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【読書感想】ならずもの 井上雅博伝 ――ヤフーを作った男

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ならずもの 井上雅博伝 ――ヤフーを作った男
作者:森 功
発売日: 2020/05/29
メディア: 単行本



Kindle版もあります。

ならずもの 井上雅博伝 ――ヤフーを作った男
作者:森功
発売日: 2020/05/28
メディア: Kindle版

日本一成功したサラリーマンは、都営団地に生まれた庶民の子だった。

1996年1月、ソフトバンク社長室の一角で『Yahoo! JAPAN』は産声を上げた。専属スタッフわずか3名のその会社を、「年商1兆円」の巨大IT企業に育て上げた男の名は、井上雅博。

世田谷の都営団地に生まれ、孫正義に見出された男は、ヤフーを爆発的に成長させ、サラリーマンでありながら1000億円と言われる資産を手に入れた。ひっそりと実業界を去った井上は、桁外れの趣味の世界に溺れ、17年4月にカリフォルニアのクラシックカーレースで非業の死を遂げる。

ヤフー・ジャパン、そして日本のインターネット産業の裏面史を、大宅賞作家が描く

 僕は1990年代の終わりからインターネットをやっていて、2001年から本格的に個人サイトを始めたのです。

 当時の個人サイトの運営者にとっては、「ヤフーに自分のサイトを登録してもらう」というのが大きな目標で、何度もヤフーに登録申請したものの、全く梨のつぶてだったことを思いだしました。

 こういう人たちが、ヤフー帝国をつくりあげ、僕のサイトを審査していたのかなあ、なんて考えながら読んだのです(井上さん自身は個々のサイトの審査はしていないでしょうけど)。

 あの頃も、今も、ヤフーは日本のインターネットの中心のひとつであり続けているのです。

 言うまでもなくヤフー・ジャパンは、ソフトバンク創業者の孫正義が米ヤフーと事業提携を結んで立ち上げた日本法人である。米国のビジネスをそっくり輸入している。孫の始めた事業というイメージが強い。事実、1996年1月、日本法人としてヤフー・ジャパンを設立したときの初代社長には孫が就いた。

 だが、実のところ、孫自身は日米のヤフーの事業そのものにほとんどタッチしていない。創業半年後に社長に座った井上が、日本におけるサイトのシステムをいちから立ち上げた。それが、日本におけるインターネットポータルサイトの草分けとなり、現在にいたっている。

 井上は事実上のヤフー創業者であり、現在のヤフーがあるのは井上の功績だ、と孫を含め、関係者の誰もが口をそろえる。のちに米国にあった本家のヤフーは同業のGAFAに押されて廃業し、いまやヤフーと名のつくサイトの運営会社は日本にしか存在しない。それも井上の経営判断がもたらした結果といえる。

 ヤフーという風変わりな社名は、ジェリー・ヤンとデビッド・ファイロという米スタンドフォード大学の学生が起業したときに考案された。社名をガリバー旅行記に出てくる野獣「ヤフー」から付けたとされる。粗野で型破りな「ならずもの」という意味があるから、二人が自虐的に社名に選んだとの説がある。となると、ヤフー・ジャパンを創業した井上は「ならずもの」集団の日本代表の地位に就いたことになる。

 井上さんは、日本のインターネットの発展に大きな功績を残し、ヤフー・ジャパンが株式を公開後、1株あたり1億6000万円という株価をつけたことによって、億万長者になりました。

 著者は「一説によれば、総資産は1000億円とも、それをはるかに上回るともいわれる」と書いています。

 ただし、井上さんは、自らリスクを取って起業したのではありません。

 ソードという会社からソフトバンクに転職し、孫正義社長にヤフー・ジャパンの責任者として抜擢され、そこで頭角をあらわして、ストックオプションという自社株の割り当て制度によって、大金持ちになったのです。

 事実上の創業社長ではあるが、私財を投じて事業を立ち上げた事業家ではない。一介のサラリーマンからここまで成りあがってきたのである。

「井上さんはヤフーを創業しましたが、ひとつの企業の設立というだけにとどまらない。日本のインターネット産業をつくったといったほうが適切でしょう。だから起業家ではなく、産業家なんです。スマートフォンをつくったアップルのスティーブ・ジョブズやアマゾンのジェフ・ベゾスと同じように、井上さんはインターネットの産業家なのです。だから、われわれでは敵いません」

 井上に後継指名されて社長になった宮坂はこう言った。その宮坂から2018年6月、社長と最高経営責任者(CEO)を禅譲されたのが、川邊健太郎だ。

「ヤフーは井上さんがつくったサービスなんです。今もそれを僕たちがお預かりしている。現在のビジネスはこれまでのPC事業からスマートフォンの世界でそれを大きくできるか、という話にすぎません」

 川邊は井上のことをこう表現した。

「井上さんはノーリスクのサラリーマンとして、日本で最も成功をおさめた人です。それは間違いない」

 この本のなかでは、井上さんの仕事ぶりや孫さんとの関係について、関係者の証言も含めて語られています。

 井上さん自身は、飛びぬけて優秀なプログラマーでも、プライベートを捨てて仕事に邁進するタイプでもなかったけれど、「今、何をやるべきか」「どういう人がヤフーに必要か」というのを的確に判断する能力を持った人だったようです。

 孫正義さんに、率直にものを言える数少ない人のひとりであった一方で、社内では信頼する部下を介して孫社長とやりとりをして、直接ぶつかるのを避けるなど、微妙な距離を保っていたのです。

 お互いに信頼はしているのだけれど、煙たい存在だったのかもしれません。

 井上さんがゴルフをやらない理由を尋ねられて、「自分がゴルフをやるようになったら、休みの日も(ゴルフ好きの)孫さんに付き合わされるから」と言っていたというエピソードも紹介されています。

 そういう井上さんをずっと重用してきた孫さんも、自分に必要な人間を理解していたのだなあ、とも思うのです。

 アリババへの投資とヤフー・ジャパンがなければ、今のソフトバンクは存在していないのですから。

 ヤフー・ジャパンのサービスがはじまったのは、1996年の4月だったのですが、わずか3ヶ月で、この日本初のインターネットのポータルサイトは立ち上げられたのです。

 そんな黎明期のヤフーで、井上さんは必要な人材を次々に採用していきました。

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