
■日本では考えられないが、アメリカ小売業界では返品に関して極めて寛大だ。見方を変えれば「100%満足度保証」の返品制度は商品やサービスに無料のお試し期間があるということになる。
一般的に「購入して30日以内であれば返品可能」は30日間の試用期間があるということだ。顧客の主観的な判断となる、好きか・嫌いかの満足感の尺度が返品理由になる。
無料お試し期間があるから迷うことなく顧客はひとまず購入する。気に入らなければ返品すればいいので実際に買って使ってみようと思うわけだ。仮にその商品が気に入らなくても、返品できる気軽さから顧客はまた他の商品を購入する。
寛大な返品制度があれば顧客は一生、様々なモノやサービスをそのお店で購入することになる。一人のお客が一生のうち、そのお店で使う総額が最大になる。そうやってお店は顧客の生涯価値を最大化できるのだ。
カスタマー・ライフタイム・バリューの最大化を理由にアメリカに返品制度があるのだ。
なおアメリカの「無条件返品」は100年以上の歴史があり、返品にかかるコストは利益に盛り込んでいる。返品ありきのコスト構造となっているのだ。
大手チェーンストアでは返品時の手間をなくす、ストレスフリー・リターンが拡大している。ウォルマートではアプリを使ったユニークなストレスフリー返品を行っている。
eレシートを使った返品は、利用者が事前にウォルマート・アプリ上で返品処理を行うことで返品スピードを早める方法だ。
ウォルマートでモバイル決済の「ウォルマート・ペイ(Walmart Pay)」で購入した商品やオンラインストアのウォルマート・コムで購入した商品が対象となる。
イージーリターン(モバイル・エクスプレス・リターン)は、購入した商品の中から返品したい商品をアプリ上で選択しておく。
ウォルマートのお店では、カスタマーサービスにあるモバイル客専用に設けた「モバイル・エクスプレス・レーン」のデスクで、アプリを使いQRコードをスキャンする。
アプリとレジの同期後、返品する商品のスタッフ確認で完了となる。返品完了はアプリ上でも確認でき、早ければ翌日中には顧客のアカウントやクレジットカードに返金される。
さらに驚くべき返品方式がウォルマートにある。食料品や洗剤などの日用品、化粧品など一部商品を対象にお店に返品しなくても返金するサービスを行っているのだ。
イージーリターンと同じくウォルマート・アプリにあるeレシートから返品したい商品を選択すると「返品する必要はありません(No need to return it)」と表示され、同時に返金もされるのだ。
つまりウォルマートの店内で購入直後にこの返品手続きを行えば、実質的に0円で商品を持ち帰れることになる。
週客1.4億人となるウォルマートでは返品後に破棄するような食品等は、返品利用者に自由にしてもらうほうが安上がりとなるのだ。
パンデミックの影響でスタッフと相対しない、コンタクトレスな返品手続きにしておくのもストレスフリーになる。
ソーシャルディスタンシングなどの対策をとるウォルマートでは、返品を持ってこられるより返品行列を少なくもできるのだ。またお店で働くスタッフにとっても返品を介して感染するリスクも避けられる。