「やってられない」と不満のひとつも言いたくなるようなことではある。

スマートフォン
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/oatawa

個人的にも、かりそめにも表現を鎬(しのぎ)にしている会社なのであれば、センシティブであろうがアグレッシブであろうがアンチポリコレであろうが、それでなにか批判が生じたくらいで動揺せず、超然としているくらいの気概を持ってもらいたいと思っている(その点でいえば「リベラル社会が直面する『少子化』のジレンマ」とか「『#スガやめろ』と大合唱する人たちをこれから待ち受ける皮肉な現実」といった、リベラルで高学歴でアンチ自民党系の人びとがもっぱら声の大きいインターネットで、こうした記事を果敢にリリースしてくれたプレジデントオンラインを尊敬せずにはいられない。これからも炎上に負けず、多様なオピニオンを掲載するメディアとして胸を張っていただきたい)。

しかしながら、メディア側にも少なからず言い分がある。可燃性の高いジャンルをいまの時代にあえて「オープンでフリーなインターネット」で掲載することのメリットがほとんどないことも事実だからだ。カネにもならないセクションでわざわざ炎上するのはバカげている。経営的判断からすれば一定の合理性があるだろう。

「cakesだから叩こう」という風潮ができている

また、このような一連の騒動のなかで「cakesは悪い会社なのだからとりあえず叩こう」という風潮が一部でできあがっていることも無視できない。

今回のcakesの編集部の対応は酷すぎる。

ただ、cakesがこんなに「クリエイターが伝えたいものを載せるために、一定のリスクを受け入れる」ことに及び腰になってしまったのには、最近の「cakes=悪、という先入観にもとづいて、cakesのコンテンツを炎上させることを是とするネットの一部の人々」の影響があると思います。

明らかに「これはひどい、という案件」もあるのだけれど、先日のホームレスの記事などは、媒体が違えば、ここまで批判されなかったのではないか、という気がするのです。

いつか電池がきれるまで『あさのますみさんの連載消滅の件で、「またcakesか!」と思った人たちへ』(2020年12月10日)より引用

メディアを利用する人びとの中には「ノーリスクで叩ける対象を探そう」という目的でメディアをパトロールしている者が少なからずいる。そうした対象を見つけてはSNSで拡散して「炎上」を引き起こす、あわよくば社会的に制裁を加えたり、立場を失わせたりすることまでもを目論む、いわゆる「キャンセル・カルチャー」の仕掛け人となっている。

あわせて読みたい

「炎上」の記事一覧へ

トピックス

ランキング

  1. 1

    雇用保険を否定? 厚労省の暴言

    田中龍作

  2. 2

    石破氏 コロナ報道に強い違和感

    石破茂

  3. 3

    ワクチン接種した日本人の感想は

    木村正人

  4. 4

    トヨタ Apple車参入で下請けに?

    大関暁夫

  5. 5

    京都市財政難 寺社の協力不可欠

    川北英隆

  6. 6

    「もう終わりだ」Qアノンの落胆

    Rolling Stone Japan

  7. 7

    菅政権が見落とした学者の二面性

    内田樹

  8. 8

    立民の「首相答弁が短い」は難癖

    鈴木宗男

  9. 9

    給付金2回目求める声殺到に衝撃

    BLOGOS しらべる部

  10. 10

    極限の克行氏 真相供述で逆転か

    郷原信郎

ランキング一覧

ログイン

ログインするアカウントをお選びください。
以下のいずれかのアカウントでBLOGOSにログインすることができます。

コメントを書き込むには FacebookID、TwitterID のいずれかで認証を行う必要があります。

※livedoorIDでログインした場合、ご利用できるのはフォロー機能、マイページ機能、支持するボタンのみとなります。