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「ボーダー」な弁護士が存在する現実

 「数が増えれば、まがい物も増える」。この論法は、こと弁護士の増員に関して言えば、およそ弁護士自身の口からは言いたくても言えないことに属してきました。「増えたら悪くなるぞ」という風に聞こえれば、当然、増員反対を弁護士自身の保身と批判的に見ている人々からは、「脅迫的」という言葉が被せられることが予想できますし、なによりも自浄作用という意味で、自治そのものを担う資格を問われかねないという脅威もあるからです。かつて、ある弁護士は「口が裂けてもいえない」と言いました。

 ただ、逆に言うと、これが現実であることを、実は多くの弁護士は認識しています。これまでの一定の弁護士数のなかに、「まがい物」が混在することを防げなかった「実績」を考えれば、余程の妙案(それが果たして本当に存在するのかは別にして)でもない限り、母数が増えれば、少なくともその割合で、そうしたものが混入してしまうのは当たり前です。

 そもそもあってはならないことを、増えれば増えるということが、責任放棄につながる、という使命感は理解できても、一方で現実は現実として受けとめざるを得ないようにも思います。

 成年後見監督人の立場を利用し、後見を受けていた福岡県内の女性の財産約4400万円を詐取したとして、元九州弁護士会連合会理事長が逮捕された事件(「不祥事の理由とされた『会務多忙』」 「大新聞が着目した弁護士増員の『実害』」)で驚いていたらば、今度は大阪で、債務整理の委任を受けた会社役員から額面6000万円の小切手1枚を詐取したとして、大阪弁護士会所属の弁護士が詐欺容疑で逮捕されました。同弁護士は数億円の借金があった、という報道もあります。

 金銭絡みのべテランの不祥事が相次いで報じられ、弁護士間からも深刻に受け止める声が聞こえてきます。金銭絡みの不祥事は、今回に限ったことではないという見方もできますが、今回の件も弁護士の相当なイメージダウンにつながることは間違いありません。

 これを前記したような「増えれば悪くなる」ということにつなげた場合、そこに「粗製乱造」という意味をとらえる人は、「悪くなっているのは、既存のベテラン弁護士で、新人ではないではないか」という突っ込みを入れたくなると思います。ただ、前記意味はそれだけではない。「悪くする」ということでもあるのです。

 つまりは、経済的にも倫理的にも、「ボーダー」な人間がいるという現実です。増員による経済的な困窮がなければ、不祥事に手を染めなかった層が、崩れだしているということです。経済的な問題だけを理由にできないことは、同じように厳しくても、だれもが犯罪行為に手を染めるわけではないことでも明らかです。倫理面において、弁護士として、あるいは人としての自覚に欠けていることは否定できません。

 もちろん、そのこと自体は、問題にしなければなりません。なぜ、そうした職業倫理、あるいはそれ以前の倫理において、欠けた人間が、弁護士バッヂをつけているのか、ということは、社会的に大きな責任を背負っている「資格」である以上、これは問われ続けなければなりません。

 ただ、現実問題として境界線上に位置しているような弁護士たちの不祥事の今後をどう考えるのか、という問題もあります。増員による競争の激化を肯定する見方に立つ人は、こうしたボーダーな弁護士がこの政策によってあぶりだされる効用をいうと思います。これが淘汰であり、いわば浄化であると。

 しかし、一方で、追い詰めれば追い詰められるほど、高いハードルがしかも大量の弁護士にかけられれば、その数が現実的に増えることは、冒頭の理屈から言っても覚悟しなければなりません。そして、それでも手を染めないという人物だけに、バッチを与えるということ、極力「資格」の責任においてそれを現実化する具体的な見通しがなければ、淘汰と浄化がいつまで続き、その間、今回ような犠牲者が、今回のように社会的に注目されないものを含めて、どれくらい出るのか、という問題は、それこそ現実的に存在しています。

 もちろん、既存の「ボーダー」弁護士の問題だけではありません。新人は覚悟してこの世界に来るのだから大丈夫、といえる状況なのかどうかも考えなければなりません。

 つまり、評価の分かれ目は、この現実問題の対策を、淘汰・浄化への丸投げでいいのかどうか、ということに尽きます。これを、そこまでリスクが伴う増員のメリットととれるのか、逆にいえば、そこまでして増員するメリットが他にあるのか、そこを問い直す必要があります。もちろん、今回の件だけを取り上げて、淘汰が成り立つのか、という根本的な問題もあります。不利益を依頼者が把握しきれないという弁護士という職業の危険な一面もあります。そこを自己責任に、丸投げすることも妥当だとも思えません。

 弁護士が自覚を強めることも、あるいは組織的に「倫理」面で研修などを通して、間違っても手を染めることがない存在になり続ける努力はして頂かなくてはなりません。ただ、一方で、法曹養成という「資格」の質に対する責任がある側までが、なぜ、そんな人間に「資格」が与えられたのかにこだわるのではなく、あくまで淘汰と浄化への丸投げを言う状況は、現実的な問題への正しい姿勢といえるのか、という問題があります。

 先日、市民集会で「増えれば、まがい物が増える」という趣旨を、堂々と言った弁護士がいました。「べき」論以前に、この現実を正直に提示したところから、是非を論じなければ、実害が生まれることを防げない現実もあるように思います。

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