
万が一、新型コロナウイルスに感染してしまった場合、悩ましいのが「どこまで伝えるか」という問題だ。勤務先には報告すべきだろうが、「プライベートな人間関係」への対応は難しい。10月に感染した千葉県在住で、小学校6年生の息子を持つ40代パート主婦Aさんが言う。
「宿泊施設での療養になり、暇だったので、ママ友に『感染しちゃった。でも無症状です』とLINEしたんです。するとグループLINEで、『なぜもっと早く言わないの!』『いつから症状が出たのよ!』と大騒ぎに。
保健所は『ママ友は濃厚接触者ではない』と判断したのですが、当人たちにすれば、『危うくうつされるところだった』『中学受験の追い込みの時期に感染するなんて、なんて意識の低いママだ』ということだったよう。退所以降、ママ友らとの関係が疎遠になり、ランチ会に呼ばれなくなりました。こんなことになるなら黙っておけばよかったと後悔しています」
恋人との破局を恐れて感染を黙秘したのは、都内在住の30代女性会社員Bさん。
「感染がわかる直前、まだ恋人未満だった彼と食事に行きました。感染後に保健所から聞き取り調査されたとき、彼のことを話したら濃厚接触者になって、仕事にも影響が出て嫌われてしまうと思い、彼とのことは黙っていました。療養から復帰したら真実を打ち明けようと思っていたけど、『なんで、言わなかったのか』と責められるのが怖くなってやめました。そのことは墓場まで持っていくつもりです」
「食事をした程度の関係」ならば隠してもいいのか。新中野耳鼻咽喉科クリニック院長の陣内賢さんはいう。
「元気に会食ができている時点で参加者は『無症状』だったと考えられます。無症状者の感染はほぼ経路がたどれず、誰が誰に感染させたか不明なケースが多いので、会食した人に感染について直接伝えなかったとしても、後で『あなたにうつされた』と言われるのは筋違いです。ただし、感染拡大を防ぐため、保健所と当事者に包み隠さず話すことが当然であり、その上で後のことは、保健所の判断に委ねるべきです」
自分が感染したとき以上に悩ましいのが、「親族が感染した」ケースだ。都内在住の40代パート主婦Cさんは義母が感染した。
「高齢なので会わないようにしていましたが、外せない要件で顔を合わせた直後に義母が感染。私は濃厚接触者ではないと判断されましたが、周りに知らせることが大事だと思い、学校や子供の塾に『実は義母が感染しまして』と連絡しました。それが大失敗で、あっという間に噂が町内を駆け巡って、ご近所さんから白い目で見られるようになり、塾からも『お子さんの通塾は控えてはいかがですか』と言われました。よかれと思ったのに、残念です」
夫が感染した大阪在住の50代パート主婦Dさんも苦しい胸の内を明かす。
「以前、私のパート先にご主人が感染した女性がいたのですが、その人は検査で陰性だったのに、『ほとぼりが冷めるまで控えて』と社員から暗に言われ、パートをお休みしていました。私も陰性でしたが同じようになるのが怖く、夫が感染したことは職場に隠しています。ただでさえコロナでパートの勤務時間が減ったのに、給料がカットされたら暮らしていけませんから」
自らが感染していない場合は、どこまで隠すことが許されるのか。陣内さんは「あくまで自分の検査結果がポイント」と指摘する。
「家庭内から陽性者が出たら基本的に家族は濃厚接触者となり、検査を受けます。その際に陰性であれば、わざわざ第三者に伝える必要はありません。逆に伝えることで無用なトラブルを招くケースがあるようです」(陣内さん)
厚労省が推奨する新型コロナウイルス接触アプリ「COCOA」を利用していると、濃厚接触者に通知が届く。ただ、過去2週間以内に身近に接した人に感染者や症状がある人がいない場合、「普段通りの生活をしていい」と厚労省は説明する。通知が来ても、焦らなくて大丈夫なのだ。
※女性セブン2021年1月7・14日号